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ジューダス・クライスト【第二十九話】お題:異世界転生・歴史探訪 嘘つき同士の友情・最期の晩餐 希望と空虚・臆病者 据え膳食わぬは男の恥 正解と正しいは違う 絵守は筆山の襟首を掴んで立ち上がらせた。 チュニックが外套ごと上擦ってはだけ 筆山の陰茎が丸出しになった。 そんな筆山の下半身事情をシカトして 絵守は一気呵成に話し出した。 「筆山君。前にも言ったが、僕は今まで その結果を踏みにじってきた英雄たちを 今更に裏切るわけにはいかない。 とうに僕たちの手は 英雄の履歴を汚した罪で染まっている。 その罪は 勝利という水でなければ清められない。 だから僕は何としてでも この手に勝利を齎す。 そうでなければ僕は ユダをも裏切り、彼を 本物の裏切り者にしてしまうことになる。 僕はユダを裏切らない。 裏切り者にもしない。 僕は必ず彼をジュデッカから救い上げる。 そして、その汚れた名を サタンに改めさせてやる」 絵守に襟首を掴まれながら 筆山の身体は 若干持ち上げられて浮いていた。 片腕で、百キロは超えているであろう 巨躯のレオニダスを持ち上げるとは 何という凄まじい膂力。 これがスパルタか。 中空で陰茎が風に靡いて揺れている。 その変な解放感を感じながら 筆山はそんなことを考えていた。 「君は、戦いたくないんだろう? ならばそれでよし。 史実で君、レオニダスは 『死によって完成された英雄』となる。 一方で僕、レオキュキデスはどうか。 後に汚職して失脚・亡命さ。 言うなれば彼は 『生きることで汚れる王』だ。 皮肉な対比だね。 君、レオニダスの光が強い分 僕、レオキュキデスの陰は濃くなる一方だ。 だから僕は彼を英雄にして その悪名を雪いでみせる。 君が逃げるというならば 願ったり叶ったりだ。 僕としても、君に手柄を 取られるわけにはいかないからね。 そしてレオニダスには きっと腰抜けの烙印が押されることだろう。 それも、僕には関係のない話だ。 いや、むしろそれも僥倖というべきか。 君の行動によって レオニダスとレオキュキデスの光陰は 逆転するんだからね」 絵守の言葉は、筆山の心の空に轟き 曇天に蟠っていた黒雲を引き裂いた。 その裂け目から、眩い光刃の煌めきと共に 小さなお猪口が落ちてきた。 お猪口は希望の海に落ちて どんぶらこどんぶらこと 宛もなく漂い始めた。 曇天はその裂け目を広げて 瞬く間に晴天となり 希望の海に宝石のような輝きをばら撒いた。 筆山の心はその輝きを 静かに表面から吸い込んで ゆっくりと鼓動を鳴らし始めた。 コキュートスでいつの間にか 凍り付いていた心臓が 体温を取り戻したかのようだった。 全身を巡る血潮に熱を感じる。 希望の海のあちこちで 温泉が喇叭を吹くように湧出し その衝撃の波に乗って お猪口がゆらゆらと揺曳する。 何かが心の中で高揚し 昂っていくのを感じる。 私は、また逃げるつもりだったのか。 何が死にたくない、だ。 そんなことは墓に入ってから考えればいい。 生きているうちは戦う。 やってみなくちゃわからないから戦うのだ。 それは一対一だろうが百対一だろうが 勝ち戦だろうが負け戦だろうが関係ない。 そもそも、私は命運も万策も尽きて 絶望という行き止まりに ぶち当たったおかげで 漸く進み出した小さなお猪口だ。 知らないと知りたいがニコイチのズッ友なら 絶望と希望はライバルで共犯者だ。 私の希望の海は、絶望という氷が 溶けてできたものなのかもしれない。 そして、地獄の底には それが固まったまま動かない場所があった。 私は知らぬ間にあそこで また血肉ごと固まってしまっていたのか。 否。そんなことはどうでもいい。 原因を過去に求めて何になる。 私は今を進む。 前も後ろも知ったことではない。 そんなものは 辿り着いてみなければわからない。 漕ぎ出す前に躊躇する馬鹿があるか。 そんな暇があるか。 私には常にも、今にも 目の前にやることがあるんじゃないか。 「勘違いするなよ、絵守。 