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ジューダス・クライスト【第三十三話】お題:異世界転生・歴史探訪 嘘つき同士の友情・最期の晩餐 希望と空虚・臆病者 据え膳食わぬは男の恥 正解と正しいは違う 「炎は人心を狂わせると言うが。筆山君。 これ以上憑りつかれないでくれよ。 僕は今生に戻って、君が放火魔に 転職しやしないか心配になってきた」 絵守が茶々を入れる。 人が気持ちよく焼肉している最中に なんたる無粋か。筆山は抗議した。 「絵守君。 君はユダをコキュートスから救うんだろう? それには、あの絶望の氷を炎で溶かして 希望に変えなきゃいけない。 僕の心は今、燃えている。 その証拠にどうだ。 絶望的な兵力を燃やしたら 見事に希望の道が開けたじゃないか」 「希望の道というか、焼死体の群れだがね。 それにこの匂い。 氷結地獄の次は炎熱地獄かい。 縁起でもない」 絵守は鼻を摘まんで顔を顰めている。 芸術家の端くれの癖に この芸術的火計に心打たれないとは。 嘆かわしいことである。 筆山は肩を竦めて言った。 「あのさぁ。 君も少しは心を燃やしたらどうなんだい。 火炎瓶二十五本に火炎壺四個。 それに煙材一つで 隘路に入ってきたペルシア軍を 全滅させたんだよ」 絵守はしかし 真剣な顔で敵兵を見渡して考え込んでいる。 「見た感じ、倒せたのは五百ってところか。 さっきのコンボが使えるのは後百九十九回。 つまり弾薬が尽きるまで戦って削れる人数は 上手くいったとして十万、ということだな」 「いや、もっと引き付ければ ワンコンボで千人も夢じゃないぞ」 「向こうも馬鹿じゃない。 今のでこちらの戦術を警戒してくるはずだ。 それでも、僕たちは何とか ペルシアを誘きよせて 殲滅を繰り返さなきゃならない」 「十万も削れば流石に 突っ込んでも大丈夫なんじゃない? 向こうの士気もガタ落ちだろうし」 「そこまで削られれば クセルクセスは撤退するか 又は秘密兵器でも出してくるか、だろうな」 「秘密兵器は置いといて 撤退されたら困るんですけど」 「そこまで削って撤退させたなら サラミスの海戦も起こらない可能性が高い。 君の広げた大風呂敷には少し届かないがね。 しかしそれを考えるのは 十万を削った後のことだ」 「その、警戒してる敵兵相手に なんとか後百九十九回 同じコンボを決めるにはって話ですよね」 「嗚呼。やってのける道は一つ。 君の挑発で敵を怒らせ 誘きよせ続けること。 ここから先は 君お得意の舌先三寸にかかっている と言っても過言じゃないよ」 「そうですか。まあやってみますがね。 神様は依怙贔屓のないお方に違いない。 僕の器をお猪口にした代わりに 持って生まれた悪魔根性だけは サタンよりも大きく お創りなすったんだから」 筆山は 天使のような悪魔の笑顔でそう嘯いた。 それからの筆山は、偉かった。 彼は彼の中の悪心に イースト菌をぶち込んで心を燃やし その熱で己が 内なる悪魔を膨らませていった。 気が付くと筆山は とてもここに書けないようなスラングを 連発していた。 前線のペルシア軍は怒り狂い その怒りはクセルクセスに 尾鰭を付けて伝わり ペルシアの王は激怒するままに 兵に突撃を命じた。 そして三日が経った。 筆山たちの前の隘路は もはや黒焦げの死体が積み上がって バリケードのようになっていた。 それでもペルシア軍は顔を真っ赤にし 目を血走らせながら 仲間の死骸を蹴散らして突進してきた。 もはや正気ではない。 何が彼らを ここまで狂わせてしまったのだろうか。 コカインかヘロインかLSDか。 シャブかアイスか野菜盛りか。 わからない。もはや私には何もわからない。 否、わかりたくなかった。 