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Blog@Kinpeibai
銀色の午後――時代に取り残されたのではない 追いかけるほどの 用事がなかったのである。 土曜日、正午。 湿り気を帯びたアスファルト。 乾ききった喉。潤いを求めて彷徨う私。 されど、どこを歩いても人、人、人。 街の喫茶店という喫茶店が ガザ地区から逃れてきた 難民の如き人混みに埋め尽くされ 彼らは誰しもが 午後の圧力に動きを封じられ 汗と涙で加湿された 室内に反比例するかのように 我と我が魂を干からびさせつつあった。 そんな付和雷同の彫像たちを 硝子戸の向こうに覗きこむ私に 店員から投げつけられる メカニカルに磨き抜かれた営業スマイル。 「あいにく満席でして」 宛てもなく寂寞としたアスファルトの上を 項垂れて歩く。 ノミの心臓を 耐えがたい程のムチの打擲で鼓舞して。 ふと、目の前に奇妙な光景。 道端。何もないアスファルトの片隅。 若人の男女が地べたにへたり込んでいる。 さては行き倒れたか。 やがて、私も彼らの後を追うだろう。 諦観し光の失せた眼で 若人を横目に立ち去ろうとした。 バリ…ボリ…バリボリバリ… ボリバリボリ…ブディブディバイ… Budy-budy-bye… 行き倒れにしてはレゲトンな音が 通り過ぎた後方から聞こえてきた。 思わず振り向く。 大きく膨らんだ銀色の袋。 それは若人二人の手を呑み込んで 中身を膨張させていた。 若人二人はその手を互いに貪り合い 咀嚼していた。 あな恐ろしや。 令和は既にバイオハザード10の 発売を待たずして腐敗の極みに達し こんな道端にナチュラルに リビングデッドが徘徊する ようになってしまっていたとは。 これが夢を見失った令和キッズの 成れの果てなのか。 やはり魂が腐ると肉体も それに付随するのだなぁ。 そして私もまた 片方を喰い尽くした片割れに襲われ 道半ばにして道の半ばで生涯を Budy-budy-byeすることとなるのだろう。 ダッシュで逃げれば何とかなるだろうか。 否。奴らは音に敏感だと カプコンが言っていた気がする。 それにもう私にはダッシュボタンを 押し込む気力も残っていない。 こうなったら喰われる前に 二人とも喰ってやろうかしら? 私はそういえば歯医者に こないだホワイトニングの予約を したばかりだなぁと思ったのを 最後に思考がホワイトニングした。 目が覚めると私は近くのベンチで 涎を垂らしていた。 嗚呼、そうだ。 疲れて腰掛けたら尻が餅になって ベンチにくっついて 離れなくなったんだった。 グール二体は相変わらず銀色の袋を 媒介にして互いの掌を貪り喰っている。 身は天下にあって 眼下に餓鬼道をみるとは。 浮世のかくもおもしろきものよ。 しかしグール二体は一向に その体積を減らしてはいない。おかしい。 ウロボロスの輪でもあるまいし。 喰べた先から再生? ご冗談を。 そんなことになったらグリーンハーブが なんぼあっても足りませんよ。 いくら浮世がクソゲーと言われて 久しいからと言って それではゲームバランスが 崩壊し過ぎでございます。 よく見るとグール二体は仲睦まじくたまに 見つめあっているようにさえ見える。 末世だ。 生産性を根こそぎ奪われたグールに 恋心を与えるとは。神は正気だろうか? 私は天に向かってFuck!と唱えた。 Fuck!はそのまま私の口の中に 垂直落下して戻ってきた。 嚥下すると罪障の味がした。 非常に苦かった。 余計に喉が渇いた気がした。 代わりに少し正気が戻ってきた。 なんということか。 グールと見下げ果てていた 目の前の二体は 今だ朝露滋くコンクリートに投げ出された 銀の袋に指を突っ込み 公衆の面前で互いの口蓋に それを施し合う途轍もない アブノーマルなバカップルであった。 唾液に濡れる指に気を留めることもなく 睥睨する人目に恥じ入ることもなく 二人は ただ無心にBudy-budy-bye-Budy-budy-bye… 油に塗れた芋の薄片と 伴侶の細指の表面を存分に味わい 咀嚼している。 これが令和最新の 野外ビュッフェデートスタイル。 私どもの時分はピクニックと称して 薄い布を持参し丘へ登り 広げた布の上で 予め自宅で拵えてきたサンドイッチなどを 相手の頬袋に詰め込み 「三度に一度は賛同一致」 などとオシャンティに韻を踏み 伴侶が右の頬を差し出せば 己は左の頬を身代わりに差し出し 相打ちにこれを打擲して キャッキャウフフすることを デートスタイルとしたものであるが 時代が変れば風習・風俗も ガラリと変わるもの。 まして此処は青々と茂る芝生もなければ 木漏れ日の差す丘もない。 ただの土臭い都会の路端である。 そこでポテチの袋を依り代に 愛を語らうなど 何という斬新。何という無頼。 たとえ彼らが住所不定無職だったとしても その愛は揺るぎないし 私はそれを疑わないだろう。 