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ジューダス・クライスト【第三十一話】お題:異世界転生・歴史探訪 嘘つき同士の友情・最期の晩餐 希望と空虚・臆病者 据え膳食わぬは男の恥 正解と正しいは違う そこは、南が山に 北が海に挟まれた隘路であった。 東には防壁のような砦があった。 隘路を抜けて細い川を跨いだ広大な平地に ペルシア軍が展開していた。 展開していたというか 平地がペルシア兵で埋め尽くされていた。 何万、何十万 数えると気が遠くなりそうな程の 大軍勢だった。 その遥か遠くに天幕が見える。 クセルクセス一世の移動宮殿である。 一方、こちらの隘路には 犇めくようにしてギリシャ兵たちが ぎゅうぎゅうに集っていた。 その数、約五千。 この非常事態に、全ポリス国家を総動員して たったこれだけである。 ペルシアに恐れをなして出兵しない国 下った国などがあったこと。 この時期に オリンピア祭が行われていたこと。 兵が集まらない原因は一つではなかった。 が、筆山たちにとって そんなことはどうでもよかった。 何故ならこのギリシャ兵たちこそが 一番の敵だからだ。 「かの名将ハンニバル曰く。 外からの敵は寄せ付けない 頑健そのものの肉体でも 内臓疾患に苦しまされることがある」 絵守が呟いた。 そう、筆山たちは知っている。 レオニダス率いる スパルタが全滅した最大の要因は 戦力差ではない。味方の裏切りだ。 ある一人のギリシャ兵が ペルシアに寝返り この山の迂回路をクセルクセスに教えた。 東西からの挟み撃ちになることを怖れた ギリシャ兵たちは恐慌状態に陥り撤退。 残るはレオニダス率いるスパルタ兵三百と その勇気にうたれた ギリシャ兵七百のみであった。 その後、スパルタは ペルシア軍の陣取る平地まで突撃を繰り返し 二万もの敵兵を討ち取るも レオニダスは道半ばに倒れ スパルタ兵たちは王の遺体を渡すまいと まさに一騎当千の膂力で獅子奮迅したが 最期は矢の雨に倒れた。 自分たちが その二の轍を踏むわけにはいかない。 筆山は声筒を口にあてがい ギリシャ兵に向けて言い放った。 「見よ。ペルシアの大軍勢を。 だがスパルタに後退はない。 我々は軍事指揮権を預かっている以上 任務を放棄するわけにはいかない。 ここはスパルタが預かった。 諸君らは己がポリスへ撤退し 一刻も早く祖国の守備を固めたまえ」 ギリシャ兵に動揺の波が広がった。 「言っておくが、これは軍事命令である。 繰り返すが、軍事指揮権はスパルタにある。 今すぐ帰り、祖国を守れ」 下手に刺激して寝返られては困る。 かといって感化されて残られても困る。 あくまで自己犠牲的に。 あくまで軍事命令として。 筆山は慎重に言葉を選んで繰り返した。 やがて一軍 また一軍と戦場から姿を消し始めた。 そして、日が沈む頃 テルモピュライの隘路には スパルタ兵三百のみが遺されていた。 「よし。まずは上首尾だ。 足手纏いは消えた。今宵はもう日が沈む。 皆、明日に供えろ。ラップバトルは禁止だ。 日の出と共にスパルタの戦いを始める」 筆山は三百の精鋭に声筒を響かせた。 テルモピュライ一日目。 とても戦争とは言えないような両軍の兵数を 闇夜が呑み込んでいった。 二十五の屈強な 重装歩兵が並ぶファランクス。 その厚さは八列。計二百。 この隘路でペルシアを押し返すには充分だ。 そして、その後方に 二十五の火炎瓶投擲部隊。二列。 後列が前列にバケツリレー方式で火炎瓶を手渡す構えだ。 更にその後方。カタパルト四基。 それぞれに操作、装填 整備係として六づつ配置。 一の予備を加えて、計二十五で運転する。 そして最後尾に、補給部隊二十五。 火炎瓶や火炎壺、有毒煙材を 予備で隙間から補充する役割。 これがスパルタ総勢三百の陣形であった。 「やはりこの狭い道じゃ 二十五が限界だったな」 筆山はファランクスの最後尾にいた。 隣には絵守が並んでいる。 