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ジューダス・クライスト【第二十五話】お題:異世界転生・歴史探訪 嘘つき同士の友情・最期の晩餐 希望と空虚・臆病者 据え膳食わぬは男の恥 正解と正しいは違う 沈黙。凍て付いた氷が完全に音を止めた。 それは、不気味な閑寂ではなかった。 ひれ伏したような、大人しいシジマだった。 しんとしたコキュートスの中で 目の前の絵守が いつの間にか泡を吹いて気絶していた。 どうやら挑発は成功しているようだ。 ならばここで畳みかけるしかない。 「おやおや? 図星を突かれて歯噛みしちゃったのかい? でも、僕の友達をその八つ当たりに 巻き込むのは辞めて欲しいなぁ」 サタンは動かない。 相変わらず感情の読めない シックスアイズが私に固定されたままだ。 言い過ぎたか? 否。そんなことは百も承知。 言葉で殺して論理を封じる。 そうでもしなければ主導権など握れない。 もはや後戻りはできない。 舌先三寸で切りつけて その隙に付け入る傷口は今此処にある。 ここが交渉の分水嶺。ここが先途だ。 「まあでも、一旦大局的なことは置いといて 今は僕たちの目先の話から 片づけようじゃないか。 結局僕が言いたいのはさ 君が咥えてるそのユダは、神の敵。 すなわち君の味方に間違いないってこと。 僕はダンテって未来詩人のおかげで その動かぬ真実を知ってる。 君は未来のことより 今のことを優先すると言ってたよね? ならば、まず神に反逆するその第一歩として ユダを口に咥えるよりも 同胞に加えるべきじゃないのかなぁ? 神の最たる裏切り者を解放するということは 神に対する大反逆だ。 君がその口を開くだけで 神に一矢報いることができる。 こんなお手軽な大チャンス そうそうないよ? 更に特別サービスで 最低な情報を教えてあげようか。 そいつは、さっきのエルサレムでの戦いでも 未来の神たる僕を見捨てて 逃げようとしたんだ。 つまり、そいつは現在においても僕の敵。 君が今を重視しようと 未来を軽視しようと関係ない。 断言しよう。 何時如何なる時であっても ユダは僕の敵だ! 親の仇にも勝る裏切り者だ! 世界中から嫌われちまえクソ野郎!」 私は泡を吹いて気絶している 絵守の白目に向かって 指を突きつけながら啖呵を切った。 「ならば問う」 サタンの重い声が急に頭に落ちてきた。 「貴様は何故 その裏切り者を助けようとする?」 肺が痛む。動悸が加速する。 否。どうでもいい恐怖だ。 そんなものは後ろに引っ込んでいろ。 己の弱さなんぞ、嫌というほど知っている。 後でいくらでも請け負ってやる。 今は己を騙り切る。 魔王だろうが神だろうが 悪魔に魂を売ってでも出し抜いてやる。 「君、聞いてなかったのかい? 僕はそいつに未来で 手酷く裏切られて滅びる予定だ。 その上、現在においても さっき裏切られたばかりだ。 君がそいつに罰を与えてたんじゃ 僕がそいつを 罰することができないじゃないか。 だからさっさとそいつを放せ。 じゃないと僕がそいつを殴れないだろう。 僕はそいつをこの手でぶちのめさないと 地獄に堕ちたって気が済まないんだ」 瞬間、鈍い音が聞こえた。ぐしゃり。 絵守の上半身が、その断面から 迸る朱に染まった氷面に落ちて転がった。 「絵守!」 叫んだ私の両の肺を、熱線が貫いていた。 さっきまで灰色に沈んでいた サタンの両目が、紅く輝いている。 「茶番は飽いた。 貴様はさっきこの者を友と呼んだ。 過ぎた嘘には本音が混じる」 血が、絵守から、私から 魔王の周りを満たす。 サタンを中心に 赤黒い色が円形に広がっていく。 「尊い血だ。ジューダス。 その名に免じて 貴様らの血が満たす此処を ジュデッカと呼ぼう」 血が凍っていく。 私の身体を閉じ込めていく。 しかし、此処は終わりではない。 地獄の底を、赤い闇が吞み込んでいった。 🍎アカリ🍎 X 𝐈𝐧𝐬𝐭𝐚𝐠𝐫𝐚𝐦 公式LINE ✉️arabi_akari_otoiawase@outlook.jp ご予約詳細は🈁ブログ一覧
