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Blog@Kinpeibai
一音ズレた世界【結】そう心に決めた私は早速攻勢に打って出た。 「え~どんなシャツなの?気になるなぁ。 私はほら、パーカーの下は ダサダサなTシャツだよ。 もう丸首んとこダルダルだよ。 部家着のまんまで来ちゃった。 テヘペロッ☆」 私は肩を竦めて寒さを受け止めながら ジャケットとパーカーを脱ぎ ボロボロのTシャツ一枚になった。 タンクトップのクロ子よりは マシかもしれないが 江戸中期の町娘と現代っ子を 耐寒性で競わせても詮無いこと。 そして私のTシャツにはSystem of a Down というバンド名がプリントされていた。 確かに私のシステムはダウン寸前であった。 「え~ほんとに肌着じゃん。ヤバッ。 でもなんか私だけ厚着してて 恥ずかしくなってきたな~」 「そうですそうです。 我が国には和を以て尊しとすという ありがたいお言葉がありますからね。 何事も自我に拘泥せず付和雷同して 他に追従してこそ大和魂というものですよ」 「アカリ なんか言語が混沌としてきてるけど大丈夫? 寒いんじゃなかったの?」 「んなこたごぜあせんよ。 あっしは歯の音が合わずとも こうしてきちんと発音できてるでげしょ? これが正気の証明ですよ。 アチキの気が違っていたら こうも流暢な発音は儘ならんぞなもし。 あくまで某は公明正大でげす」 歯の根が合わないのを食いしばって 何とか喋っていると 今度は言語中枢が嚙み合わなくなり 私の言語は支離滅裂を極めた。 「見て見て~。このシャツJil Sanderなの。 やっぱハイブランドはワンポイントでも ハイソな感じがいいよね~」 いつの間にかシロ子は 白T一枚になって飄然としている。 馬鹿な。時空間転移装置は? 私は何を見落としたというのか? …ホッカイロだ。 ヤツは体中にホッカイロを 貼り付けているに違いない。 きっとクロ子も店員たちもみんなそうだ。 よってたかって 私を謀りにかかっているのだ。 思えば今日ヤケに寒いと思ったら ホッカイロを貼ってこなかった。 私はホッカイロなしでは 冬の外場が卒塔婆に なってしまう体質なのだ。 やられた。 Tシャツ一枚になった私の意識は もはや朦朧としている。 「…そのじるさんだーも脱いで…」 口が勝手に動いていた。 「え?」 「その中に隠してるのは ご明察の通り白日の下の晒上げなのである」 「おいアカリ ちょっと何言ってるかわからないぞ」 クロ子が余計な横やりを入れてきた。 「だまらっしゃい。 こっちはもう少しで このアマを剥けるとこなりけり」 私はカタカタと震える首を傾けながら クロ子を睨みつけた。 すると流石のクロ子も気味が悪かったのか 見てはいけないようなものを見てしまった というような蒼ざめた顔をして固まった。 すると突然 シロ子が両手を優しく私の肩に置いてきた。 そして言った。 「パニック障害じゃないの? 病院行かなくて大丈夫?」 瞬間、意識が反転した。 私はシロ子に掴みかかり じるさんだーをビリビリに破り捨て それだけでは飽き足らず 腹に手刀を突き込んで中身を抉り出した。 シロ子のハラワタは真っ黒であった。 ほーらね。黒よりも黒い白があるってこと。 私の意識はそこで途切れた。 「アカリ、聞いてる?おーい」 タンクトップのクロ子が 私の顔を覗き込んでいる。 ハッと我に返って言葉を返す。 「あ、ごめん、聞いてなかった。寒くて。 何だっけ?」 「いや、シロ子とアカリが 店ン中でも厚着して脱げないのは 家と職場の往復で 耐性がなくなってんじゃないかって話よ」 「確かに最近は ぬくぬくした現場ばっかだからね~」 ロシア帽にコート姿のままのシロ子が モツ煮を口に運びながら答えている。 「そういやクロ子って 今何の仕事してんだっけ~?」 「私?ドボジョよ。ドボジョ」 「ドボジョ?何それ? 凄くボンジョビのファンってこと?」 「違うよ。土木女子。 これでも現場監督なんだからな」 「へえ~。 