僕はこの爺どもが癇に障ったから ちょっと困らせて遊んでいただけだ。 誰が君だけを行かせたりするものかよ」 筆山は絵守の腕を両の手で掴むと そのまま引き下ろした。 丸出しになっていた陰茎が やっと衣服の中に納まって 風に翻弄される儘のゆらめきに 終わりを告げた。 代わりに絵守が風を切って宙に舞った。 筆山が着地と同時に 絵守の腕を思い切り振り回し 十五回転ほどの 逆ジャイアントスウィングをかました後 集会所後方の神殿の石壁に向かって ぶん投げたのだ。 絵守の八十キロ超の巨躯は 軽々と約十数メートルほど 斜め上空へ直線的に飛んで行き やがて地上から十メートル弱ほどの 石壁に叩き付けられた。 更にそこからの垂直落下。 短時間の間に二度の大衝撃を 背中に受けた絵守は、しかし 重力に引かれていく最中に身体を半転。 足の裏から見事に着地をこなした。 何という打たれ強さ。これがスパルタか。 筆山は相変わらず スパルタフィジカルに関心した。 しかしその矢先。 絵守は地面に向かって思い切り嘔吐した。 どうやらレオキュキデスは 回転酔いし易いらしい。 「やい爺ども! テルモピュライには行ってやる! ただし!僕とレオキュキダスの二人ともだ! 後は息子のいる後腐れの無い 屈強な精鋭をいくらか用意しておけ! 多分、三百もいれば充分だ!」 筆山は老人たちに向かって 大声でそう命じた。 慌てふためく老人たちの後方で 絵守が吐瀉物に 顔を突っ込んで気絶していた。 🍎アカリ🍎 X 𝐈𝐧𝐬𝐭𝐚𝐠𝐫𝐚𝐦 公式LINE ✉️arabi_akari_otoiawase@outlook.jp ご予約詳細は🈁ブログ一覧
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ジューダス・クライスト【第二十七話】お題:異世界転生・歴史探訪 嘘つき同士の友情・最期の晩餐 希望と空虚・臆病者 据え膳食わぬは男の恥 正解と正しいは違う 「あのさ、アテネのテミストクレス将軍から 要請があったって 僕たちには神聖な カルネイア祭があるじゃないか。 明日から九日間、軍事行動は禁止だ。 それはアポロン神との硬い約束だ。 これを破ったら君、ペルシアどころか 神罰で国が滅びますよ」 古代スパルタにおいて 神事は命よりも優先される。 だというのになぜ自分だけが 史実の都合で 駆り出されなければならないのか。 ムカつく。 ということで筆山は とりあえずゴネてみることにした。 「仰る通りなのですが そこは、まあ、そのぉ、アテネが 『スパルタが出兵するなら ペルシア戦争においての軍事指揮権を スパルタに委託する』 と、こう言ってきてるものですから」 老人がまごまごした 下から説得するような 卑しい感じで言った。 なんたる浅ましい態度か。 筆山は尚更に苛々してきた。 そっちがそうくるなら こっちだって徹底的にゴネてやる。 「なるほど。 軍事指揮権を預かるということは 一時的にしろスパルタが ギリシャの宗主国になるということ。 君たちはその目先の果実に 目が眩んでいるわけだ。 だがね、ペルシアとの戦争中に 宗主国になったからといって、何になる? そもそも、本当に他のポリス全軍が スパルタの命に従うと思っているのか? あのアテネが?僕はそうは思わないね。 だってそうじゃないか。 例え軍事指揮権を持っていても 我がスパルタがそれを行使できるのは せいぜい陸戦のみ。 一方でテミストクレスはデルフォイから こう神託を受けたそうじゃないか。 『ゼウスはアテナに唯一 不滅なるものとして汝と汝の子らを守る 木の砦を授けるだろう』。 木の砦ってのは君、船のことさ。 つまりペルシアとの戦争を決定付けるのは 海戦ってことだ。 我がスパルタに船が何隻ある? 二十隻もないだろう。 そして、こんなこともあろうかと実は僕も デルフォイに行って神託を賜ってきた。 『アルテミシオンに集いし ギリシャ艦隊総数四百隻弱。 うち半数以上がアテネの船団である。 テミストクレスを信じるな』。 わかるかい? もし軍事指揮権を僕たちが持ってたって アテネの艦隊が動かなきゃ話にならない。 