-
次の記事
-
Blog@arabian
ジューダス・クライスト【第二十八話】お題:異世界転生・歴史探訪 嘘つき同士の友情・最期の晩餐 希望と空虚・臆病者 据え膳食わぬは男の恥 正解と正しいは違う 「ははぁ。なるほどね。 この会議はスパルタの象徴として 死ぬ者を決めるのが目的か。 だったら話が早い。君たちが行きたまえ」 「はえ?」 老人たちは筆山の突飛な発言に 思考が追い付いていない様子。 だらしなく口を開けたまま ポカンと思考を停止させている。 その雁首揃えて呆けた表情が サタンすら歯噛みさせた 筆山の悪魔根性に火を付けた。 「あのさ、前から聞きたかったんだけど。 僕たちスパルタの理想ってのはさ 戦場で華々しく散ることじゃん。 なのになんで、戦場で生き残っちゃった系の 君たちみたいなダサダサ爺が 最高官職として幅を利かせているのかな。 君たちってぶっちゃけ スパルタの恥じゃん。 矛盾してない?ねぇ教えてよ。 なんでそんな死に損ないの恥晒しどもが 若い世代を戦わせて殺すのさ。 死ぬならまず君たちからじゃないのかなぁ。 年長者として。 というか、今こそ国のために殉死して 長寿の恥辱を雪ぐ 乾坤一擲のチャンスじゃないのかなぁ。 ということで是非 我がスパルタのために 喜んで死んでくれたまえ。 嗚呼、これは寿ぐべきことだなぁ。 我が国は大義を成して権威を得る上に 国内の悪い見本まで掃き出して 後進の見本とできる。ヨカッタヨカッタ」 議会がシンと静まり返った。 老人たちは俯いて何も言わなかった。 地獄の底で味わったような 凍て付いた空気がしばらく流れた。 やがて、一人の老人が、観念したかのように 重い腰を上げて口を開いた。 「いえ、それは、まあ、そのぉ。 我々は、戦場を、経験し 死を、乗り越えた、知恵で政治を担う。 と言いますか。やはり、まあ、そのぉ。 先人に、倣わないと 後進が、育たない、と言いますか。 そこは、生き残った エリートの役割、と言いますか。 まあ、そのぉ。 我々は、六十歳以上の、市民の中から 民会アペラの投票で、終身職に選ばれた 高い徳と、軍事的功績を持つ 成熟した、スパルタ市民 ホモイオイである。 という、自負と責任が、あるわけでして。 まあ、そのぉ」 老人は歯切れの悪い 与党の国会答弁のような感じで たどたどしくスピーチした。 「なるほど。 結局は老人が支配している社会か。 今も昔も、戦士の国スパルタにおいても 根っこの部分は変わらないんだね」 絵守が呆れたように肩を竦めて苦笑し 老人に代わって話し始めた。 「ご老体方が言いにくいようだから ハッキリ僕が言ってやろう。 君たちはレオニダスに 立って貰いたいんだろう? 彼は家柄的にヘラクレスの子孫だ。 それに息子もいる。 歳だってもう壮年で若くない。 死にゆく王として、神話的にも権威的にも 充分な条件を満たしている。 今回の戦争は戦略じゃないからね。 欲しいのは勝利じゃなく象徴だ。 王が立つこと自体に 死ぬこと自体に意味があるわけだ」 「おい、ちょっと待て絵守。 それなら君、レオキュキデスだって 同い年くらいで息子もいるし 条件は同じじゃないか」 「筆山君。スパルタがわざわざ 死ぬとわかっている出兵のために 二王の両方を送り出すわけがないだろう。 それに、僕のエウリュポン家には 君のアギアス家と違って 神話的正統性がないんでね」 絵守はそう言って 口の端に勝ち誇ったような笑みを浮かべた。 「この裏切り者! 君は僕を恨みに思って こんな卑劣なやり方で 僕を見殺しにする気か!」 筆山は自分がエルサレムを焼いたことや サタンの説得に失敗したことを とりあえず棚上げして、絵守を糾弾した。 老人たちは、王二人がまた急に 正体不明な拳闘を始めるんじゃないかと 気を揉んでアタフタしている。 「いや、違うね。だからこそ僕がいく」 「は?なんで?」 「レオキュキデス様、今なんと?」 全く意外な絵守の返す刀に 不覚にも筆山は老人たちと同調して 間抜けな声をあげてしまった。 「ご老体方。 今までの発言を聞いての通りだ。 レオニダスには どうやら戦いに行く勇気などサラサラない。 こんな腑抜けを王として スパルタの象徴として 送り出すわけにはいかない。 正統性以前の問題だ。ならば僕が行く。 このレオキュデスは、勇敢なる王として スパルタのために喜んで命を擲つ」 筆山は絵守の啖呵に呑まれ すっかり呆気に取られていた。 いつの間にか絵守は そんな筆山の目の前に歩み寄っていた。 🍎アカリ🍎 X 𝐈𝐧𝐬𝐭𝐚𝐠𝐫𝐚𝐦 公式LINE ✉️arabi_akari_otoiawase@outlook.jp ご予約詳細は🈁ブログ一覧
-
-
前の記事
-
Blog@arabian
