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Blog@Kinpeibai
一音ズレた世界【転】仕事の話になるとシロ子が口汚くなる し 正月の話になると クロ子が哲学者になってしまうので 話の焦点は自然と私の本の件へ向けられた。 「でもさぁ、なんで私の名前クロ子なわけ? 黒子みたいじゃん。脇役じゃんって」 「プライバシーの保護 というものがありますので」 「私なんて登場すらしてないよ~」 「正月しか会ってませんので」 「でも音響時代のエピソードとか 沢山あるんじゃないの?」 「音響を題材とした 日記というわけでもありませんので」 「ええ~?いいじゃん。書いてよ~」 内心ではシロ子との思い出に ロクなものがないという理由を 第一義としていたが この場で口に出しては言わないことにした。 結局ここで書いてしまっているので そのうちいつか詰められることだろう。 多分、来年あたりに。 「…っていうかみんな、寒くないの?」 そうなのだ。 実は私はこの店に入ってきてから ずっと身を縮めて寒さをやり過ごしている。 クロ子が小洒落た、と言っていた この居酒屋は古民家風の木造建築なのだが それ故に防寒性に乏しい。 にも関わらず防寒対策は 少数の薪ストーブや火鉢のみ。 いくらなんでも趣に偏って 実用性を蔑ろにし過ぎではなかろうか。 こんなもので外からの寒波が 凌げるはずがない。 引戸や障子、格子戸を抜けてくる隙間風。 床下からの底冷え。 外よりはましだが、決して暖かくはない。 足腰からじわじわと寒さが上ってくる。 抜かった。完全に失念していた。 「コダワリ」のある「小洒落た」店には 寒さだけを江戸中期のまま 据え置きにしてあるような罠が しばしばあるということを。 とにかく、今の私に必要なのは 歓談でも団欒でもなく床暖だ。 「ん?別に?そんなに寒い? アカリ結構着込んでるじゃん」 確かに私はパーカーに中綿ジャケット それにエスキモー帽子を被って 見た目にはイヌイットのようであった。 対してクロ子はあろうことか ジャケットを脱いで タンクトップになっている。 まずこの時期にタンクトップという センスが私の理解を苦しめるが そこは離島生まれ離島育ち 寒そうな奴は大体トモダチの クロ子のことであるから 多くは突っ込むまい。 しかし問題はクロ子だけではない。 見れば店員たちも全員、半袖ではないか。 一体これは如何なる禍事か。 まさか私一人が 江戸中期にタイムトラベル してしまっているのだろうか。 だとすればクロ子は 江戸中期の町人ということになるが …確かにクロ子はそう言われれば 納得できてしまう範疇の人種でもある。 ならばその隣で のほほんとしているシロ子はどうか? とても昔の人には見えない。 そもそもこの時代の日本に 列強諸国との国交があったはずもなく シロ子が江戸中期の町人であれば こんなロシア帽を 被っているはずがないのだ。 というと クロ子のミリタリーファッションの方は どう説明をつけるのか! と私の中のソフィスト的な私が 私を糾弾してくるかもしれない。 ならば簡潔にお答えしよう。 それは、きっとクロ子がクロ子独自の 斬新かつ狂った空想でもって拵えた ハンドメイドの着物や脚絆が たまたま現代においての西洋軍服を模した アパレルに似通ってしまった というだけのことである。 その実、きっとクロ子は ヨーロッパの存在すら知らない 無学な豆屋か何かの小娘であるに違いない。 そんなことはクロ子においては いくらでもあり得る話なので 実際に一々考える必要もない。 さてここまでの話を総括して シロ子を解析してみると、結論は一つ。 つまりシロ子もまた 知らぬ間に次元の 狭間かなんかに巻き込まれて 私と同じく江戸中期に タイムトラベルしてきた ということである。 その証拠にシロ子は 未だロシア帽もコートも纏ったままだ。 「シロ子は?シロ子は寒いよね?」 「え?別にそんなでもないよ~」 「でも上衣脱がないじゃん」 「これはこういうコーデだから~。 