だからそんな薄着でも平気なんだ」 「あたぼーよ。土方舐めんなってハナシ」 クロ子は得意になって 変な言葉遣いそのままに 土木業について語り始めた。 すると段々意識が明瞭になってきた。 なんということか。 私はあまりの寒さに耐えきれず 会の途中から 意識を妄想の中に耽溺させていたのだ。 そしてあまつさえ、その幽界の先で 友人のハラワタを引っこ抜いてしまった。 「…ごめんねシロ子」 ボソリと、懺悔の念が口から零れ落ちた。 「え?何が?」 「いや、ハラワタ…」 「ハラワタ?ハラワタってこれ?」 シロ子はモツ煮を指しながら ポカンとしている。 確かにそれは牛のハラワタである。 「欲しいの?」 「…え?ああ、うん。 ハラワタ、私も頼めば良かったなぁって」 「いいよ~。これ全然美味しくないからさ。 食べきるの地獄だな~って思ってたんだ。 はい、あげちゃう」 シロ子がモツ煮を 丼ごとこちらにスライドさせて寄こした。 謝らなきゃよかった。 大体モツ煮に失礼だ。 私は目の前の黒いモツ煮に敬意を払い 命をいただきます。 と心の中で唱えて頬張った。 地獄のような味がした。 黒目が白目になりそうだった。 黒より黒い白が、やはりこの世にはある。 そう思ってクシャミが出た。 くしゃみの途中で諦めた みたいなクシャミだった。 現実が一瞬ズレた気がした。 🏮 燈 🏮 X 𝐈𝐧𝐬𝐭𝐚𝐠𝐫𝐚𝐦 公式LINE ✉️kinpenakari.otoiawase@gmail.com ご予約詳細は🈁ブログ一覧
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一音ズレた世界【承】「あけましておめでと~。久しぶりだね」 シロ子は真っ白なロシア帽 丈の長いクリーム色の ダブルのファー付きコートに身を包み 北海道生まれの肌の白さも相まって 雪の妖精のような雰囲気を醸し出していた。 「うん、一年ぶりだね」 「去年の新年会ぶりだよね。 元気してた~?」 「うん。暮れの方はだいぶ忙しくて 往生したけど」 「そういや本出るんでしょ? 重ねておめでと~」 「え?なんで知ってんの? あいや、ありがとうなんだけど」 「クロ子ちゃんから聞いたよ~。 それで忙しかったんでしょ? 出版なんて私には未知の世界だな~」 「そうそう。 初めてだから勝手がわかんなくてさ。 もう出版社を行ったり来たり…」 「ところでモチモチ花魁ってなんのこと?」 「え?」 「いや、予約しようとAmazonのページ見たら そう書いてあったから」 「ああ、あれは編集の人が なんか気に入っちゃって…」 「新年に合わせて鏡餅的な意味合いで ネーミングした的な?」 「いや、そういうわけじゃないんだけど…」 「あれかな、モチベが溢れてるのを 反復して強調してるのかな?」 「う~ん、話せば長いような短いような なんもないような…」 これだ。これなのだ。 シロ子は疑問に思ったことがあると 自分の中で納得が行くまで 真っ直ぐな眼でひたすら問い詰めてくる。 こちらが尻尾を巻きかけても 全く撤退を許してくれない。 「ないよ!モチモチ花魁に意味なんか! あるわけがないよ!こっちが聞きたいよ! 強いて言うなら語感だよ!」 私は開き直って 強い語調で本音をぶちまけた。 シロ子は未だに納得いかない顔で 訝しげにしている。 しかし今だ。今しかない。 シロ子の口撃の手が一瞬 逡巡して緩でいる此処が先途だ。 「それよりシロ子の方はどうなの?音響」 「もう長いからね。 結構ベテラン風吹かさしてもらってるよ」 よし、何とか話頭を相手方に向けたぞ。 私の前頭葉で勝鬨が上がった。 しかしシロ子は仕事の話になると 人が変ったように意地が悪くなるのだ。 「現場はどんな感じなの?」 「面倒なことは殆ど下に任せて 私は上でふんぞり返ってるだけ」 「よくそれでストライキが起きないね」 「まあね。だってみんな馬鹿みたいに 私の言うこと聞いてくれるんだもん」 「まあ私たちもそうだったしねぇ」 「そうそう。奴隷よ奴隷。 最近の子は我慢強いよ。使えないけど」 「それ私たちも めっちゃ言われてたと思うよ?」 