ジューダス・クライスト【第二十四話】
お題:異世界転生・歴史探訪
嘘つき同士の友情・最期の晩餐
希望と空虚・臆病者
据え膳食わぬは男の恥
正解と正しいは違う
「あの、サタンさんね。
あなたって神の敵なわけじゃないですか。
今で言うとヤハウェ的な?
でもね。実は僕
未来ではキリストって
呼ばれるようになるんです。
神であり神の子であり精霊、みたいな。
もう三位一体的な感じで
あなたの最大の敵になる予定なんですよね。
それでね、そこの、あなたが咥えてるユダ。
その男はね、そのキリストである
私のことを裏切った
最低最悪の謀反人なんです。
史実でそうなってるんですよ。
ということはですね。
考えてもみてください。
ユダは私の敵。
そして私の敵は、あなたの味方。
敵の敵は味方ですからね。
だからね、あなたがユダを咥えてるのは
どう考えても道理が通らないんですよ。
わかります?
あなたが神に仇為す者だというならば
同じく神を裏切ったユダを罰するのは
どう考えてもおかしいでしょう?」
沈黙。静謐な氷が微かに軋む。
暫くして、サタンの声が厳かに響く。
「未来は関係ない。
貴様らは今、神を奉じている。
ならば敵に変わりない。
我の是非は変わらない」
なんだこいつ。
私は目先の話ではなく
大局的な話をしているというのに
財務官僚みたいな答弁しやがって。
これだから目先のミクロ経済に囚われた
日本国の経済は衰退の一歩を
…いや、今はそんなことを
考えている場合じゃない。
こうなったらコテンパンに捲し立ててやる。
魔王と私の中の悪魔根性
どっちが上か勝負だ。
私は私の中の悪魔を全開して解き放った。
「サタン。君は敵対者という意味だよね。
君が此処にいるのを
何故僕が知ってると思う?
それは千年後の未来の話。
ダンテという詩人が
君のことを描写しているんだ。
その主人公は誰だと思う?
ダンテ本人だよ。
全く承認欲求の塊のような奴さ。
しかも彼、何しにゲヘナへ行くと思う?
観光だよ。
それも女の尻を追っかけての観光。
堕ちたわけじゃないの。
生きたまんまで悠々自適の地獄巡り。
ゲヘナも舐められたもんだよね。
ダンテにとっちゃ
地獄なんて別府温泉みたいなもんなのさ。
そんなんでいいんですか?
サタン、君なんて彼にとっちゃ
ただの観光名所だよ。
そんなんでいいんですか?
地獄の王として。魔王として。
納得いきますか?
僕はダメだと思うなぁ。
例え君が納得しても
他の悪魔が納得しないよ。
これは、もはや君ひとりの問題じゃない。
悪魔全体の沽券に関わる問題だ。
君は一刻も早く行動を起こして
魔王として悪魔の名誉を
挽回しなきゃならない。
ところが、君ときたら何ですか?
こんな所で上半身だけにされて
閉じ込められて。
挙句、神に仇為す者たちを咥えさせられて。
嗚呼、言っとくけど君は
近い将来にもう二人
君の味方であるはずの
神の敵を咥え込むことになるんだからね。
もはや言い訳の余地もないよ。
この際はっきり言ってやろうか?
言おう。結局君は
ダンテに都合よく使われてるだけの
人間の奴隷みたいなもんだ。
いや、君の内心がどうだろうと関係ないね。
傍から見たら百人が百人見て
そう思うだろうよ。
もしそうでないと言うのなら
なんで君は神を倒す素振りも見せずに
こんな所でユダなんかを咥えて
恬然としてるんだよ。
その口は、ユダを咥えるためにあるのかい?
違うね。その口は
神に噛みつくためにあるんだろう?
だったらこんな場所で
グズグズしてる場合じゃない。
さっさと神に
反逆しに行ったらどうなんだい」
沈黙。冷徹な氷にヒビが入って歪む。
また暫くして、サタンの仰々しい声。
「我が出るまでもない。
すでに事は進行している。
地獄の軍団は整いつつある」
私は辺りを見回した。
人っ子一人
悪魔一匹たりとも見当たらない。
あるのは氷だけだ。
私は呆れたように言った。
「悪魔の軍団?
此処コキュートスは凍て付いて
君以外に誰もいないじゃあないか。
我が出るまでもない?
あのさぁ、今まで君は神相手に
手も足も出たことないよね。
ないですよね。
そういう大言壮語は
せめて神に一太刀でも浴びせてから
言ってもらえませんかね。
いつまでも餓鬼みたいに
太平楽な御託を抜かしてるんじゃないよ。
全く。
大体、君は神にコテンパンに敗北した挙句に
こんな所に閉じ込められてるんじゃないか。
何?なんでそんなこと知ってるかって?
だから、全部未来で
明らかにされちゃってるんだってば。
あのさぁ、いくら嘘付いたって
最初から全部バレてんの。
君、全然悠長に構えてられるような
身分でも場合でもないよね。
おわかり?
百歩譲って、嘘を付くのは
悪魔的にしょうがない部分が
あるのかもしんないよ?
でもさ、ダサいのは悪魔としても
てか魔王としてもマジでなしじゃない?
正直、悪魔的にも人間的にも神々的にも。
客観的に見てかなりキツイって」
🍎アカリ🍎
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