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ジューダス・クライスト【第三十話】お題:異世界転生・歴史探訪 嘘つき同士の友情・最期の晩餐 希望と空虚・臆病者 据え膳食わぬは男の恥 正解と正しいは違う カルネイア祭の最中、農奴ヘイロータイや 周辺民ペリオイコイたちは忙しかった。 祭りの裏で、ヘイロータイは 大量のオリーブ油や動物脂をかき集め ペリオイコイの職人たちは 陶器やガラス瓶を拵えまくった。 硫黄や松脂、怪しげな草木を集めて 容器に密閉したもの 槍を二つ繋ぎ併せて長くしたもの などが大量に生産され 大型の投石機・カタパルトと共に 街の倉庫に並べられていた。 祭りでは 選ばれた精鋭三百のうちの五十が ガラス瓶を投げて飛距離を競ったり また別の二十五が、カタパルトを使って 狙った場所に壺を落としたり 更にまた別の二十五が 風を読んで特定の方向へ煙を流したりと 斬新な余興を催して点数を競っていた。 残りの二百はひたすら 長槍を使用した密集形態 ファランクスの練習をしていた。 筆山はその合間に 一メートルくらいの大型の声筒を使って 声が何処まで届くのかの実験に興じていた。 そして一週間が経った。 老人たちに約束した、出兵の日である。 筆山が家を出ようとすると 妻のゴルゴが泣いている。 あの、同じ名前のスナイパーと 比較して劣らない逞しい身体の女が 涙を流している。 「心配するな。一週間程度で戻る。 まだ再婚など考えるなよ。 吉報が届いたら、宴の準備をしておけ」 筆山はそう言って、六尺近くある妻の頭を その遥か上からポンポンと叩いた。 老人たちは 揃いも揃って心配そうな顔をしている。 「本当に、これで大丈夫なんでしょうか? 王が二人倒れるということだけは 万が一にも、何卒、まあ、そのぉ」 おずおずと一人の老人が聞いてきた。 「わからん。 わからんが、やれるだけのことは この一週間で全てやった。 準備も訓練も万全だ。 後はやってみることだ」 広場に出ると スパルタ市民たちが見送りに出ている。 筆山は声筒を使って、群衆に宣言した。 「スパルタに後退はない。 だが今回は、その鉄則に もう一つ付け足す必要がある。 スパルタには前進あるのみ。 私は必ず勝って帰る。忘れるな。 スパルタは必ず勝つ」 群衆がどよめいた。 そのどよめきは 筆山にとって不快なものであった。 「なんだこいつら。 王様、絶対死ぬけどしょうがないよね。 みたいな感じで送り出しに来たのか。 不敬罪で全員処刑にしようかな」 筆山が隣の絵守に愚痴った。 「まあ、あれが普通の反応だろうよ。 まさか三百でどうにかできると思うヤツも いないだろう」 絵守はいつもの調子でスカしている。 対して、筆山は尚のこと納得がいかない。 「そんなこと言ったって 負けたら王様を両方とも失うんだぞ」 「スパルタの体制なら 王は死んでも国は死なないからな。 それに、アギアス家にもエウリュポン家にも 世継ぎが既にいる状態だ」 「なんだよ。 僕たちが死んでも変わりはいるってのか。 ウーバーイーツじゃないんだぞ」 「さあ。もしかしたら割り箸くらいかもな」 「やめろよ。なんだか 蕎麦でも食いたい気分になってきた」 筆山たちは軽口を叩きながら スパルタを後にした。三百。 うち二百は長槍を携えて武装し 筆山は大型声筒も携帯している。 残りの百は軽装で カタパルト四基 火炎瓶五千本、火炎壺八百個 有毒煙材二百個を 荷車に積んでラバに引かせたり 袋に背負ったりして運んでいる。 筆山たちにとっては ぶっちゃけこの行き道が一番きつかった。 荷は重いし、ラバの世話は面倒だし 道は険しいし、何より遠いし。 何か気晴らしにでもと 筆山は声筒でスパルタ兵に 今生の祖国の歌謡曲を 歌い教えながら進んで行った。 絵守はラップを教えていった。 立ち寄った宿では兵士たちが ラップバトルで盛り上がり過ぎて 決闘沙汰になりかけた。 なんでも相手が悪口ばかりで喋ってるだけ。 ライムもフローも感じない。 お前にはHIPHOPが足りてない云々。 その場は絵守が 巧みなフリースタイルを披露して収めたが やはり妄りに異文化を撒き散らすのは 転生者として良くない振る舞い なのかも知れない。 筆山はそんなことを思いながら 気が付けばみんなでキューティーハニーや ムーンライト伝説を口遊んでいた。 ポップスを歌うと足取りが軽くなり 演歌を歌うと重くなった。 あまりにも行軍速度が落ちるので 水戸黄門は歌うことを禁止した。 ラバが不貞腐れて動かなくなるので ドナドナも禁止した。そして、スパルタを経ってから二週間弱。 筆山たちは アンパンマンのマーチを熱唱しながら ついにテルモピュライに到着した。 🍎アカリ🍎 X 𝐈𝐧𝐬𝐭𝐚𝐠𝐫𝐚𝐦 公式LINE ✉️arabi_akari_otoiawase@outlook.jp ご予約詳細は🈁ブログ一覧