「私もまさかあれほど憎んでた大人に 自分がなるとは思わなかったよね」 「下積みの子は大変だよねぇ」 「まあ私もそうだったし? 甘やかしちゃダメだよ」 「こうしていじめられっ子が いじめっ子になって パワハラが脈々と受け継がれていくのだね」 「しょうがないじゃん? 現場は戦場なんだから」 「私なんか下積みで辞めたようなもんだから 何もお零れがないよ」 「でもいじめっ子に ならずに済んでよかったじゃん」 「私はいじめなんてしないよ」 「モチモチ花魁だもんね」 シロ子が口元に含み笑いを浮かべた。 私はシロ子のロシア帽を引っ手繰って 中にビールを注いで 戻してやろうかと思ったが まだお通ししかきていなかったので それもできなかった。 あな口惜しや。と、思っていたところに やっとクロ子が来た。 「いや~あけましておめでとう! 個人的には何もめでたくないけど!」 クロ子が周りに気を遣わない大声で 大手を振って入ってきた。 カウンター席のお客が何人か振り返った。 目深なニット帽に 厚手のミリタリージャケット ブカブカのカーゴパンツに ゴツゴツしたタクティカルブーツを履き 全身これ黒一色に統一した クロ子の出で立ちは フランス外人部隊の不良が脱走してきた みたいな感じで、ただでさえ目立っていた。 しかしクロ子は一切これを意に介さず ズンズン店内を進み 足だけで器用にブーツをスッポリ脱いで 大股で私たちの奥座敷に足を乗り上げた。 遅刻の慚愧を微塵も感じさせないところが 今年も相変わらずクロ子である。 「年始くらい めでたがってもいいでしょうよ」 「いや、テレビ番組が 正月特番に乗っ取られて地獄だよ」 「クロ子ちゃんは昔っから テレビっ子だもんね~」 シロ子がいつの間にか おっとりモードに戻っている。 「正月特番、楽しいじゃん」 「なんか無理やりテンション上げて 笑ってる人みるとやるせなくなるんだよね」 「みんな楽しんで 自然に笑ってるのかもしれないじゃん」 「一月一日に毎回ピンポイントで 愉快なことが起こる人生なんてないでしょ」 「でも日本人は何にでも 付和雷同だからね~」 「そうそう、嘘でも周りが楽しくしてたら テンション上がるじゃん」 「周囲の熱狂に呑まれるのは 酒に吞まれるのと変わんないよ。 そんで呑まれてないと共感性が欠如してる! なんて全体主義を発揮してくるんだから 世も末だよ」 「クロ子は変なとこで頭固いなぁ。 日本人は働きすぎなんだから 祝日は楽しんだ方がいいんじゃないの?」 「特に祝う気持ちがないのに 祝日ってなんだかねぇ」 「祝日がないと特別な日なんて そうそう訪れないじゃん」 「日常の中にしか 特別な日なんて存在しないよ。 自分だけ特別を感じてりゃいいじゃん。 みんな特別を感じるのが下手なんだよ。 周りがありがたがってないと それを特別視できないなんてさ。 ただのルサンチマンじゃん」 「なんだかクロ子ちゃんは哲学的だね~」 「いい加減目覚めなさい日本人!」 クロ子は某ドラマの天海祐希のモノマネを 右翼バージョンで絶叫すると それで気が済んだのか 「まあとりあえず乾杯しよ!乾杯! 何にかは知らんけど! てかまだ何も頼んでないじゃん!」 お兄さん!ビール三つ! クロ子の大声が厨房付近の店員に直撃すると よろこんで!と負けず劣らず 威勢の良い声が山彦のように返ってきた。 程なくして大ジョッキが三つ運ばれてくる。 入店してから約四十分後。 かくして私は漸く乾杯に辿り着いた。 「出版おめでとう!乾杯!」 クロ子の気を利かせてくれた音頭に 私は少し照れてしまって ジョッキを合わす勢いが 角度と共に減じて衝突。 均衡を欠いた乾杯は みんなのジョッキから泡を側面伝って滴らせ テーブルの上に 雪だるまのような染みを作った。 🏮 燈 🏮 X 𝐈𝐧𝐬𝐭𝐚𝐠𝐫𝐚𝐦 公式LINE ✉️kinpenakari.otoiawase@gmail.com ご予約詳細は🈁ブログ一覧
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