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ジューダス・クライスト【第三十七話】お題:異世界転生・歴史探訪 嘘つき同士の友情・最期の晩餐 希望と空虚・臆病者 据え膳食わぬは男の恥 正解と正しいは違う 枯れた大地に所々咲いている大輪の赤い花。 白い雪。 サタンの暴虐によって齎された血と骨は ペルシア軍に甚大な被害を齎し その兵力は実に五万にまで削られていた。 激怒したクセルクセスは 全軍にレオニダスを討ち取るよう命じた。 その際 あのサタンを召喚したのもレオニダスだ。 ということにして吹聴し ペルシア軍の怒りを煽った。 ペルシア兵たちは 悪魔舌鋒を浴びせられた上に 本物の悪魔に蹂躙されて もはや精神が滅茶苦茶だった。 そこへクセルクセスの号令が出たものだから 彼らは全ての理不尽 不条理の責任の所在をレオニダスに据えた。 結果、全員がクセルクセスの如く ござっているベルセルクと化した。 移動宮殿周辺のペルシア兵も 前線のペルシア兵も もはや区別なくスパルタ軍の陣取る隘路へ 進路を取り、鉛色の奔流となって 地を呑みながら押し寄せた。 しかし、その奔流を 真っ向から切り裂く一陣の刃があった。 否。それは刃というより鉄の礫であった。 一人のスパルタ兵が 周囲から襲い掛かる鉛の津波を 次々と砕けた飛沫に変えていく。 「逃げるやつは蛮族だ! 逃げないやつは訓練された蛮族だ! 死んだペルシア兵だけが 良いペルシア兵だ!」 魔剣ガンモドキを乱射しながら 筆山は乗りに乗っていた。 誰も彼の怒涛を止められる者はいなかった。 そして彼が通った後には 一片の士気も残らなかった。それはそうだ。 毎秒十を超える鉄塊が その先端から迸る剣を見て 正気でいられるペルシア人などいない。 その実、筆山は焦っていた。 もしまたサタンが戻ってきたら こんなマシンガンもどきは 援護の役にも立たない。 それまでに何とか クセルクセスの首を取らなければ。 その意志は 大鎌を振り回す死神の影となって 電光石火の勢いで 移動宮殿を脅かしつつあった。 一方で筆山を欠いた スパルタ軍は劣勢であった。 隘路に突撃してくる 前線のペルシア軍たちは完全に発狂していて 隊列も槍衾も関係なく突撃してくる 人間爆弾と化していた。 一人に槍が突き刺さっているのを乗り越えて 更に数人が詰めかけてくる。 流石のスパルタもこれには 後退せざるを得なかった。 すると、指揮を執っていた絵守の目に 信じられない光景が映りこんできた。 後退した先の道から 別のペルシア軍が押し寄せてくる。 その数、数千か数万か。 少なくとも、その隊列の厚みが こちらの数倍であることは確かだった。 ペルシア軍迂回部隊の 陣頭指揮を執っていたのは クセルクセスに邪教を唆した 近衛の男だった。 「隊を分けろ!西に百!東に百! 残りの軽装兵はペルシア軍の死骸から 弓なり槍なりを取って双方の援護に回れ!」 絵守は固まって挟撃される前に 自ずから東に討って出た。 やがて近衛の男の部隊と 僅かな距離を空けて睨み合った。 「何故、迂回路がわかった? ギリシャ兵は全て撤退させたはず」 近衛の男が笑いながら応えた。 「そうか。裏切りが出ないよう 先手を打っていたとは、中々やる。 しかし既にペルシアに下ったギリシャ兵が この戦い以前にいたとしたら?」 「貴様がそうだというのか」 「ご名答。 邪教徒たちも元々ギリシャの 辺境にいた蛮族だったんだが 全く見事なものだったな」 「自軍を滅茶苦茶にしておいての 感想がそれか」 「自軍? 別に俺にとっては ギリシャもペルシアもない。 