よもや私の中の悪魔が このように人心を畜生道、地獄道 餓鬼道、バキ童の三悪道プラスワンに 変えてしまう程に悪辣だったなんて。 私はどんな麻薬よりも 己が呪われた舌が恐ろしい。 果たしてこの舌も、絵守の言うように 勝利の水で洗えば清められるのだろうか。 私は無理だと思う。 否、別にそれでかまわない。 呪われていようが何だろうが この舌こそが私たちに 勝利の道を切り開いてきたのだ。 勝利の女神は悪魔の舌によって 口説き落とされるのだ。 私は私の全てを受け入れ 勝利の女神に口づけしよう。 そして堕天した二人は サタンと対峙するのだ。 その場合、呪われた勝利は どちらの味方をするのだろうか。 わからない。 私はさっきから 何を思弁的になっているのか。 筆山がそんなこんななことを 考えているうちに ついに火炎瓶諸々の弾薬が底を尽いた。 ペルシアは二十万の大軍団のうち 実に十二万を失っていた。 しかして撤退の気配を見せない クセルクセスの移動要塞の遥か上に 怪しげな黒雲が渦を巻いて 空を呑み込んでいた。 🍎アカリ🍎 X 𝐈𝐧𝐬𝐭𝐚𝐠𝐫𝐚𝐦 公式LINE ✉️arabi_akari_otoiawase@outlook.jp ご予約詳細は🈁ブログ一覧
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ジューダス・クライスト【第三十一話】お題:異世界転生・歴史探訪 嘘つき同士の友情・最期の晩餐 希望と空虚・臆病者 据え膳食わぬは男の恥 正解と正しいは違う そこは、南が山に 北が海に挟まれた隘路であった。 東には防壁のような砦があった。 隘路を抜けて細い川を跨いだ広大な平地に ペルシア軍が展開していた。 展開していたというか 平地がペルシア兵で埋め尽くされていた。 何万、何十万 数えると気が遠くなりそうな程の 大軍勢だった。 その遥か遠くに天幕が見える。 クセルクセス一世の移動宮殿である。 一方、こちらの隘路には 犇めくようにしてギリシャ兵たちが ぎゅうぎゅうに集っていた。 その数、約五千。 この非常事態に、全ポリス国家を総動員して たったこれだけである。 ペルシアに恐れをなして出兵しない国 下った国などがあったこと。 この時期に オリンピア祭が行われていたこと。 兵が集まらない原因は一つではなかった。 が、筆山たちにとって そんなことはどうでもよかった。 何故ならこのギリシャ兵たちこそが 一番の敵だからだ。 「かの名将ハンニバル曰く。 外からの敵は寄せ付けない 頑健そのものの肉体でも 内臓疾患に苦しまされることがある」 絵守が呟いた。 そう、筆山たちは知っている。 レオニダス率いる スパルタが全滅した最大の要因は 戦力差ではない。味方の裏切りだ。 ある一人のギリシャ兵が ペルシアに寝返り この山の迂回路をクセルクセスに教えた。 東西からの挟み撃ちになることを怖れた ギリシャ兵たちは恐慌状態に陥り撤退。 残るはレオニダス率いるスパルタ兵三百と その勇気にうたれた ギリシャ兵七百のみであった。 その後、スパルタは ペルシア軍の陣取る平地まで突撃を繰り返し 二万もの敵兵を討ち取るも レオニダスは道半ばに倒れ スパルタ兵たちは王の遺体を渡すまいと まさに一騎当千の膂力で獅子奮迅したが 最期は矢の雨に倒れた。 自分たちが その二の轍を踏むわけにはいかない。 筆山は声筒を口にあてがい ギリシャ兵に向けて言い放った。 「見よ。ペルシアの大軍勢を。 だがスパルタに後退はない。 我々は軍事指揮権を預かっている以上 任務を放棄するわけにはいかない。 ここはスパルタが預かった。 諸君らは己がポリスへ撤退し 一刻も早く祖国の守備を固めたまえ」 ギリシャ兵に動揺の波が広がった。 