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ジューダス・クライスト【第十二話】お題:異世界転生・歴史探訪 嘘つき同士の友情・最期の晩餐 希望と空虚・臆病者 据え膳食わぬは男の恥 正解と正しいは違う 神殿内に、大祭司カヤパの姿はなかった。 どさくさに紛れて逃げたのか。隠れたのか。 いずれにせよ、ここはすでに ヤツのものではなくなったというわけだ。 「さあ主よ。神の国へ我らをお導きください」 絵守が私を肘で小突きつつ 連行するみたいに 祭壇に連なる白い石段の上へ 半ば無理やり立たせた。 なるほど、確かにここは見晴らしが良い。 前庭を埋めた群衆の顔が 波のようにこちらへ向いている。 幾千幾万の目玉が いっせいに私という一点へ縫いつけられている。 家系ラーメンの暖簾めいた顔は 内側から麺のようにふやけ 藤原道長やルイ14世の魂も 何処かへと吹き飛んだ。 望月は兎の杵の一撃で砕けた。 私の腰も砕けた。 もう背筋はクニャクニャだ。 嗚呼、ヴェルサイユが燃えている。 私はこんな場所に立つべき人間ではない。 どちらかと言うと芸能人の謝罪会見を見て 「言葉に誠意がねぇんだよな~」 とか一日三食のカップ麺を啜りながら 画面に向かって汁を飛ばす側である。 そんな私が一万人の命運を背負って 演説を打つ。何をご冗談を。 人には持って生まれた器 と言うものがあると言ったでしょう。 私の器はねぇ 自慢じゃないがお猪口ですよ。 そんなお猪口に一万本のワインを 灌いでごらんなさい。 お座敷が海になりますよ。 舞妓も幇間も溺死ですよ。 女将が発狂して番頭と駆け落ちして 鬼平に取っ捕まって白砂の上で 桜吹雪自慢されて 結局は山田浅右衛門の刀の錆ですよ。 嗚呼、浅右衛門さん。 あたいの肝を立派な薬にして 病床のおとっつぁんに 届けておくんなさいまし。 後生です。 それが女将の最期の言葉であった。 浅右衛門は人情で以て この約束を果たそうとしたが 女将のおとっつぁんは行方知れず。 浅右衛門は江戸を出てまで 方々を探し回った。 そしてゴビ砂漠中央まで来て 水が尽きた浅右衛門。 もはやこれまでと命尽き果てる寸前の 浅右衛門の前に夢か現か薬師如来。 「汝が秘薬を試してみよ」。 とは、女将の肝の妙薬のこと。 これも如来の思し召し。 一飲み口内納めたり。 浅右衛門が波打てば、観音菩薩に早変わり。 菩薩は私に語り掛ける 「賽の目に羞恥の概念はありません。 ですからあなたの厄災に頓着しない。 嗚呼、なんと憐れな筆山よ。 三千世界の果ての果て。 私が救って差し上げよう。 解脱の救済ここにあり。 涅槃で虚無へと帰りましょう」。 「おい。何を呆けている。 しっかりしろ。胸を張れ」 絵守が隣で見えない角度から 脊椎の急所を突いてくる。 人が現実逃避の先に 解脱の救済を得る寸前だったというのに なんて厭らしいヤツだ。 タクラマカン砂漠で干物になって 性悪女がそれを四寸ずつに切ったのを 干し魚だと嘘ついて売って そんな女は羅生門でババアに引剥ぎされて そんなババアも下人に引剥ぎされて そんな下人は行方知れずになっちまえ。 全くどいつもこいつも。 おらぁもう人間が信じられねぇ。 ってこれは黒澤明監督の方の羅生門だった。 結局私の思考は藪の中だ。 「おらぁ、おらぁもう己が信じられねぇ」 「なんだ怖気付いたのか? こんなものよりキツイ修羅場を 潜ってきたはずだろ」 「んだども、おらぁ注目されっつごどに からきし慣れてねんだしゃあねぇがら」 私は限界だった。 今まで逃げ続けてきた ツケが回ってきたのか。 まさか此処へきて己の引き籠り根性が マックスで発揮されようとは思わなかった。 考えてみれば私は今生でも こちらへ来てからも 尊敬されるということが全くなかった。 つまり私は尊敬されることに 免疫が皆無なのだ。 ましてや信仰されるなど論外だ。 「それでそんな 東北弁になってしまってるのか」 「へぇ。ほんに めんぼくねぇごどでございますだ」 「仕方がないな。船場吉兆でいくか」 「そいづぁ、どういう意味でございましょうが?」 「まずその東北弁を辞めろ」 「へぇ」 「そして今から僕が囁いた通りに喋れ」 「そいづぁあの、あんたさ 囁き女将さなるっつごどで ございましょうが?」 「良いからさっさと標準語に戻れ。 あと顎を上げろ。王は下を向かない」 そう言うと絵守は影のように 私の後ろに回り込んだ。 私は、とりあえず 顎だけを不自然に持ち上げた。 寝違えた人が必死に 首の位置を戻そうとするような感じだった。 私がグダグダとしている間も 依然として神殿は静まり返ったままでいた。 ついさっきまで石礫やら怒号やら 血潮やらで煮え返っていたこの場所が 不気味なほどの沈黙に包まれている。 彼らは待っている。 何か決定的な言葉が 発せられるのを待っている。 