俺は上手く立ち回って 面白いものが見たいだけだ。 クセルクセスの発狂は噴飯ものだったぞ。 これだから戦場の人間は面白い」 「なるほど。 貴様のような偏執狂のおかげで テルモピュライの惨劇は 端から避けられない運命だったわけだ。 だがね。生憎、僕は裏切りを最も憎む者だ。 僕自身の裏切りの汚名を雪ぐためにも 貴様のようなヤツは生かしておけない」 そう言って絵守は全軍に号令を下した。 スパルタは、眼前の大軍に向けて 騎虎の勢いで突撃を開始した。 筆山が移動宮殿を蜂の巣にし 周辺ほとんどのペルシア兵を殲滅した時 隘路の方から大きな花火が上がった。 空に『JACKPOT』と大きな ふざけた火文字が浮かんで消えた。 なんだか嫌な予感がする。 筆山は踵を返してスパルタ軍の元へ急いだ。 隘路は、死屍累々だった。 挟撃を受けたスパルタ軍はほぼ全滅。 しかしペルシア軍も そのほとんどを削られていた。 追い込まれたスパルタの猛攻が 余程凄まじかったのか もはや戦意を以て前に出ようという ペルシア兵はいなかった。 その中心で、相打ちのように互いを 槍で貫いて膝をついている兵士が二人。 一人はペルシア迂回部隊指揮官である 近衛の男。 もう一人は、絵守であった。 🍎アカリ🍎 X 𝐈𝐧𝐬𝐭𝐚𝐠𝐫𝐚𝐦 公式LINE ✉️arabi_akari_otoiawase@outlook.jp ご予約詳細は🈁ブログ一覧
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ジューダス・クライスト【第三十五話】お題:異世界転生・歴史探訪 嘘つき同士の友情・最期の晩餐 希望と空虚・臆病者 据え膳食わぬは男の恥 正解と正しいは違う その瞬間 絵守の頭の僅か上辺りの空間に突然 ガラスを殴ったようなヒビが入った。 次の瞬間、そのヒビを突き破って 何かが飛び出してきた。 空の景色が、割れたガラスのように 粉々になって四方に飛び散った。 彼方から飛び出してきた塊は 筆山の前に立っていた。 胸元が大きく開いた黒シャツ。 その下のしなやかに鍛え上げられた筋肉。 黒皮のパンツにブーツ。 背に大剣を携えて 両手には拳銃を構えている。 膝下まである赤いレザーコートに 身を包んだその男の顔は かつての筆山と同じ顔をしていた。 「筆山君。彼はどうも 今生の君の顔にそっくりだがね。 知り合いかい?」 絵守にそう問われて 筆山の脳髄に電流が走った。 彼は全てを思い出した。 そう、あの時の全てを。 「お前!トニー!トニーだろう! このドイツ軍の裏切り者め! あのクリスマスの塹壕で くたばってなかったのか!」 トニーはムッっとした表情で筆山を睨むと 以前より少し流暢な口調で話し出した。 「サタンを追って来てみれば 嫌なヤツに会いました。 当時の私は憑依体質。 人の夢に魂を憑依することができました。 しかし、私の憑依力は微弱なものだったので 憑依したところで 身体の主導権は当人のまま。 私はただ魂として見ているだけ。 筆山さん。私は確かに あなたの夢にあの時憑依していました。 しかし先にも言ったように 私の憑依力は弱く 魂の半分も移すことができません。 大体、四分の一程度でしょうか。 それだって、あなたが夢の中で死 ねば 私の寿命は四分の一が とこ失われることになります。 私はあなたの他に 波佐間という男にも憑依していました。 彼も最終的には撃ち殺されてしまいました。 私の寿命はこれで残すところ僅か半分。 もう半分の寿命は 本物の私の魂にありました。 その行方は、あの時の私にも わかりませんでした。 