-
次の記事
-
Blog@arabian
ジューダス・クライスト【第十三話】お題:異世界転生・歴史探訪 嘘つき同士の友情・最期の晩餐 希望と空虚・臆病者 据え膳食わぬは男の恥 正解と正しいは違う すると耳元に声が降ってきた。 「神の国は、ここに始まる」 その言葉を受けて 私は喉の奥に引っかかった恐怖を 急ぎ飲み下した。 そしてその言葉を繰り返した。 「神の国は、ここに始まる」 声は思いのほか通った。 加えて何とも言えない 厳かな神聖を帯びて響いた。 流石イエス・キリスト。 身体は貧相でも、声帯は救世主仕様だ。 どうですか、このリヴァーヴにコーラスを 全開でぶち込んでピッチシフターで 完璧に整えたような美声。 音響エンジニアなんてこれ聞いてたら 裸足でトンズラして廃業ですよ。 そうして私が私の美声に 酔いしれている間に 群衆からざわめきが起こった。 それは歓声の前触れのようでもあり 泣き出す直前の嗚咽のようでもあった。 「続けろ。次。 お前たちは見捨てられていない。だ」 せっかく人が群衆と共に 己が言葉の余韻に浸ってるというのに なんですかこいつは。 則天武后気取りかよ。 垂簾の政の時の高宗って こんな気持ちだったのかなぁ。ヤだなぁ。 あんな薄い御簾 後ろにいるの絶対バレてるのになぁ。 定期的に耳にかかってくる 吐息も気色悪いし。 っていうか今この状況で絵守の囁き女将が バレてないっぽいのがスゴいんですけど。 信仰心は人を盲目な羊に変えると言うが いや、今は素直に その盲信にあやかっておきましょう。 南無南無阿弥陀の妙法蓮華。 「お前たちは見捨てられていない」 私は観念して 絵守のリヴァーヴエフェクターに 暫時転生することにした。 「主の家を売る者も 主の名を盾に人を喰う者も 今宵ここで終わる」 私は復唱した。 復唱に復唱を重ねた。 己が承認欲求を鉋で削るように。 するとどうでしょう。 人間というものは不思議なもので 言葉を口にしているうちに それが絵守のものでも なんだか少しずつ己のものになってくる。 私が絵守の文句を二句、三句と重ねるうちに それは己自身の感情と混ざり合い 溶け合い、私の言葉ともなり始めた。 「主の家を売る者も 主の名を盾に人を喰う者も 今宵ここで終わる」 私の言葉は今や 私自身のパッションに滾っていた。 前庭のあちこちで、誰かが泣いていた。 誰かが拳を挙げていた。 誰かが地に額を擦りつけていた。 「いいぞ」 絵守の声が、少しだけ熱を帯びた。 「次だ。ローマを恐れるな、と言え」 則天武后がいきなり無茶を言ってきた。 「おいおい。そいつぁちょっと ハイになり過ぎじゃないかい?兄弟」 「言え。今しかない」 せっかくマカロニウエスタンの 吹き替えノリで慎重を促そうとしたのに 全然聞いてくれない。嫌な女帝だ。 私は軽く舌打ちした。 いや、したかった。 しかし群衆の手前 それも叶わなかったので 代わりになんか 神々しい感じの所作で指パッチンをした。 全然音が鳴らなかった。 こんなに掌が手汗で湿っているのに。 私には指パッチンの才能すらないのか。 マカロニウエスタンも 指パッチンも滑り倒した私は もはやリヴァーヴ機能以外 全壊して使えない ポンコツマルチエフェクターのようだった。 まだ電源が入るだけでも奇跡だ。 「ローマを」喉がつかえた。 絵守がすかさず 脊椎の急所を突いて追い打ちをかけてきた。 幸か不幸か、その衝撃で 喉のつかえが取れた。 そして出掛かっていた言葉が そのままポンと飛び出た「恐れるな」。 言ってしまった。知らない。もう知らない。 