しかし、私は愚考した。 タコスだとか、ナチョスだとか あれがそういった異国の軽食であったなら そう無頼漢には 見えなかったのではないか? も少しこう、街道の色に溶け込んで 私がわざわざ深淵近くの思慮に 呑み込まれずに済んだんじゃないかしら? 他の道行く人々も同じくこれを いかにも都会の若者の 奔放な昼下がりとして 微笑ましく 見逃してくれたのではないかしら? こんな、中東のイザコザで 表紙から色まで奪われたポテトチップス。 日常の垢にまみれた銀色が 私をあのような狂気的な思弁に 狩立てたのではないかしら? つまり、あの時ござっていたのは 私の頭だったかもしれないが それを誘発したのはこの銀色から 発せられる怪電波に違いない。 きっとそうだ。 それを防御するっていったら そりゃもう やはり頭にはありったけのアルミホイル。 全身には般若心経を書き記した上から 直垂を纏い、頭には烏帽子を被り 手には瓢酒。 「ハライタマエキヨメタマエ」 と頭からこれを被って火をつけて アグニの神を名乗り 黒煙と共に空間と調和する。 この黒煙を以て やっとあの憎き銀色の怪電波を 黒塗りで無効化することができるのだ。 さっきから私は一体何を言っているのか。 きっとこれもアグニの神が 私の身体を乗っ取って こんなことを書かせているのだろう。 私がサンスクリット語に 疎いからといって。 Fuckin' Fire Yoga Fire. まあ見方を変えれば 世の中というものはいつだって 私の預かり知らぬところで 目まぐるしく流転していくもの。 私のような旧弊な人間が 「道端でポテチだグールだ」 と眉をひそめている間に 新しい時代の風はもう 吹き抜けているのかもしれない。 かつて海を越え我が朝を席巻した 「ニューヨーク・スタイル」のように これからはこの「東京道端ポテチ」こそ 流行の最先端粋となるのやもしれない。 嗚呼、神よ。 もしそれが我が朝の未来の 美徳であるとするならば 私は喜んで路端のアスファルトに零れた ポテチを食しながら 現代版・塩の行進を行いましょうおず。 アスファルトに腰を据え 指先の塩を舐め合いながら 微笑む二人を随分と通り過ぎて 私はフッと息を漏らした。 拝啓、父上様。 今日も今日とて、トーヨコは汚ねぇです。 🏮 燈 🏮 X 𝐈𝐧𝐬𝐭𝐚𝐠𝐫𝐚𝐦 公式LINE ✉️kinpenakari.otoiawase@gmail.com ご予約詳細は🈁ブログ一覧
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「愛は茶色く古びて」〜幸福の匂い〜⑪かくして私は親権をクロ子に 委ねる代わりにベスを譲り受けた。 そして犬の学校に ベスを連れていくことに。 クロ子も呂布を連れて同行した。 期間は一週間コース、二週間コース 一ヶ月コースと様々選べ、中々のお値段。 そのメニュー表を見てクロ子が口を開く。 「大体どれくらいで 粗相は治るもんなんですか?」 「一ヶ月ですね」 「では一週間コース、二週間コースでは 治らないと?」 「まあ、そうですね。一、二週間だと 少し難しいかもしれませんね」 「粗相を治すための学校なのに?」 「ですから一ヶ月は お時間いただかないと習慣が…」 「じゃあ一週間コース二週間コースが 何故あるんですか?」 「それはその、お金やお時間など 中々ご都合がつかない方のために…」 「でも治んないんですよね? それってどうなんですかね? 相手の懐事情や仕事事情に付け込んで 治りもしないコースを設定して 誘導するなんて詐欺…」 「ちょっと待ったクロ子! クレーム付けにきたわけじゃ ないんだから!」 私はたまらず割って入ると 手習いの幇間ぶった謝罪をして その場を収めた。 担当者の人は 苦笑いを顔に貼り付けたまま 犬たちの運動場を案内してくれた。 広大な、柵で仕切った スペースがそこにあった。 トイレはトイレシートを新聞紙の上に 何枚か置いただけの簡易なものが 端の方に備え付けられている。 「大体ここで 一日15分を日に二回くらい。 今日みたいに新しいワンちゃんの 来客があった時なんかは 一時間くらい遊んだりしますねー。 呂布くんとベスちゃんも ここならクレートから出してもらって 全然大丈夫ですよ?」 私たちは相変わらず車酔いで グロッキーになっていた呂布&ベスを 見知らぬ広大なコンクリートスペースに 解き放った。 呂布&ベスは偉大な冒険家であった。 普通であれば こんな広大な見知らぬ コンクリートスペースに 突然放り出されたら 膝が震えて立ち尽くすか クレートに退却して 輪廻転生に向けて思考を転嫁し 来世はライオン!来世はタイガー! …等と現実逃避をはかるであろう。 しかし彼らは逃げなかった。 そしてライオンや虎のことも 知らなかった。 