ところが 残った私の魂はあなたの中にいた。 本物の私の魂は、フランス軍を抜け フラフラしているうちに ドイツ人に間違えられて前線に加えられ わけもわからず戦っていたのです。 それをあなたはいきなり殴り倒した。 おかげで私の寿命はカラッキシ。 これはあの時のお返しです。 謹んで受け取ってお納めくださりやがれ」 トニーの姿が筆山の視界から消えた。 と、思った瞬間 筆山は遥か後方に 十数メートルも吹っ飛んで転がっていた。 「ま、待て。暴力はいけない。 そもそも君が隊を脱走なんてしたから 僕があんな目に会ったんじゃないか」 筆山は夥しい量の鼻血を 地面にぶちまけながら 膝をついて情けなく抗議した。 「どの口が言いますか。 まあ、過ぎたことはもうどうでも良いです。 不幸中の幸いにして 絵も入賞したことですし」 「絵ってなんだい? あの、僕らが夜道で殴り合いをしている 粗野な絵かい」 「え?ではあなたは、あの絵の作者? 非業の死を遂げた天才画家 トニオ・サルバドール・ マクダニエル・ゴンザレスさんですか?」 絵のことを聞いていた絵守が 握手会で推しと初対面中。 みたいなキラキラした瞳をトニーに向けた。 「トニー。 君、そんなめんどくさい本名を 背負っていたのか」 筆山は既にトニーの本名を 出鱈目なダウナー交わしつつ 忘却の空へと屠っていた。 「そういうあなたは、絵守画伯ですか。 あなたの絵も実に素晴らしかったですね。 個人の多面性と それに付随する幾重もの可能性が あのシンプルな佇まい一つに 集約されていました。 あれは生中な観察眼で 為し得る技ではありません」 トニーの賛辞を受けた絵守は ライブ中の推しに過剰なレスを貰った人。 のような感じで恍惚としている。 「お近づきの印に この剣を差し上げましょう」 トニーは何もない空間から 直剣のような形状の武器を取り出し 絵守の前に突き立てた。 「黄泉から持ち帰った魔剣ガンモドキです。 それを使えば あの軍勢相手でも何とか戦えるでしょう」 「なんと。 トニオ・サルバドール・ マクダニエル・ゴンザレス画伯から 直々に美術品を贈呈していただけるなんて」 「絵守君。美術品じゃなくて武器だろう。 しかし今の僕たちにとっては渡りに船だな。 まさに僥倖じゃないか」 筆山はフラつく足取りで絵守に近付き 剣を取るようその背を押した。 絵守が地面に突き刺さった 直剣に手をかける。 ビクともしなかった。 「トニオ・サルバドール・ マクダニエル・ゴンザレス画伯。 なんですかこの剣。 スパルタの膂力を以てしても抜けないとは あれですか。 アーサー王伝説的なヤツですか」 「そういえば 考えたこともありませんでした。 魔剣や聖剣には 選ばれたものにしか抜けないという 解放条件があるらしいですね」 トニーがうっかりしていました。 という風に頭を掻いた。 その時、大きな地鳴りがした。 ペルシア軍の方からだ。 見るとサタンが 移動宮殿から動き始めていた。 一歩ごとにペルシア兵を巻き添えにし 曠野に赤い花を咲かせながら前進している。 「ちょっと待った。 イチャイチャしてる場合じゃないぞ。 絵守君。魔剣だか駄犬だか知らないが 命が惜しければ早く抜きたまえ」 筆山はそう言うと 絵守の手の隙間から直剣の柄を掴んだ。 剣は、いとも呆気なくヌルンと抜けた。 🍎アカリ🍎 X 𝐈𝐧𝐬𝐭𝐚𝐠𝐫𝐚𝐦 公式LINE ✉️arabi_akari_otoiawase@outlook.jp ご予約詳細は🈁ブログ一覧
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