下はただのシャツだし」 なんだかムカついてきた。 この期に及んでこのアマは 何を頓珍漢なことを言っているのか。 それとも何か脱げない事情でもあるのか。 …その時 後頭部を角材でぶっ叩かれたような 衝撃が脳髄に走った。 何ということか。 シロ子は私と共にタイムトラベルしてきた。 そこまでは間違いないだろう。 しかしシロ子は巻き込まれたのではない。 シロ子が私を次元の狭間に巻き込んだのだ。 つまりシロ子はいわゆる 時空海賊団的な一味の一人であり 私を江戸中期の時間軸に誘致。 そして自らは素知らぬ顔で私の傍にいて 監視官として私を管理しているのだ。 新年早々 とんでもないことに巻き込まれてしまった。 一体目的は何であろうか? 私を江戸へ置き去りにして泣き喚き苦しむ 人体実験データでも取りたいのか? それとも元の時代に帰りたいのなら 言うことを聞けなどと 機を見て脅迫を試みるつもりなのか? どっちにしたって御免被る。 こうなったらこっちから打って出るしかない。 幸いにしてシロ子の目論見は 実を結ぶ手前で私の千里眼の前に暴かれた。 そしてこの女が上着を脱がない理由 …コートの下に何か時空転移装置的な物を 隠しているに違いない! 驕ったなシロ子。 この私を侮った報いだ。 今度は逆に私が、お前の薄汚い面の皮ごと そのコートを引っぺがし 秘密を露呈させて 逆に海賊たちを脅迫してやる。 私は、必ず元の時代へ帰る! 🍎 燈 🍎 X 𝐈𝐧𝐬𝐭𝐚𝐠𝐫𝐚𝐦 公式LINE ✉️kinpenakari.otoiawase@gmail.com ご予約詳細は🈁ブログ一覧
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一音ズレた世界 【起】――その夜、私は半拍遅れて生きていた。 今年初めの正月のこと… あけましておめでとうございます。 発すべきタイミングを失った挨拶は 言葉としての行き場をなくして中空に彷徨う。 なぜこんなことになってしまったのか。 日記もなにも書かずに お前は一体何をしていたのか。 私は池の橋で呑気に佇んでいた怠惰な私に 掴みかかって問いただした。 うるさい。私は書きたいときに書く。 休みたい時に休む。そして泳ぎたい時に泳ぐ。 怠惰な私はそういうと私の手を振りほどき おもむろに体を翻すと同時に いきなり橋から池に飛び込んだ。 おい、何をしているんだ。 理屈にならない理由を嘯くんじゃない。 戻ってきて然るべき反省をしたまえ。 私は大声で湖面に向かって怒鳴り散らしたが 怠惰な私が二度と 浮かび上がってくることはなかった。 後日、別の私に聞いてみたところ なんでも怠惰な私は潜水泳術にて 二百里の彼方に遁走し 今はどの私も彼女が脳髄の どこに依拠しているのか知る私はいない。 怠惰な私の癖に 逃げる時には一切これを怠らない。 なんと太々しいことだろう。 私は彼女のような私には 決してなるまいと改めて思った。 しかし彼女は一体どこでそんな くノ一じみた術を習得していたのか。 私は思ったよりも私のことを知らないものだ。 年の初めの肌寒い夜中。 友人クロ子から 「小洒落た居酒屋で新年会でもしよう」 と誘いを受け その「小洒落た」という響きの餌に吊られて ノコノコ外に出てみれば 肌を刺す風が雀蜂のように あちこちに群れをなして 我が物顔で往来を右往左往 新年を冷かしていた。 いっそこの風たちも蜂のように 冬は大人しく冬眠していればいいのに 自然というものは 年がら年中師走の如く働いている。 ご苦労なことである。 しかし今は非常にタチの悪いことである。 まあ私たちも年がら年中馬車馬のように 無理をして働いている人の多いことだから そんなに人、いや自然のことは言えない。 ともすれば私だって自然の一部であるのだし。 しかしなんで私たち人間だけが 冬眠もせずに駆動し続けられるのか。 それは細かいことを言えば 文明の利器のおかげとかなんとか 言えるかもしれない。 