文句があるなら囁き女将に言ってくれ。 そう言えば船場吉兆は 結局廃業になったけど 私はこれでよかったのか。 則天武后は成功したけど高宗は散々な上に 息子の中宗は則天武后に憧れた 嫁の韋后に毒殺されるし 私は本当にこれでよかったのか。 廃業。簒奪。毒殺。 すべってころんで山がひくい。 嗚呼、もう 自由律俳句の世界で生きていきたい。 分け入っても分け入っても青い山。 「ローマを恐れるな!」 群衆の反応は早かった。 おお!と地鳴りのような声が 広場の底から湧く。 そうか、みんな覚悟の上か。 良かった。良かった。 じゃない。 民衆の熱に己の正義を委ねるなかれ。 彼らは何を保証するものでもない。 私が私を保証しなければ その先には腐敗しかない。 私は傀儡に非ず。 己が意志で覚悟を決めなければならない。 そして その覚悟を決めるために 残された時間はぶっちゃけない。 私は私の腐敗の入口を 足の裏で踏んだ気がした。 そんな私の内心など知る由もなく あるいは知った上で無視しているのか 絵守は尚も囁き続ける。 「ティベリウスは遠い。 ピラトはただの代官だ。 神を売る者も、民を打つ者も 今この都で裁かれる。と言え」 私に拒否権はなかった。 未だ覚悟が決まらぬのであれば 私はこのまま 腐敗したリヴァーヴを奏で続けるしかない。 🍎アカリ🍎 X 𝐈𝐧𝐬𝐭𝐚𝐠𝐫𝐚𝐦 公式LINE ✉️arabi_akari_otoiawase@outlook.jp ご予約詳細は🈁 ※公式LINEが凍結してしまったので 再登録お願いします🙏ブログ一覧
-
-
前の記事
-
Blog@arabian
ジューダス・クライスト【第十一話】お題:異世界転生・歴史探訪 嘘つき同士の友情・最期の晩餐 希望と空虚・臆病者 据え膳食わぬは男の恥・正解と正しいは違う 外に出ると 空気はすでに夜の深さに沈んでいた。 史実であれば明日に 十字架を引き摺り歩かされる終わりの道を 十二使徒と私の一行は 立ち止まることなく進んでいた。 忌まわしきゴルゴダの丘を 己たちは横目に捉えながら ただ通り過ぎる。 「こっちだ」絵守の声に、迷いはない。 民家の二階で晩餐という名目の 作戦会議を終えた己たちは 暗がりの中 エルサレム市内を抜けて城門から外へ出で 目的の場所へと向かっていた。 キドロンの谷を挟んだエルサレムの東 神殿の真正面に位置する 奇襲に打ってつけの場所。 オリーブ山の丘である。 また、水面下で別の影も動いていた。 絵守が四方八方随所にばら撒いた噂である。 「今夜、イエスはベタニアにいる」 「いや、下町に潜んだ」 「捕らえるなら、急げ」 形を持たない噂は何処へでも 何処までも入り込む。 ローマ兵も、神殿の者も その曖昧模糊に振り回され 実体のない影を追って散っていた。 その甲斐あってか 己たちはデマの間隙をすり抜けて無事 丘へ辿り着いた。 丘の上に、静かな塊があった。 「整っております」。 シモンがそれに向けて 一足先に歩を進めながら言った。 近づくにつれて、塊は群れとなり ひとりひとりが 呼吸を持つ集団へと変わった。 熱心党のゼイロータイ。約一千五百。 全員が、短剣・棍棒・錆びた刃を携え 簡易ではあるが最低限の武装をしている。 全員が私を見ると キラキラした、輝く未来に夢を馳せる 上京前の大学生みたいな瞳を向けてきた。 なんだかまた胃が痛くなってきた。 「こうやって見ると何だか思った以上に 壮観でございますわね」 「しっかりしてくれよ。 連中の士気は君の佇まいにかかってるんだ」 自然とシュリンプ気味になっていた 背中を絵守が叩く。 