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ジューダス・クライスト【第二十三話】お題:異世界転生・歴史探訪 嘘つき同士の友情・最期の晩餐 希望と空虚・臆病者 据え膳食わぬは男の恥 正解と正しいは違う 風がない。空気が動かない。揺れもしない。 静かだ。ひたすら静かだ。 足元が凍っている。 周囲も凍て付いて止まっているかのようだ。 冷たい。ひたすら冷たい。 そこは、全てが冷徹で静寂な空間だった。 筆山はついに地獄に来てしまった。 そしてそれはマジだった。 目の前に三つの顔を持つ 巨大な化物がいる。 その真ん中の口に、絵守が咥えられていた。 絵守の下半身は化物に呑まれ 仰向けになった上半身が舌のように ベロンと口からぶら下がっていた。 残りの二つの口はまだ空席である。 「なんだこれ?どういうことだ?」 筆山は思わず疑問を口にした。 口の中に冷気が舞い込む。 冷たい。肺臓を蝕むような この世のものとは思えない空気。 僕は地割れに呑まれて なんだかとんでもないところまで 落ちてきてしまったようだ。 「筆山君。どうやらここは地獄だ。 そして僕は非常に苦しい状況にある。 何とか助けてくれないか」 仰向けでベロンとなっている絵守が 苦しげな声をあげた。 「なんだ君、生きていたのか」 「死んでた方が良かったかい?」 「いや、そういうわけじゃないけど。 ところで君。その状態は大丈夫なのかい?」 「嗚呼。胴体は割と甘噛みだ。 ちょうど抜けない程度に 万力で固定されてる感じだよ。 問題はこの態勢だ。 このままじゃ頭に血が集中して 破裂してしまいそうだ」 「よかった。 そこまで重症じゃないようだな」 「何を言ってる。 僕の脳に障害が残る前に 早く何とかしたまえよ」 「無茶言うな。 僕だってこのわけのわからん状況に 混乱しているんだ。 君の頭の前に まず僕の頭を何とかしなきゃ始まらない」 すると、中央の顔が ゆっくりと私を見下ろした。 色の無い六つの瞳が一斉に私を見据える。 「貴様らは神の使徒だな」 心臓ごと射竦めるような荘厳たる声が 頭の内側に響く。 「堕ちてきたならば 我がこれを捕らえるのは必然である」 「あの、つかぬことをお聞きしますがね。 手前らはさっき此処に堕ちてきたばかりの 新参者でございまして。 へぇ。ろくに世間も知らぬ 某八輩の胡麻の灰でございます。 それにしても、あなた様は 大層大きなお方に違いない。 いや、手前らなんかと比較するのも 失礼な話でございます。 へぇ。きっとあなた様は それはそれは位の高いお代官。 否、お殿様。否、皇帝陛下。 否、もしや神仏の類ではございませんか? 手前らの不勉強のせいで あなた様のような尊いお方の お名前もお応えできないとは まことみっともない次第でございます。 へぇ。その、みっともないついでに いっそ不躾にお尋ね申し上げるんですがね。 無知な下郎の戯言と 何卒ひとつご寛恕くださいまし。 へぇ。その、あなた様は、一体 何処のどなた様であらせられますか?」 私は卑しい幇間のような口調で 限界まで腰を低くして尋ねた。 「我はサタン。敵対者。神に仇為す者」 「なるほど。 じゃあここはやっぱり地獄ってことか」 絵守が真っ赤になった顔で 半ば諦め気味にいった。 今から千年後。 ダンテという詩人が神曲という 長編叙事詩を書く。 ゲヘナの最下層、地獄の第九圏 氷結地獄コキュートス。 その深奥にはサタンがいる。最悪だ。 私たちは文字通り今、地獄の底にいる。 私はパンを焼いただけなのに。 「エルサレムを焼き払い 地を裂いて全てを崩壊させた。 僕たちにお似合いの場所だな」 「冗談じゃないぞ。 僕は良かれと思ってやったんだ。 結果がどうであれ、僕は良心でやったんだ。 その報酬がこれかい?あんまりじゃないか」 「君の善悪なんて関係ないんだよ。 物事の正義は結果で決められる。 僕たちは最悪の結果を招いた。 これなら史実のユダの方がまだマシだった」 絵守はベロンと 宙吊りにされているせいもあってか 項垂れてすっかりナーバスになっている。 なんとかしなければ このままではネガティヴに呑まれて 不貞腐れてしまいそうだ。 というか、百歩譲って 絵守が言ったことを受け入れるとしても 今度はそれで納得いかないことが出てくる。 目の前の光景が正にそうだ。 🍎アカリ🍎 X 𝐈𝐧𝐬𝐭𝐚𝐠𝐫𝐚𝐦 公式LINE ✉️arabi_akari_otoiawase@outlook.jp ご予約詳細は🈁 ※公式LINEが凍結してしまったので 再登録お願いします🙏ブログ一覧
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