ジューダス・クライスト【第二十三話】
お題:異世界転生・歴史探訪
嘘つき同士の友情・最期の晩餐
希望と空虚・臆病者
据え膳食わぬは男の恥
正解と正しいは違う
風がない。空気が動かない。揺れもしない。
静かだ。ひたすら静かだ。
足元が凍っている。
周囲も凍て付いて止まっているかのようだ。
冷たい。ひたすら冷たい。
そこは、全てが冷徹で静寂な空間だった。
筆山はついに地獄に来てしまった。
そしてそれはマジだった。
目の前に三つの顔を持つ
巨大な化物がいる。
その真ん中の口に、絵守が咥えられていた。
絵守の下半身は化物に呑まれ
仰向けになった上半身が舌のように
ベロンと口からぶら下がっていた。
残りの二つの口はまだ空席である。
「なんだこれ?どういうことだ?」
筆山は思わず疑問を口にした。
口の中に冷気が舞い込む。
冷たい。肺臓を蝕むような
この世のものとは思えない空気。
僕は地割れに呑まれて
なんだかとんでもないところまで
落ちてきてしまったようだ。
「筆山君。どうやらここは地獄だ。
そして僕は非常に苦しい状況にある。
何とか助けてくれないか」
仰向けでベロンとなっている絵守が
苦しげな声をあげた。
「なんだ君、生きていたのか」
「死んでた方が良かったかい?」
「いや、そういうわけじゃないけど。
ところで君。その状態は大丈夫なのかい?」
「嗚呼。胴体は割と甘噛みだ。
ちょうど抜けない程度に
万力で固定されてる感じだよ。
問題はこの態勢だ。
このままじゃ頭に血が集中して
破裂してしまいそうだ」
「よかった。
そこまで重症じゃないようだな」
「何を言ってる。
僕の脳に障害が残る前に
早く何とかしたまえよ」
「無茶言うな。
僕だってこのわけのわからん状況に
混乱しているんだ。
君の頭の前に
まず僕の頭を何とかしなきゃ始まらない」
すると、中央の顔が
ゆっくりと私を見下ろした。
色の無い六つの瞳が一斉に私を見据える。
「貴様らは神の使徒だな」
心臓ごと射竦めるような荘厳たる声が
頭の内側に響く。
「堕ちてきたならば
我がこれを捕らえるのは必然である」
「あの、つかぬことをお聞きしますがね。
手前らはさっき此処に堕ちてきたばかりの
新参者でございまして。
へぇ。ろくに世間も知らぬ
某八輩の胡麻の灰でございます。
それにしても、あなた様は
大層大きなお方に違いない。
いや、手前らなんかと比較するのも
失礼な話でございます。
へぇ。きっとあなた様は
それはそれは位の高いお代官。
否、お殿様。否、皇帝陛下。
否、もしや神仏の類ではございませんか?
手前らの不勉強のせいで
あなた様のような尊いお方の
お名前もお応えできないとは
まことみっともない次第でございます。
へぇ。その、みっともないついでに
いっそ不躾にお尋ね申し上げるんですがね。
無知な下郎の戯言と
何卒ひとつご寛恕くださいまし。
へぇ。その、あなた様は、一体
何処のどなた様であらせられますか?」
私は卑しい幇間のような口調で
限界まで腰を低くして尋ねた。
「我はサタン。敵対者。神に仇為す者」
「なるほど。
じゃあここはやっぱり地獄ってことか」
絵守が真っ赤になった顔で
半ば諦め気味にいった。
今から千年後。
ダンテという詩人が神曲という
長編叙事詩を書く。
ゲヘナの最下層、地獄の第九圏
氷結地獄コキュートス。
その深奥にはサタンがいる。最悪だ。
私たちは文字通り今、地獄の底にいる。
私はパンを焼いただけなのに。
「エルサレムを焼き払い
地を裂いて全てを崩壊させた。
僕たちにお似合いの場所だな」
「冗談じゃないぞ。
僕は良かれと思ってやったんだ。
結果がどうであれ、僕は良心でやったんだ。
その報酬がこれかい?あんまりじゃないか」
「君の善悪なんて関係ないんだよ。
物事の正義は結果で決められる。
僕たちは最悪の結果を招いた。
これなら史実のユダの方がまだマシだった」
絵守はベロンと
宙吊りにされているせいもあってか
項垂れてすっかりナーバスになっている。
なんとかしなければ
このままではネガティヴに呑まれて
不貞腐れてしまいそうだ。
というか、百歩譲って
絵守が言ったことを受け入れるとしても
今度はそれで納得いかないことが出てくる。
目の前の光景が正にそうだ。
🍎アカリ🍎
X
𝐈𝐧𝐬𝐭𝐚𝐠𝐫𝐚𝐦
公式LINE
✉️arabi_akari_otoiawase@outlook.jp
ご予約詳細は🈁
※公式LINEが凍結してしまったので
再登録お願いします🙏