「僕が昔に旅行で ここを見たことがあって良かったな。 これ以上の人数じゃ 移動や補給の隙間もなかった。 それじゃあ、始めてくれたまえ。筆山君」 絵守はぐるりを見渡して 筆山に号令を促した。 筆山は、声筒を口にあて 兵士たちに叫んだ。 「同氏諸君。我がスパルタは テミストクレスに 時間稼ぎとして使われている。 ヤツは今、アルテミシオンの海の隘路にいる。 ここで我々を粘らせている間に ヤツはギリシャ艦隊の隊列を整え 敵艦隊を分析し、万全の状態で南下して アテネ近くのサラミスの海域で 海戦の決着を付ける気だ。 もしここが落ちれば ヤツはすぐにでも サラミスまで下がるだろう。 そうなればどうなるか? アテネは南下した ペルシア陸軍の前に陥落する。 しかし、それもヤツの策の内だ。 実はアテネの市民は、もうとっくに サラミスやトロイゼンに避難し終えている。 つまりヤツは 自国を安全圏に置いておきながら 我々のことを全滅させる前提で 決戦を計画している。 そんなんでいいんですか? そんなこと許せますか? ダメだ。許せない。 じゃあどうするか?簡単だ。 目の前の敵を ヤツの計画ごとすり潰してやればいい。 ペルシアにもアテネにも 揃って一泡吹かせてやろうじゃないか。 確かにテミストクレスが ペルシア艦隊を打ち破れば 補給線を絶たれたペルシア陸軍は 撤退するしかなくなる。 しかし、もしここで我々が あの二十万の軍勢の大半を打ち倒し ペルシア王クセルクセスの 移動宮殿まで押し通り その首逃さず討ち取れば この戦争は テミストクレスがサラミスまで 下がることもなく終わる。 諸君。 目の前の二十万こそが、ペルシアの本体だ。 我々は撤退しない。 そして敵の撤退も許さない。 必ずここで滅ぼす。早々に決着を付けよう。 我々がテルモピュライを 決戦の地に変えてやろうじゃないか」 一斉に槍が天に翳される。 鬨の声が上がる。 舞台は、完璧に整った。 🍎アカリ🍎 X 𝐈𝐧𝐬𝐭𝐚𝐠𝐫𝐚𝐦 公式LINE ✉️arabi_akari_otoiawase@outlook.jp ご予約詳細はブログ一覧
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ジューダス・クライスト【第二十九話】お題:異世界転生・歴史探訪 嘘つき同士の友情・最期の晩餐 希望と空虚・臆病者 据え膳食わぬは男の恥 正解と正しいは違う 絵守は筆山の襟首を掴んで立ち上がらせた。 チュニックが外套ごと上擦ってはだけ 筆山の陰茎が丸出しになった。 そんな筆山の下半身事情をシカトして 絵守は一気呵成に話し出した。 「筆山君。前にも言ったが、僕は今まで その結果を踏みにじってきた英雄たちを 今更に裏切るわけにはいかない。 とうに僕たちの手は 英雄の履歴を汚した罪で染まっている。 その罪は 勝利という水でなければ清められない。 だから僕は何としてでも この手に勝利を齎す。 そうでなければ僕は ユダをも裏切り、彼を 本物の裏切り者にしてしまうことになる。 僕はユダを裏切らない。 裏切り者にもしない。 僕は必ず彼をジュデッカから救い上げる。 そして、その汚れた名を サタンに改めさせてやる」 絵守に襟首を掴まれながら 筆山の身体は 若干持ち上げられて浮いていた。 片腕で、百キロは超えているであろう 巨躯のレオニダスを持ち上げるとは 何という凄まじい膂力。 これがスパルタか。 中空で陰茎が風に靡いて揺れている。 その変な解放感を感じながら 筆山はそんなことを考えていた。 「君は、戦いたくないんだろう? ならばそれでよし。 史実で君、レオニダスは 『死によって完成された英雄』となる。 一方で僕、レオキュキデスはどうか。 後に汚職して失脚・亡命さ。 言うなれば彼は 『生きることで汚れる王』だ。 皮肉な対比だね。 君、レオニダスの光が強い分 僕、レオキュキデスの陰は濃くなる一方だ。 だから僕は彼を英雄にして その悪名を雪いでみせる。 君が逃げるというならば 願ったり叶ったりだ。 