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ジューダス・クライスト【第三十九話】お題:異世界転生・歴史探訪 嘘つき同士の友情・最期の晩餐 希望と空虚・臆病者 据え膳食わぬは男の恥 正解と正しいは違う 目を覚ますと 筆山は六畳一間で カップ麺を吐き出しながら ゲホゲホと咳き込んでいた。 どうやら、戻ってきた。 戻ってきてしまった。 生き残ってしまった。 筆山の目から涙は枯れ 代わりに鼻から豚骨が垂れていた。 数日後。筆山は絵守の墓石の前にいた。 そして、なけなしの金で買ってきた 紹興酒を墓の頭に浴びせながら独り言ちた。 「絵守。僕たちがなんだって あんな世界に飛ばされたのかは わからないがね。 僕は感謝しているんだ。 僕が君に会いに行かなかったのは 僕が一向に筆を執らなかったのは 白状する。怖かったんだ。 君は賞を取って世間に受け入れられた。 そして僕の元を訪ねてこなくなった。 癇癪を起こして君を殴った僕は 豚箱で辛酸を舐めた。 二年経って やっと娑婆に戻ってきたと思ったら 君は更に遠い界隈へ行ってしまっていた。 君に追いつくために 僕も世に認められる大作を 書かなきゃいけないと思った。 地位も名誉も 君のサイドミラーから消されたような状態で 一体どんな顔をして 君に会えばいいのかわからなかった。 それに、あんな経験をして書いたものが もし愚作だったら 僕は私小説家として終わりだ。 そんなプレッシャーが 無意識に双肩に圧し掛かって 僕を布団に磔にしていた。 つまりは、僕は自分が書いたものが つまらなかったらどうしよう 評価されなかったらどうしよう なんていう下らない 臆病風に吹かれていたのさ。 それで、その風が余りに寒いものだから 君や世の中を持ち出してあーだこーだと 堕落した現状を正当化するために やらない理由を拵え続けていた。 ヌクヌクと何もせずに。 ひょっとしたら 君の方から訪ねてくるんじゃないか 君の方から堕落して 僕のところへ堕ちてくるんじゃないか なんて益体もないことを期待して。 呆れた怠慢さ。 全く度し難いベルフェゴールだよ。 でも僕はあの世界で バアル・ペオルになるくらいの 気概は得たんだ。 七大罪の悪魔からペオル山の主神へ 先祖返りして立身出世する。 その気概ってのはね。 とにかくグダグダ言わずにやることさ。 笑っちゃうくらいに単純だろう? でも 世の中なんてそんなものだと思わないかい? 一つ、僕は君に約束をする。 僕は君との冒険を無駄にはしない。 命を賭して あの世界で起こったことを全部 作品にしてみせる。 そしたら君、どれだけ凄いものになるか わかりゃしないよ。 なんせこんな エキセントリックな私小説を書けるのは 古今東西探しても 僕しかいないだろうからね」 筆山は絵守を見送り、そこから一か月間。 缶詰めになって小説を書き続けた。 それは筆山にとって最初の勇気だった。 それは筆山と絵守にとって 最期の思い出だった。 気が付けば、呑まず食わずだった。 筆山は 身体に栄養がなくなってダメになっても 魂だけで書き続けた。 席を立ってしまえば 二度と戻れない気がした。 絵守との約束を守る。 その一心で書き続けた。 そしてちょうど一ヶ月後。 筆山文彦史上初の大長編が完成した。 その原稿を前に 筆山は満足に微笑んでいた。 既に肉体は事切れていた。 しばらくして筆山の遺作が発表された。 『ジューダス・クライスト』。 その異色な説得力に人々は不思議と心打たれ 『ジューダス・クライスト』 は権威ある賞を総舐めにし 私小説にして 現代文学の最高峰とまで絶賛された。 非業の死を遂げた天才として トニオ・サルバドール マクダニエル・ゴンザレスの 再来とも評された。 そういえば顔がそっくりだ ということも話題になった。 むしろそっちの方が 都市伝説として盛り上がった。 ドッペルゲンガー説、双子説、復活説 果ては陰謀論にまで波及して オカルト界隈やディープステート界隈は 空前絶後の盛り上がりを見せた。 どこかで誰かが私を呼んでいる。 暗闇の中で目を覚ました筆山は その声だけを聴いていた。 やがて声は 闇の中から実体を伴って顕れた。 「遅かったじゃないか、筆山。 早くこれに着替えて準備をしてくれ。 まだ僕たちの目的は 達せられてないんだからね」 赤い外套を身に纏った絵守が 闇の中に口を 開いた光を背にして立っていた。 その手には 同じような装備が抱えられている。 「絵守。どうしたんだい君、その恰好。 まんまトニーじゃないか」 「僕もデビルハンターに 転生させてもらったのさ。 なんせ僕はまだ あのサタンの口からユダを救えていない。 ユダの言葉の意味が 『裏切り』じゃなくなるまで 僕の戦いは終わらないよ。 勿論、手伝ってくれるよな。相棒」 絵守は装備を筆山の目の前に置いて 座っている筆山を 粗相したカツオを見下ろす 波平のようなポーズで見下ろしていた。 「わかったよ。 僕もヤツにやられっぱなしじゃ 終われないしね。 それに、コキュートスの氷を全部溶かして 希望に変えてやらきゃならない。 僕は焼きたてのパンになりたいと 願ったことがあったがね。 やはり僕は焼く側の人間なのさ」 筆山はそう言うと装備を身に纏い 外套を翻して光の彼方へ消えていった。 🍎アカリ🍎 X 𝐈𝐧𝐬𝐭𝐚𝐠𝐫𝐚𝐦 公式LINE ✉️arabi_akari_otoiawase@outlook.jp ご予約詳細は🈁ブログ一覧
