ジューダス・クライスト【第三十四話】
お題:異世界転生・歴史探訪
嘘つき同士の友情・最期の晩餐
希望と空虚・臆病者
据え膳食わぬは男の恥
正解と正しいは違う
ペルシア王、クセルクセスは憤慨していた。
もはや憤死直前という様相だった。
「一体何なんだ!
もはや我の親族は全て打ち滅ぼされ
不死隊も全滅!
我が陸軍本隊は壊滅的状況だ!
貴様ら!たった三百の雑兵相手に!
あああああ!」
「王。お鎮まり下さい。
もはや撤退しか道はありません」
一人の側近が進み出た。
次の瞬間、側近の胸に刃が突き立てられた。
「黙れ!貴様!
あのスパルタのレオニダスだけは!
殺しても殺したりぬ!
撤退だと?ならばヤツの首を持ってこい!」
クセルクセスは乱心していた。
完全にござっていた。無理もない事である。
筆山の前代未聞に傍若無人な
悪鬼羅刹の如き罵詈雑言を
数日間に渡って又聞きし続けた結果
彼の精神は取り返しのつかない
深淵にまで落ち込んでしまったのだ。
「王よ。お鎮まり下さい。
我々に呪術のお許しを下さいませんか」
一人の
ローブで顔まで隠した怪しげな初老の男が
腰を曲げてクセルクセスに近付いた。
「何だ貴様は!貴様はアレだな!
ヤバい邪教徒の!誰だ!
こんな奴らを連れてきたのは!」
「は。私です。
怖れながら、窮地の役に立つかと思い。
出過ぎた真似を致しました」
一人の近衛が
剣を突き立てられる覚悟で名乗り出た。
傍らには、先程の側近が
血だまりを作って事切れている。
「なんだと!
いくら我がペルシアが宗教に寛容だとて!
こやつらは危険過ぎると!
あれほど禁じたはずであろうが!」
「は。こやつらの邪なるは否めません。
しかしこやつらの魔術は本物です。
何卒、一度試してみて頂きたく」
近衛の男は
その魔術を目にしたことがあった。
それは紛れもない邪悪であった。
しかし、その怖ろしさは本物であった。
近衛の男は、魔術を怖れた。
怖れるが故に、どうしてももう一度
その恐怖を
己が目で確かめてみたくなった。
そして近衛の男は
筆山の言葉を更に悪辣に
さらに辛辣にして盛りに盛った。
何のためか。今、この時のためである。
クセルクセスを狂わせ、前後不覚にし
魔術の許可を得るために。
男は王をその欲望の犠牲に捧げた。
「いいいいい!良いだろう!
貴様ら邪教徒が!
レオニダスの首級をあげられたなら!
貴様らを正教として認めてくれるわ!」
クセルクセスは、怒りの余り
痙攣が治まらない
脳髄の赴くままに命令を下した。
王の中の王は、もはや人格を放棄して
荒れ狂うノルアドレナリンの
奴隷と化していた。
「ありがたき幸せ。では仰せのままに」
邪教の男は、そう言うと
霧のように移動宮殿から姿を消した。
王から奴隷へと堕ちたクセルクセスは
定まらない視点を暴れさせて
その姿を探した。
網膜の片隅に、先程の男と同様に
ローブを纏った邪教の者たち数人が
円を描いて
儀式的な動きをしているのが映った。
「弾薬が尽きましたが、 いかがしたものかね」
筆山が少し困惑気味に絵守に問いかけた。
「まさかこれだけ削っても
撤退の気配を見せないとは。
クセルクセスは乱心したか。
しかし難しい局面だな」
絵守は何かを警戒して考え込んでいる。
「一体、何が難しいと言うのかね。絵守君。
敵はもう削られ過ぎてベラベラだよ。
こっちはまだまだ元気一杯の三百だよ。
いや、二百か。
弾薬部隊にペルシャ兵の装備を着せて
弓兵として後方支援
してもらったらどうかな」
「死人を引剥ぐのに何の躊躇もないとは
随分立派なスパルタになったもんだね
筆山君。
しかし、敵はまだ八万。
こっちが三百だとしても
一人当たり二百五十以上は
倒さなきゃならない計算だ」
「相手は指揮系統もグシャグチャだし
何より士気がベロンベロンだから
何とかなるってば。
やってみなきゃわかんないじゃん。
それに、クセルクセスが撤退しない今が
ヤツの首を取る好機だよ」
「それはどうかな。
撤退しないには撤退しないなりの
理由があると考えるのが自然だが。
何か特殊な部隊でも温存しているとか」
筆山と絵守がそんな問答を繰り返していると
遥か彼方の移動宮殿の上空に
渦を巻いていた黒雲が怪しく光った。
それは、黒い光だった。
漆黒の稲光が轟き
無数の刃となって曇天を切り刻んだ。
やがて、その裂け目を突き破るようにして
巨大な灰色の柱が顕れた。
果たしてそれは、骨であった。
一体どれだけの大きさなのか
目測もつかない、規格外の足の骨。
それに黒雲が纏わりつき、固まり
闇色の肉となって、骨を覆った。
次いで骨盤、脊椎、肋骨、腕、頭。
骨は裂け目から次々と躍り出た。
黒雲がそれらの肉となり
やがてそれらは一つの
大いなる邪悪を顕現した。
六つの羽に六つの角。
三つの顔の正面にユダを咥えた魔王。
サタンが
移動宮殿を跨いで大地を踏んでいた。
「時空を超えて来てみれば
我を呼びしは貴様らか」
サタンは邪教徒たちに目を向けた。
邪教徒たちは、サタンが大地に立った時に
運悪く丁度その足裏の位置にいたため
その場に真っ赤な花を咲かせていた。
「絵守君。
あいつ、埋まってた下半身引き摺り出したら
あんなにでかかったんだね。
森ビルよりでかいよ。
そして僕たちには今
ヤツの凍て付く波動に対抗するための炎が
一欠けらもない。どうしようかね」
「筆山君。これはちょっと
想定の範囲外どころじゃない。
君、また奇跡で巨大ロボとか出せないかい」
「無茶を言うんじゃない。
今の僕は神の血を引けど、神に非ず。
奇跡を怒らせて寄る辺のない
ただのフィジカルの塊さ」
「あれは筋肉でどうこうなる次元じゃない。
しかし何故サタンが此処に?
僕らを追って来たのか?」
絵守が蒼ざめた顔でそう呟いた。
🍎アカリ🍎
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