「愛は茶色く古びて」〜茶色い朝〜④
――覚悟は、それを決めた翌朝から
その不足を証明しにやって来る
「よかったの?二匹もお迎えしちゃって」
「うーん。
だって姉弟を引き裂くのも可哀想だし」
「でもなんかこの二人って
血気が限界突破してない~?」
シロ子が初めての車に酔って
グロッキーになっている呂布とベスを
クレートの網目から突きながら言う。
すると呂布がシロ子の指に
親の仇とでも言わんばかりに飛び掛かった。
「いった~!」
「シロッ子!
出てこなければ、やられなかったのに!」
「ちょっと待ってアカリちゃん
出血中のカミーユはマジうざい」
アカリのナイーヴな精神に999のダメージ!
アカリは死んでしまった!
『おおアカリよ
死んでしまうとは情けない…』
「アカリ
さっきから何一人で変顔祭りしてんの?」
おひとり様世界の中
神父の前で棺桶を引き摺っていたアカリを
天から伸びてきた巨大なクロ子の手が
掴んで外界に放り出した。
「変顔じゃないよ!
ダメージを喰らってたんでしょうが!」
「ねぇクロ子ちゃん
ホントにこの子たちでよかったの~?
マジでベルセルクってるんですけど」
シロ子が指を咥えて止血しながら
呂布に恨みの目を向けている。
「まあまあ。
元気な方が長生きしてくれそうだしー」
「孔子ちゃんの方が
よかったんじゃないの~?」
「彼が来るとうちのヒエラルキーに
変な変動が起こりそうでねー。
そのうち竹林で動物相手に
禅の道とか説き始めそうっていうか」
「でもクロ子、犬飼い初心者なのに
いきなり多頭飼いとか
ホントに大丈夫なの?」
「大丈夫大丈夫。犬養毅の心意気だよ」
「どゆこと?」
「話せばわかる!」
「その後、問答無用!
って言われて斬り殺されたんじゃ…」
「まあ現場仕事に比べたら
犬の一頭二頭も二・二六も余裕っしょ」
「いや二・二六は
全然余裕じゃないと思うけど」
「青年将校がなんぼのもんじゃい!」
「クロ子ちゃんって変なとこに
ピンポイントで詳しいよね~」
「軍刀より現場の鉄骨の方が
ずっと怖いからね」
「そういう問題かな…」
かくして三人を乗せた
スズキのハスラーはクロ子の家へ。
「こんなこともあろうかと
ペット可の物件にしといてよかったー!」
「クロ子ちゃんまじエスパーじゃん」
「クロ子って昔から何買うにしても
変な保険だけはかけるよねぇ」
クロ子たち三人は
犬用のケージを組み立てながら
無駄口を捗らせた。
呂布とベスは長距離ドライブの疲れか
クレートの中でグッタリ寝込んでいる。
かくしてクロ子の育児生活が始まった。
…呂布とベスをお迎えして
二週間が経ったクロ子宅。
午前八時。
六時間ぶりに目を覚まして
充足した気持ちで居間に足を運ぼうとする。
刹那、扉を開けるのを躊躇する。
呂布&ベスが
昨日深夜から今日早朝までに
一体如何なる芸術品を
ケージ内に拵えているのかわからない。
冒険家が洞窟に入るのを躊躇する
あの臆病風が私の心の隙間を通り抜けた。
しかし、この風の吹く先に
新大陸があるに違いない。
洞窟を抜けなければ
ブルーオーシャンへは辿り着けない。
私はこんな血塗れのレッドオーシャンな
妄想に浸っている場合ではない。
そも
親が子を育てるのは当たり前のこと。
そんなことでいいんですか?
そんなことでいいんですか?
そんなことでいいんですか?
私は三度自分に問いかけた。
私はOfcause,No!
と答えて扉に手をかけた。
三度約束したぞ!
という私の中の私の声が
私の脳髄に響き渡った。
ガラガラ。プーン。
これは、決して
某NHK教育番組のタイトルではない。
全然ニコニコできない。
看過してはならない呂布&ベスの
渾身の力作がそこにはあった。
二人は立ち上がってケージに手をかけ
尻尾をフリフリこっちを見ている。
しかし、なんということであろうか。
一作品目はスノコの上。
だが
原形がないほどに押しつぶされている。
そして二作品目は
『ベスのうんちした場所でなんか
してやるもんか!ここが俺の陣地だ!』
と、いつも格闘で女のベスに
手籠めにされている呂布の
男の意地の歪みだろうか。
居間の中央に泰然自若と鎮座していた。
それは太く、大きく、蜷局を巻いていた。
それはうんちというより
もはや陶器のような
光沢を帯びた幻の逸品であった。
嗚呼、喧嘩が起きないように
キッチンの電気をつけっぱなしにして
光源を確保してから寝たのに。
やはりシェフがいないキッチンなど
嫁のいない窓際族と同じくらい
うらぶれているものなのか。
…じゃない。
そんな事を言っている場合ではない。
🏮 燈 🏮
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