「言っておくが、これは軍事命令である。 繰り返すが、軍事指揮権はスパルタにある。 今すぐ帰り、祖国を守れ」 下手に刺激して寝返られては困る。 かといって感化されて残られても困る。 あくまで自己犠牲的に。 あくまで軍事命令として。 筆山は慎重に言葉を選んで繰り返した。 やがて一軍 また一軍と戦場から姿を消し始めた。 そして、日が沈む頃 テルモピュライの隘路には スパルタ兵三百のみが遺されていた。 「よし。まずは上首尾だ。 足手纏いは消えた。今宵はもう日が沈む。 皆、明日に供えろ。ラップバトルは禁止だ。 日の出と共にスパルタの戦いを始める」 筆山は三百の精鋭に声筒を響かせた。 テルモピュライ一日目。 とても戦争とは言えないような両軍の兵数を 闇夜が呑み込んでいった。 二十五の屈強な 重装歩兵が並ぶファランクス。 その厚さは八列。計二百。 この隘路でペルシアを押し返すには充分だ。 そして、その後方に 二十五の火炎瓶投擲部隊。二列。 後列が前列にバケツリレー方式で火炎瓶を手渡す構えだ。 更にその後方。カタパルト四基。 それぞれに操作、装填 整備係として六づつ配置。 一の予備を加えて、計二十五で運転する。 そして最後尾に、補給部隊二十五。 火炎瓶や火炎壺、有毒煙材を 予備で隙間から補充する役割。 これがスパルタ総勢三百の陣形であった。 「やはりこの狭い道じゃ 二十五が限界だったな」 筆山はファランクスの最後尾にいた。 隣には絵守が並んでいる。 「僕が昔に旅行で ここを見たことがあって良かったな。 これ以上の人数じゃ 移動や補給の隙間もなかった。 それじゃあ、始めてくれたまえ。筆山君」 絵守はぐるりを見渡して 筆山に号令を促した。 筆山は、声筒を口にあて 兵士たちに叫んだ。 「同氏諸君。我がスパルタは テミストクレスに 時間稼ぎとして使われている。 ヤツは今、アルテミシオンの海の隘路にいる。 ここで我々を粘らせている間に ヤツはギリシャ艦隊の隊列を整え 敵艦隊を分析し、万全の状態で南下して アテネ近くのサラミスの海域で 海戦の決着を付ける気だ。 もしここが落ちれば ヤツはすぐにでも サラミスまで下がるだろう。 そうなればどうなるか? アテネは南下した ペルシア陸軍の前に陥落する。 しかし、それもヤツの策の内だ。 実はアテネの市民は、もうとっくに サラミスやトロイゼンに避難し終えている。 つまりヤツは 自国を安全圏に置いておきながら 我々のことを全滅させる前提で 決戦を計画している。 そんなんでいいんですか? そんなこと許せますか? ダメだ。許せない。 じゃあどうするか?簡単だ。 目の前の敵を ヤツの計画ごとすり潰してやればいい。 ペルシアにもアテネにも 揃って一泡吹かせてやろうじゃないか。 確かにテミストクレスが ペルシア艦隊を打ち破れば 補給線を絶たれたペルシア陸軍は 撤退するしかなくなる。 しかし、もしここで我々が あの二十万の軍勢の大半を打ち倒し ペルシア王クセルクセスの 移動宮殿まで押し通り その首逃さず討ち取れば この戦争は テミストクレスがサラミスまで 下がることもなく終わる。 諸君。 目の前の二十万こそが、ペルシアの本体だ。 我々は撤退しない。 そして敵の撤退も許さない。 必ずここで滅ぼす。早々に決着を付けよう。 我々がテルモピュライを 決戦の地に変えてやろうじゃないか」 一斉に槍が天に翳される。 鬨の声が上がる。 舞台は、完璧に整った。 🍎アカリ🍎 X 𝐈𝐧𝐬𝐭𝐚𝐠𝐫𝐚𝐦 公式LINE ✉️arabi_akari_otoiawase@outlook.jp ご予約詳細はブログ一覧
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