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ジューダス・クライスト【第二十八話】お題:異世界転生・歴史探訪 嘘つき同士の友情・最期の晩餐 希望と空虚・臆病者 据え膳食わぬは男の恥 正解と正しいは違う 「ははぁ。なるほどね。 この会議はスパルタの象徴として 死ぬ者を決めるのが目的か。 だったら話が早い。君たちが行きたまえ」 「はえ?」 老人たちは筆山の突飛な発言に 思考が追い付いていない様子。 だらしなく口を開けたまま ポカンと思考を停止させている。 その雁首揃えて呆けた表情が サタンすら歯噛みさせた 筆山の悪魔根性に火を付けた。 「あのさ、前から聞きたかったんだけど。 僕たちスパルタの理想ってのはさ 戦場で華々しく散ることじゃん。 なのになんで、戦場で生き残っちゃった系の 君たちみたいなダサダサ爺が 最高官職として幅を利かせているのかな。 君たちってぶっちゃけ スパルタの恥じゃん。 矛盾してない?ねぇ教えてよ。 なんでそんな死に損ないの恥晒しどもが 若い世代を戦わせて殺すのさ。 死ぬならまず君たちからじゃないのかなぁ。 年長者として。 というか、今こそ国のために殉死して 長寿の恥辱を雪ぐ 乾坤一擲のチャンスじゃないのかなぁ。 ということで是非 我がスパルタのために 喜んで死んでくれたまえ。 嗚呼、これは寿ぐべきことだなぁ。 我が国は大義を成して権威を得る上に 国内の悪い見本まで掃き出して 後進の見本とできる。ヨカッタヨカッタ」 議会がシンと静まり返った。 老人たちは俯いて何も言わなかった。 地獄の底で味わったような 凍て付いた空気がしばらく流れた。 やがて、一人の老人が、観念したかのように 重い腰を上げて口を開いた。 「いえ、それは、まあ、そのぉ。 我々は、戦場を、経験し 死を、乗り越えた、知恵で政治を担う。 と言いますか。やはり、まあ、そのぉ。 先人に、倣わないと 後進が、育たない、と言いますか。 そこは、生き残った エリートの役割、と言いますか。 まあ、そのぉ。 我々は、六十歳以上の、市民の中から 民会アペラの投票で、終身職に選ばれた 高い徳と、軍事的功績を持つ 成熟した、スパルタ市民 ホモイオイである。 という、自負と責任が、あるわけでして。 まあ、そのぉ」 老人は歯切れの悪い 与党の国会答弁のような感じで たどたどしくスピーチした。 「なるほど。 結局は老人が支配している社会か。 今も昔も、戦士の国スパルタにおいても 根っこの部分は変わらないんだね」 絵守が呆れたように肩を竦めて苦笑し 老人に代わって話し始めた。 「ご老体方が言いにくいようだから ハッキリ僕が言ってやろう。 君たちはレオニダスに 立って貰いたいんだろう? 彼は家柄的にヘラクレスの子孫だ。 それに息子もいる。 歳だってもう壮年で若くない。 死にゆく王として、神話的にも権威的にも 充分な条件を満たしている。 今回の戦争は戦略じゃないからね。 欲しいのは勝利じゃなく象徴だ。 王が立つこと自体に 死ぬこと自体に意味があるわけだ」 「おい、ちょっと待て絵守。 それなら君、レオキュキデスだって 同い年くらいで息子もいるし 条件は同じじゃないか」 「筆山君。スパルタがわざわざ 死ぬとわかっている出兵のために 二王の両方を送り出すわけがないだろう。 それに、僕のエウリュポン家には 君のアギアス家と違って 神話的正統性がないんでね」 絵守はそう言って 口の端に勝ち誇ったような笑みを浮かべた。 「この裏切り者! 君は僕を恨みに思って こんな卑劣なやり方で 僕を見殺しにする気か!」 筆山は自分がエルサレムを焼いたことや サタンの説得に失敗したことを とりあえず棚上げして、絵守を糾弾した。 老人たちは、王二人がまた急に 正体不明な拳闘を始めるんじゃないかと 気を揉んでアタフタしている。 「いや、違うね。だからこそ僕がいく」 「は?なんで?」 「レオキュキデス様、今なんと?」 全く意外な絵守の返す刀に 不覚にも筆山は老人たちと同調して 間抜けな声をあげてしまった。 「ご老体方。 今までの発言を聞いての通りだ。 レオニダスには どうやら戦いに行く勇気などサラサラない。 こんな腑抜けを王として スパルタの象徴として 送り出すわけにはいかない。 正統性以前の問題だ。ならば僕が行く。 このレオキュデスは、勇敢なる王として スパルタのために喜んで命を擲つ」 筆山は絵守の啖呵に呑まれ すっかり呆気に取られていた。 いつの間にか絵守は そんな筆山の目の前に歩み寄っていた。 🍎アカリ🍎 X 𝐈𝐧𝐬𝐭𝐚𝐠𝐫𝐚𝐦 公式LINE ✉️arabi_akari_otoiawase@outlook.jp ご予約詳細は🈁ブログ一覧
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