ジューダス・クライスト【第二十六話】お題:異世界転生・歴史探訪 嘘つき同士の友情・最期の晩餐 希望と空虚・臆病者 据え膳食わぬは男の恥 正解と正しいは違う 照り付ける日が石の地面を焼いている。 立ち上る陽炎が 透明な煙のように景色を揺らしている。 青天井で石造り 石柱がまばらに拵えてある 古代の集会所のような大広場。 その中央で、男二人が ステゴロの大喧嘩をしていた。 「そもそも君が エルサレムを滅ぼしたせいで!」 絵守のステップインジャブ。 これは目隠しの囮。 本命は右上からの肘打ち。 「ああでもしなきゃ ローマにすり潰されてただろう!」 筆山は紙一重 スウェーで絵守の右肘を躱した。 そして身体を戻しながら打ち返す オーバーハンドの右フック。 「それだけじゃない! 君がサタンを無暗に挑発したせいで!」 絵守は筆山の右フックを 内側からストッピングして抑えた。 そのまま反対の腕にも逆手を巻きつける。 首相撲の形。 「僕の背骨は途中から粉々だ!」 絵守の身体が猫のように撓ったかと思うと 筆山の鳩尾へ向かって渾身の右膝が飛んだ。 ゼロ距離からの不可避の攻撃。 「あいつ、しっかり口撃効いてたのか! 平気面こきやがって!」 筆山はその右膝を 己が左膝で辛うじて捌いた。 そして、その左足を絵守より一瞬早く 彼の左側面奥方へ着地させて踏み込んだ。 抑えている絵守の両腕を反時計回りに捻る。 絵守の上体が斜めに崩れた。 「それだって 君を助けようとしてのことだ!」 筆山は、そのまま軸がブレて 片足立ちになっている絵守の左足を 己が残った右足で思いきり外側から払った。 絵守はたまらず半回転しながら 地面にどうと倒れた。 ここは現代のような 柔らかいリングの上ではない。石畳だ。 転がされるだけでも 背中へのダメージは相当なものだろう。 「レオニダス様。両王とも。 いい加減にお止めください」 周りにいた老人たちが すかさず止めに入った。 更にもう一人、別の老人が進み出て 絵守に肩を貸す。 ぐるりを見渡せば、筆山たちは 二十八人の老人たちに囲まれていた。 彼らは大きく円を描くように整列していた。 全員が革のサンダルに白いローブといった 同じような恰好をしている。 筆山と絵守の二人だけが 素っ裸で戦っていた。 傍に、脱ぎ捨てられた 真っ赤な外套と麻布のチュニック そして老人たちと同じような サンダルが落ちている。 もっと大きく広場の外まで見渡せば 至るところで筋骨隆々たる男たちが 素っ裸で木剣を振ったり 木槍を突いたり、隊列を組んだり どうも戦の訓練らしきことをしている。 筆山は嘆いた。なんということか。 ついに私は裸族に転生してしまった。 ゲヘナでも服くらいは着ていた。 堕ちるところまで堕ちたと思っていたのに まだ下が隠されていたなんて。 否、下は全然隠れていないのだが。 「なんですか、大事な会議中に。 王同士で拳闘を始めるなど」 絵守に肩を貸している老人が 狼狽気味に言った。 「テルモピュライへの出兵、如何にするか。 我らが威信を守るためにも、王のご決断を」 中央の堅物そうな老人が 真剣な顔で迫ってきた。 「なるほど。地獄の次はテルモピュライか。 神も随分とスパルタだな」 絵守は老人を押しのけて ヨロヨロと立ち上がりながら言った。 「へ?テルモピュライって あのペルシア戦争の?」 テルモピュライの戦い。 スパルタの英雄レオニダス王が 二十万を超えるペルシア軍を相手に たった三百の精鋭で立ち向かい 実に二万以上の敵兵を討ち 一週間に渡って足止めしたという 伝説の戦いである。 「とにかく服を着てください」 裸の筆山と絵守は、改めて見ると 筋肉の塊のような逞しい体をしていた。 ここが、あの脳筋国家スパルタなのか。 筆山たちは、とりあえず 互いに落ちていた服を身に纏い その辺の石に腰を掛けた。 両王とも。と、老人は言った。 確かにスパルタは二王制だ。 ということは、筆山がレオニダスで 絵守がレオキュキデスということになる。 この集まりは その二王+二十八老人の三十人会議。 スパルタの最高決定機関 長老会ゲルージア。 筆山も文献でこれを見知ってはいた。 しかし頭は不満で一杯だった。 そもそも何で野外なんだよ。 屋根くらい付けろよ。 広い公会堂とかないのかって。 なんか他は木で作った 小さな掘立小屋ばっかでさ。 マントも滅茶苦茶暑いし。 でもなんか脱ごうとしたら 凄い目付きで老人たちが睨んでくるし。 この赤い外套が王の権威ですか。 王が日射病で倒れても 君たちは心配しないんですか。 嗚呼、そうだよな。スパルタだもの。 赤子が生まれたらすぐ葡萄酒に漬けて 耐えられなかったら即捨てるような マッチョ至上主義国家だもの。 よく見たら男に混じって 女まで素っ裸で訓練してるもの。 マッチョな女からじゃないと マッチョな子供は生まれないって そんなマッチョな考えなんだよ。 何というマッチョ天国。 否、こんな国 現代のどんなマッチョだって 裸足で逃げ出すに違いない。 天から堕ちてマッチョ地獄。 やはりここはジュデッカより酷い地獄だ。 🍎アカリ🍎 X 𝐈𝐧𝐬𝐭𝐚𝐠𝐫𝐚𝐦 公式LINE ✉️arabi_akari_otoiawase@outlook.jp ご予約詳細は🈁ブログ一覧
-