僕としても、君に手柄を 取られるわけにはいかないからね。 そしてレオニダスには きっと腰抜けの烙印が押されることだろう。 それも、僕には関係のない話だ。 いや、むしろそれも僥倖というべきか。 君の行動によって レオニダスとレオキュキデスの光陰は 逆転するんだからね」 絵守の言葉は、筆山の心の空に轟き 曇天に蟠っていた黒雲を引き裂いた。 その裂け目から、眩い光刃の煌めきと共に 小さなお猪口が落ちてきた。 お猪口は希望の海に落ちて どんぶらこどんぶらこと 宛もなく漂い始めた。 曇天はその裂け目を広げて 瞬く間に晴天となり 希望の海に宝石のような輝きをばら撒いた。 筆山の心はその輝きを 静かに表面から吸い込んで ゆっくりと鼓動を鳴らし始めた。 コキュートスでいつの間にか 凍り付いていた心臓が 体温を取り戻したかのようだった。 全身を巡る血潮に熱を感じる。 希望の海のあちこちで 温泉が喇叭を吹くように湧出し その衝撃の波に乗って お猪口がゆらゆらと揺曳する。 何かが心の中で高揚し 昂っていくのを感じる。 私は、また逃げるつもりだったのか。 何が死にたくない、だ。 そんなことは墓に入ってから考えればいい。 生きているうちは戦う。 やってみなくちゃわからないから戦うのだ。 それは一対一だろうが百対一だろうが 勝ち戦だろうが負け戦だろうが関係ない。 そもそも、私は命運も万策も尽きて 絶望という行き止まりに ぶち当たったおかげで 漸く進み出した小さなお猪口だ。 知らないと知りたいがニコイチのズッ友なら 絶望と希望はライバルで共犯者だ。 私の希望の海は、絶望という氷が 溶けてできたものなのかもしれない。 そして、地獄の底には それが固まったまま動かない場所があった。 私は知らぬ間にあそこで また血肉ごと固まってしまっていたのか。 否。そんなことはどうでもいい。 原因を過去に求めて何になる。 私は今を進む。 前も後ろも知ったことではない。 そんなものは 辿り着いてみなければわからない。 漕ぎ出す前に躊躇する馬鹿があるか。 そんな暇があるか。 私には常にも、今にも 目の前にやることがあるんじゃないか。 「勘違いするなよ、絵守。 僕はこの爺どもが癇に障ったから ちょっと困らせて遊んでいただけだ。 誰が君だけを行かせたりするものかよ」 筆山は絵守の腕を両の手で掴むと そのまま引き下ろした。 丸出しになっていた陰茎が やっと衣服の中に納まって 風に翻弄される儘のゆらめきに 終わりを告げた。 代わりに絵守が風を切って宙に舞った。 筆山が着地と同時に 絵守の腕を思い切り振り回し 十五回転ほどの 逆ジャイアントスウィングをかました後 集会所後方の神殿の石壁に向かって ぶん投げたのだ。 絵守の八十キロ超の巨躯は 軽々と約十数メートルほど 斜め上空へ直線的に飛んで行き やがて地上から十メートル弱ほどの 石壁に叩き付けられた。 更にそこからの垂直落下。 短時間の間に二度の大衝撃を 背中に受けた絵守は、しかし 重力に引かれていく最中に身体を半転。 足の裏から見事に着地をこなした。 何という打たれ強さ。これがスパルタか。 筆山は相変わらず スパルタフィジカルに関心した。 しかしその矢先。 絵守は地面に向かって思い切り嘔吐した。 どうやらレオキュキデスは 回転酔いし易いらしい。 「やい爺ども! テルモピュライには行ってやる! ただし!僕とレオキュキダスの二人ともだ! 後は息子のいる後腐れの無い 屈強な精鋭をいくらか用意しておけ! 多分、三百もいれば充分だ!」 筆山は老人たちに向かって 大声でそう命じた。 慌てふためく老人たちの後方で 絵守が吐瀉物に 顔を突っ込んで気絶していた。 🍎アカリ🍎 X 𝐈𝐧𝐬𝐭𝐚𝐠𝐫𝐚𝐦 公式LINE ✉️arabi_akari_otoiawase@outlook.jp ご予約詳細は🈁ブログ一覧
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