しかしそれはいわば 人間が人間的に進化して 獲得したものであって だったら熊も冬を凌げるように毛皮を強化 炬燵も逃げ出す 防寒熊に進化するべきだったんじゃないか? というとダーウィンや進化論者に 新年から袋叩きにされそうなので 他の論を提唱した方がよかろう。 人間、これ即ち霊長類。 霊というのは自然とも取れる。 つまり最も自然に長けたる者。 謂わば超自然な感じ。 そう、我々人間は 他の生物より一層自然に近い 「超自然体」なのではないか。 そうしてその人間の中でも 更に自然的態度を持っている特異的な人を 我々は「超然としている」と言う。超然。 つまり自然の理をも超えたところに 人間は到達可能なのである。 更にその上には 「天然な人」というのがある。天然。 天にあって然るべき存在。 これ即ち神に並ぶということで 大戦前の我が国でいうならば 天皇陛下がこれに相当なさったであろう。 神の座に並んで腰かける陛下を仰ぎ奉る。 やはり大和は日出づる国だけあるなぁ。 めでたいなぁ。 しかしいくらめでたかろうと寒いものは寒い。 いくら超自然体な私でも彼方此方から 群れをなして襲ってくる自然の人海戦術… 否、然海戦術には多勢に無勢。 自然はこのようにいつも然海で 開けっ放しに襲ってくる。 こんなに全開にされては ATフィールドでも防げない。 心の壁が開きっぱなしの人を前に 心を閉ざし続けるのは中々困難なものだ。 金八・鬼塚が担任・副担を務めるクラスで ナガサワ君然とし続けることは とても苦しいことだろう。 同様に私の帰路も非情に苦しい。 もはやこのまま眠ってしまいたい。まずい。 眠ってしまいたいということは 身体がもはや寒さを通り越して 温もりを感じ始めているのではないか。 よく雪山かなんかで 遭難して逝ってしまう寸前 暖かさを感じるというが あれは身体が限界を迎え 脳機能や循環器系が破綻する直前に起こる 身体のメカニズムによるもので 決して実際に周囲が暖かくなるわけではない。 騙されるな我が体躯よ。 極限の寒さの後に訪れる 一時的な感覚異常を愉悦と捉えるなかれ。 上司に罵倒され続けて 何だか気持ちよくなってきた 部下みたいな豚になり下がっては 人間の甲斐がありませぬ。 結局その行き着く先は 自殺か他殺なのだから。 「この人殺しめ!」 余りの寒さに私が風に向かって叫ぶと それに呼応するかのようにLineが鳴った。 クロ子からだ。 「ごめん、十五分くらい遅れるから 先にシロ子と飲んでて!🎍」 人殺しに追われている最中 我が友は時間泥棒をしている。 新年早々なんと物騒な世の中であろうか。 私は寒風吹きすさぶ中 これを世間の風当たりと思えば 歯をくいしばって耐えるしかないと 己を鼓舞し歩を進め 待ち合わせの居酒屋へ十分前に到着した。 吐き出し窓から中を見ると 奥の方でシロ子が既に席についていて こっちに笑顔で手を振っていた。 シロ子とは音響の仕事をしていた 時期からの付き合い、所謂同期である。 怒号飛び交う体育会系の現場の中で おっとり系のシロ子は どんなに怒られてもケロッとしていて 切り替えの早いタイプだった。 対して私は怒られる度に とりあえず踊っておくかと その場で腰をフリフリして お茶を濁すタイプだったので 周りからは気が違ったのではないかと 随分と心配された。 特にシロ子はこれを一際深刻に捉え 「パニック障害じゃないの? 病院行かなくて大丈夫?」 などと気の毒そうな目を 真っ直ぐに向けながら本気で問うてきた。 純粋な気遣いという類の暴力が この世にあることを知った。 純粋という死角からの強打に グラついた心をニュートラルに戻すために その日は現場のバラシが終わっても しばらく踊りを止められなかった。 白は二百色あるとアンミカが言っていたが きっとその中には 黒よりも尚黒い白があるに違いない。 シロ子を見ていると ふとそんな気持ちになることがある。 🍎アカリ🍎 X 𝐈𝐧𝐬𝐭𝐚𝐠𝐫𝐚𝐦 公式LINE ✉️kinpenakari.otoiawase@gmail.com ご予約詳細は🈁ブログ一覧
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