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ジューダス・クライスト【第三十七話】お題:異世界転生・歴史探訪 嘘つき同士の友情・最期の晩餐 希望と空虚・臆病者 据え膳食わぬは男の恥 正解と正しいは違う 枯れた大地に所々咲いている大輪の赤い花。 白い雪。 サタンの暴虐によって齎された血と骨は ペルシア軍に甚大な被害を齎し その兵力は実に五万にまで削られていた。 激怒したクセルクセスは 全軍にレオニダスを討ち取るよう命じた。 その際 あのサタンを召喚したのもレオニダスだ。 ということにして吹聴し ペルシア軍の怒りを煽った。 ペルシア兵たちは 悪魔舌鋒を浴びせられた上に 本物の悪魔に蹂躙されて もはや精神が滅茶苦茶だった。 そこへクセルクセスの号令が出たものだから 彼らは全ての理不尽 不条理の責任の所在をレオニダスに据えた。 結果、全員がクセルクセスの如く ござっているベルセルクと化した。 移動宮殿周辺のペルシア兵も 前線のペルシア兵も もはや区別なくスパルタ軍の陣取る隘路へ 進路を取り、鉛色の奔流となって 地を呑みながら押し寄せた。 しかし、その奔流を 真っ向から切り裂く一陣の刃があった。 否。それは刃というより鉄の礫であった。 一人のスパルタ兵が 周囲から襲い掛かる鉛の津波を 次々と砕けた飛沫に変えていく。 「逃げるやつは蛮族だ! 逃げないやつは訓練された蛮族だ! 死んだペルシア兵だけが 良いペルシア兵だ!」 魔剣ガンモドキを乱射しながら 筆山は乗りに乗っていた。 誰も彼の怒涛を止められる者はいなかった。 そして彼が通った後には 一片の士気も残らなかった。それはそうだ。 毎秒十を超える鉄塊が その先端から迸る剣を見て 正気でいられるペルシア人などいない。 その実、筆山は焦っていた。 もしまたサタンが戻ってきたら こんなマシンガンもどきは 援護の役にも立たない。 それまでに何とか クセルクセスの首を取らなければ。 その意志は 大鎌を振り回す死神の影となって 電光石火の勢いで 移動宮殿を脅かしつつあった。 一方で筆山を欠いた スパルタ軍は劣勢であった。 隘路に突撃してくる 前線のペルシア軍たちは完全に発狂していて 隊列も槍衾も関係なく突撃してくる 人間爆弾と化していた。 一人に槍が突き刺さっているのを乗り越えて 更に数人が詰めかけてくる。 流石のスパルタもこれには 後退せざるを得なかった。 すると、指揮を執っていた絵守の目に 信じられない光景が映りこんできた。 後退した先の道から 別のペルシア軍が押し寄せてくる。 その数、数千か数万か。 少なくとも、その隊列の厚みが こちらの数倍であることは確かだった。 ペルシア軍迂回部隊の 陣頭指揮を執っていたのは クセルクセスに邪教を唆した 近衛の男だった。 「隊を分けろ!西に百!東に百! 残りの軽装兵はペルシア軍の死骸から 弓なり槍なりを取って双方の援護に回れ!」 絵守は固まって挟撃される前に 自ずから東に討って出た。 やがて近衛の男の部隊と 僅かな距離を空けて睨み合った。 「何故、迂回路がわかった? ギリシャ兵は全て撤退させたはず」 近衛の男が笑いながら応えた。 「そうか。裏切りが出ないよう 先手を打っていたとは、中々やる。 しかし既にペルシアに下ったギリシャ兵が この戦い以前にいたとしたら?」 「貴様がそうだというのか」 「ご名答。 邪教徒たちも元々ギリシャの 辺境にいた蛮族だったんだが 全く見事なものだったな」 「自軍を滅茶苦茶にしておいての 感想がそれか」 「自軍? 別に俺にとっては ギリシャもペルシアもない。 俺は上手く立ち回って 面白いものが見たいだけだ。 クセルクセスの発狂は噴飯ものだったぞ。 これだから戦場の人間は面白い」 「なるほど。 貴様のような偏執狂のおかげで テルモピュライの惨劇は 端から避けられない運命だったわけだ。 だがね。生憎、僕は裏切りを最も憎む者だ。 僕自身の裏切りの汚名を雪ぐためにも 貴様のようなヤツは生かしておけない」 そう言って絵守は全軍に号令を下した。 スパルタは、眼前の大軍に向けて 騎虎の勢いで突撃を開始した。 筆山が移動宮殿を蜂の巣にし 周辺ほとんどのペルシア兵を殲滅した時 隘路の方から大きな花火が上がった。 空に『JACKPOT』と大きな ふざけた火文字が浮かんで消えた。 なんだか嫌な予感がする。 筆山は踵を返してスパルタ軍の元へ急いだ。 隘路は、死屍累々だった。 挟撃を受けたスパルタ軍はほぼ全滅。 しかしペルシア軍も そのほとんどを削られていた。 追い込まれたスパルタの猛攻が 余程凄まじかったのか もはや戦意を以て前に出ようという ペルシア兵はいなかった。 その中心で、相打ちのように互いを 槍で貫いて膝をついている兵士が二人。 一人はペルシア迂回部隊指揮官である 近衛の男。 もう一人は、絵守であった。 🍎アカリ🍎 X 𝐈𝐧𝐬𝐭𝐚𝐠𝐫𝐚𝐦 公式LINE ✉️arabi_akari_otoiawase@outlook.jp ご予約詳細は🈁ブログ一覧
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