「でも僕は今さっき来たばかりの 益体もない新参者でござんすよ」 「いいから何が起こっても 泰然自若と胸を張ってろ。 君は僕ら彼らの信仰そのものなんだ」 他人事だと思って簡単に言ってくれる。 否。他人事ではない。 私の態度に皆の命がかかっているのだ。 私は家系ラーメンの暖簾にプリントされた 店主くらい踏ん反り返って腕組みをし 無駄に高圧的な顔を作って肝を引き締めた。 「さて、どこまで増えるかな」 絵守は遠く周辺全体を見渡し始めた。 丘の背後。側面。正面。 それぞれに別の流れができていた。 市内から巡礼者たちが 少しずつ、しかし絶えず上ってくる。 その誰もが「イエス様のために!」 みたいな顔をしている。 命を擲つ覚悟の顔である。 三千、四千、五千。まだ増える。 数が気配へと変わり 丘が駐屯地に変わっていく。 せっかく踏ん反り返らせた 骨盤がまたシュリンプしそうだ。 「この世をば我が世とぞ思ふ 陳は望月の欠けたる国家なりと思えば 尊し我が身の辛さ」 私は無意識に稀代の調子コキである 藤原道長やルイ十四世の 太々しい魂へ連帯を試みた。 その残滓は、わけのわからぬ 減らず口の戯言となって外に洩れ出ていた。 「いきなりどうした?」 「いや、何とかこの責任というか重圧というか そういうのに対抗しようと思いまして」 「そうか。気が触れて 自由律俳句に逃げるのだけはやめてくれよ」 他人事だと思いやがって。 嗚呼、咳をしても一人。 同時刻。 街の中では、見えない手が動いていた。 門番が、ほんのわずか目を逸らす数刻。 路地の石が崩され 行き止まりは通路へと変わった。 内通者たちである。 彼らの手によってエルサレム市内の道は 極端に狭く しかし抜け道は血管の如く張り巡らされた。 「可哀想に。 これじゃろくに隊列も組めないな」 「代わりに俺らは神出鬼没の自由自在だ」 蜂起決行前日の深夜深更。 名前を持たない、誰でもない彼らが 都市の脈をその手に握っていた。 暁が差す。 夜と朝の間が、最も曖昧な頃合い。 その境界を、唐突な角笛の音が引き裂いた。 空気が大きく揺らいだ。 低く長い、心をざわつかせる音色。 間を置かず、更に続けて角笛の叫び。 二の矢は鋭く短く響いた。 瞬間、堰を切ったかのように 時が流れ出した。 丘の上の者たちが、一斉に動き出す。 市内に潜伏していた巡礼群衆が 同時に城門へと向かう。 内通者がその閂を外した。 坂を下る数千の群れは 勢いそのままに外側から門に突っ込み これを押し開いた。 内外の勢力が合併しながら 濁流のように市街を押し流していく。 「神殿へ!」絵守が叫ぶ。 その声は次の声、また次の声へと伝播し 増殖した言葉はひとつの 大いなる意志の矢となって神殿の門を直撃。 いとも容易くこれを打ち破った。 前庭に第一波が雪崩れ込む。 神殿警備隊が慌てて隊列を組み 槍を構える。彼らの行動は正しかった。 しかし正解ではなかった。 数が余りにも足りない。 三方から押し寄せる群衆の波。 どんなに知恵を絞った陣形を拵えようと 洪水の前には意味すら虚しい。 石礫が舞う。棍棒が落ちる。 短剣が布の隙間を探る。 混乱は、秩序をより早く呑み込んだ。 やがて第二波、第三波が続く。 数千が流れ込む。神殿は一瞬で蹂躙された。 この時、イエス軍の数は一万に達していた。 🍎アカリ🍎 X 𝐈𝐧𝐬𝐭𝐚𝐠𝐫𝐚𝐦 公式LINE ✉️arabi_akari_otoiawase@outlook.jp ご予約詳細は🈁 ※公式LINEが凍結してしまったので 再登録お願いします🙇♀️ブログ一覧
-