呂布&ベスはクレートを出るや お互いの尻を追っかけまわして走り回り なんと初めましての異国の陣地において ちゃんとトイレシートの上に おしっこまでした。 「ベス…うちではあんなに得手勝手なのに なんで?なんでなの?あんたって子は…」 私は当たり前に礼儀を弁えたような 顔をしておしっこをしているベスを見て 嬉しいような裏切られたような親心として 実に複雑な涙が溢れ出そうになった。 「ベスは借りてきた猫状態だねぇ。 犬だけど。 他人の家ではお利巧にできるんだね。 レンタルわんこちゃん。 呂布はいつも通りいい子だねぇ。 良い子良い子ー」 クロ子がうちの子にとっては 当然のことですけどね? みたいな態度で呂布を褒めそやす。 「クロ子!ベスのこも褒めてよね? 離れてもあんたの子でしょうが!」 「でも育ての親はもうアカリだし 犬と人にも相性ってのがあると思うのよ。 私と呂布の相性と同じく アカリとベスの相性も そっちの問題じゃん? それに、私が介入したら ベスが混乱しちゃうじゃん」 「親権はクロ子にあるでしょうが!」 「でも娘さんをくださいって言ったのは アカリじゃんか。 だったら娘の躾くらい親として ちゃんと面倒みてよねー」 なんという身勝手な ビッグダディであろうか。 面倒事を押し付けるかのように 私にベスの躾を任せるなんて。 クロ子の姿が、まるで離婚して 養育費も払わず新しい家庭で 厚顔無恥に幸せを謳歌する 無責任な父親の姿と重なって見えた。 …しかしそこで 思考にブレーキが掛かった。 そもそもクロ子が返せというベスを 自分が責任を持って育てるから と譲って貰ったのは私だ。 クロ子が呂布の父となり 私がベスの母となるのは 当然のことじゃないか。 危ない危ない。危うく愛情の行方を他責にするところだった。 私は内心で己の愚考を犬神様に懺悔した。 しかし犬神ってそもそも 呪詛の憑き物のイメージの方が 我が国では強くないか? 私の脳裏に池から突き出た スケキヨの足が浮かんだ。 あの足がスケキヨではなく カズマの足だということを 犬神家の一族を観た人以外は 知らんのだろうなぁ。 カズマも正しい神に祈っていれば 足じゃなく、せめて顔を 水面から浮かばせることができただろうか? それはそれで怖い気がする。 その後 カズマの生首を持ったジェイソンが クリスタルレイクから 上がって来そうだし。 クリスタルではなく せめてほのぼのレイクくらいに していただきたい。 いや、それも御免被る。 私はかつて大家に頭を下げて 借金地獄に陥った夢を思い出して震えた。 そもそも犬神なんぞに関わるから 私の思考もこんな 絡まったことになるのだ。 正しき神に祈り直さなければ。 馬頭観音とか? でもあれ系の神様は 地獄の牛頭・馬頭と区別が付きづらくて まどろっこしいような… そんなことを考えた結果 私はいつしか般若心経を唱え 一切は空なり。 と、この世の摂理を己に説き 自己暗示を掛け始めていた。 ところに、他の犬たちがやってきた。 「この子が同じ ポメラニアンのマルちゃん。 ちょうど一歳の女の子ですよー」 ベスより少し大きめの白いポメラニアンが トレーナーに連れられて 運動場に加わった。 三人はグルグルと お互いの尻を追いかけまわし始めた。 正直、高速で移動されると どっちがベスかわからなくなる。 顔を見ればわかるのだが。 呂布&ベスは大きな口で ウルフ味があるのに比して マルちゃんはキレイに丸顔。 赤い狐というより緑の狸である。 白いけど。 高速で回転する三人を見て 私は呂布&ベス&マルちゃんが 油揚げの入った白いバター麺にならないか 少し心配した。 クロ子は一緒に輪に入って サイドステップを用いて回転していた。 「そしてこの子がパグの男の子 シンジくんです」 鼻ペチャな、黒く愛らしいシンジくんは しかし見た目とは裏腹に大人しかった。 まるでロボットに乗りたくなくて 不貞腐れている思春期を拗らせた 中学生のようだった。 そんなシンジくんが 伏せて動かないのを見て 呂布&ベスは一定の距離を保ちつつ これを観察していた。 新大陸の先住民に 出会ったかのような反応であった。 「顔平族の子たちが珍しいんでしょうね。 この子たち、目鼻がくっきりしてるのが 当たり前と思ってますから」 なるほど確かに黒船で マシュー・ペリー率いるアメリカ兵を見た 吉田松陰もこんな気持ちだったのだろうか。 しかし呂布&ベスに 吉田松陰ほどの尊王攘夷の 志があるはずもなく 程なくしてまたマルちゃんと 犬渦を作って走り出した。 クロ子だけがシンジくんの 気を引こうと一人 ロボットダンスを披露していた。 🏮 燈 🏮 X 𝐈𝐧𝐬𝐭𝐚𝐠𝐫𝐚𝐦 公式LINE ✉️kinpenakari.otoiawase@gmail.com ご予約詳細は🈁ブログ一覧
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