実質的な軍事指揮権は アテネが握ることになり 結局ギリシャの宗主国は アテネってことになるのさ」 筆山は史実を神託と偽って説得を試みた。 デルフォイの神託はスパルタにとって 絶対のはずである。 「王よ。嘘はいけませんぞ。 ここ最近に王がデルフォイに 出向いたなんて報告は エフォロイから一切受けておりません」 しまった。 スパルタ王はエフォロイという 五人の監視官に常に見張られてるんだった。 筆山は人権を侵害されたことに ムシャクシャした。 こうなったらとことん ゴネ通してやろうと心に誓った。 クソジジイどもめ。 史実通りにいくと思うなよ。 こちとらもうこれ以上 死ぬのは御免被るってんだ。 「嗚呼、すまない。 今のはエフォロイの連中が 監視の目を怠っていないか ちょっと試してみたんだ。その通り。 僕はデルフォイに行ってはいない。 しかし神託は本当だ。 僕は日頃から アポロン神への篤信が人一倍厚くてね。 その信仰がデルフォイにも通じたんだろう。 証拠にさっきまで僕は夢の中で 偉大な予言者だった。 夢の中で僕は今の状況・詳細を 予言者たる神通力を用いて見通してみた。 したところどうだ。 テミストクレスの神託は真っ赤な出鱈目。 ヤツは十年前から艦隊の準備を整えていた。 それで、端からこの戦争の決戦を 海上に持ち込むと決めていやがったんだ。 僕たちスパルタや他のポリスは 全員ヤツに纏めて謀られ 陸戦ではテルモピュライで 時間稼ぎの囮に使われ 海戦では主導権を握られる。 結果的にペルシア戦争の功績は ほとんどヤツのもの。 ポリス国家が揃いも揃って アテネの詐欺師の傀儡にされて。 実に情けない話じゃないか」 筆山は、自らの史実に対する知識を総動員し 更にそれらに脚色を加えて 揺さぶりをかけた。 何としてでもこの爺たちを 丸め込んでやろうという試みだ。 「レオニダス様。 その大胆不敵な推論には恐れ入ります。 しかし例え王と言えども つい先ほどに嘘を述べた人間の言葉を 我々が易々と呑み込むことはかないません」 しくじった。デルフォイに行ったなんて 軽々しく言うんじゃなかった。 もはや方針を変えるしかあるまい。 筆山は心中で思い切った決断をした。 出兵だ。 こうなったら正々堂々と ペルシアを打ち破り、勝利してやる。 それには三百などでは足りない。 出来得る限りの総戦力で 出陣を認めさせるしかない。 「だったらカルネイア祭は中止だ。 スパルタ市民一万総出で出撃するぞ」 「とんでもない。奴隷が反乱を起こします。 周辺民のペリオイコイ五万 農奴のヘイロータイ二十万。 スパルタ市民一人あたり 二十人は抱えておかねばなりません」 「じゃあ奴隷たちも一緒に連れて行くぞ」 「それでは国が空になって滅びます」 「なら五千だ。 スパルタ市民五千と奴隷十二万五千。 十三万の大軍勢で攻めるぞ」 「無理です。流石にカルネイア祭を 中止するわけにはいきません」 「なんだと? さっきはカルネイア祭の間でも 軍事指揮権が貰えるから 出兵すべきだと言っていた癖に。何を今更」 「いえ、ですから王が最初に言った通り カルネイア祭を疎かにしては 神罰で国が滅びます。 しかしながら ここで一切の出兵を惜しめば 我がスパルタは アテネやテーベの後塵を拝し その威信を失います。 どころか『ギリシャは 戦う意志も見せぬ臆病者』 とペルシアに侮られ 戦争の全体士気が 敗戦に揺らいでしまい兼ねません」 「だから祭りに支障が出ない程度の 少数で出兵して、スパルタのために死ね。 というわけだね」 絵守が薄く笑みを浮かべながら 割って入った。 「まあ、そのぉ。そう言うことになります。 これは我が国の権威に関わる大問題ゆえに」 老人たちは相変わらず煮え切らない調子で まごつきながらそう言った。 🍎アカリ🍎 X 𝐈𝐧𝐬𝐭𝐚𝐠𝐫𝐚𝐦 公式LINE ✉️arabi_akari_otoiawase@outlook.jp ご予約詳細は🈁ブログ一覧
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