息を潜めて、神が何を言うかを待っている。 一万の目が 一万の願いを込めて私を見ている。 その先には どうしようもない私が歩いている。 否。突っ立っている。 ダメだ。 思考が自由律俳句に逃げようとする。 私が種田山頭火のような 豪気な性格ならよかったのに。 どうして尾崎放哉のような 偏屈甘ったれの方を引いてしまったんだ。 障子を開けてみれば何もない。 嗚呼、本当に何もない。頭が真っ白だ。 私という人間は空っぽだ。 空虚だ。 言葉使いの癖に 言葉が出てこないんじゃ廃業だ。 何が文人だ。 文鎮の重みにも劣る文句しか書けない癖に。 嗚呼、私が私を苛んでいく。 ネガティヴレインボーが 空に汚らしくかかって天を辱めている。 全身から汗が吹き出す。 指先が震える。なんか頭痛までしてきた。 足元がふらつきそうだ。 そして相も変わらず胃が痛い。 🍎アカリ🍎 X 𝐈𝐧𝐬𝐭𝐚𝐠𝐫𝐚𝐦 公式LINE ✉️arabi_akari_otoiawase@outlook.jp ご予約詳細は🈁 ※公式LINEが凍結してしまったので 再登録お願いします🙇♀️ブログ一覧
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ジューダス・クライスト【第十話】お題:異世界転生・歴史探訪 嘘つき同士の友情・最期の晩餐 希望と空虚・臆病者・快楽に溺れる 据え膳食わぬは男の恥 正解と正しいは違う・推し活沼 「それで、結局こっちの戦力は どれくらい集まりそうなの?」 「それに関しては主の起こした奇跡が 大いに功を奏してくれたよ。 まずガラリヤ出身の武装信徒が約千五百。 巡礼者の群衆が約八千。 ローマへの内通者・都市からの 協力者が数百人。 それから、我らが同士 シモンの手柄が加わる」 「はい。我が朋友のゼーロータイ 存分にお役立てください」 白髪で髭もじゃのおっさんが口を開いた。 「このシモンはローマの元徴税人でな。 加えて熱心党の党員でもあるんだ」 「熱心党?ゼーロータイ?」 「シモン。主は今ちょっと 記憶がござっている。 熱心党について説明してやってくれ」 「がってんしょうちしました」 党名のダサさと シモンの変な言語感覚に 突っ込みを入れたかったが、やんぬるかな。 今はそのダサい奴らに 私たちの命運がかかっている っぽいから仕方がない。 私は熱心にシモンの話を 傾聴することにした。 「熱心党はローマに対する 武装抵抗組織でございます。 イエス様が一声かければ そのカリスマで群衆を 数千単位で動かせるでしょう。 我が信徒からも千人は動員できます。 加えて熱心党は神殿勢力と 決裂していますので、 即イエス様の地下武装勢力に 組み込むことが可能でございます」 「僕は熱心党って呼び方が あんまりつまらないから ゼーロータイとしか呼ばないがね。 まあそんなことは置いといて。 つまりは我が軍は暴徒+信徒の複合軍。 ざっと足して一万ってとこかな。 正規兵こそ少なく統制も弱いが 主の奇跡の甲斐あって ひとりひとりの士気は異常なほどに高い。 戦場を最も左右するのは軍の士気だからな」 絵守の顔がほくそ笑んだように少し緩んだ。 やはり絵守もダサいと思っていたことに 少し安心した。 腐っても芸術家同士ということか。 いや、違う。 ただ単に誰が聞いてもダサいだけだ。 高輪ゲートウェイくらいダサい。 なんかもう慣れたけどさ。 慣れって恐ろしいね。 慣れは万民をも熱心党員に 狩立ててしまうのか。 私も今生に戻ったら 神頼党とか興してみようかしら。 ダメだ。 少なくとも私の神は全然頼りにならない。 じゃあ駄神党とか? ダメだ。 今より増して嫌がらせされそうだ。 次ヘリオガバルスとか ジョン王とか徽宗とかに 転生させられたら堪ったもんじゃない。 というか今は神がどうこう 言ってる場合ではない。 「でも敵兵は一万二千から五千なんでしょ? 数ですら負けてる上に 相手は全員、練兵されてる正規軍。 厳しくね?」 私はどうしても心配になって 質問が意地悪な感じになってしまう。 こういう臆病者が上官を切れさせたり 記者会見でアスリートに要らん質問をして 退席させたりするんだろうか。 インタビュアーも大変である。 しかし絵守や競技者の大変さに比べれば 私たちのそれは大変というにも値しない 蚤の喰ったようなものであるため 私はもうこの小説の主人公を絵守にして 己は語り部になった方が いいんじゃないかしら。 なんて無責任なことを考えていた。 「それがそうでもない。 実は今宵は最後の晩餐と言う名の 武装蜂起の最終会議だったんだ。 主がそれに是と示してくれるかどうかが 最大の懸念事項だったが 君が主に代わってくれた僥倖のお陰で それも心配なくなった。 これで作戦通りに事を運べる。 いいか。大事なポイントだからよく聞け。 まずローマは常に内紛状態にある。 そして二代目ローマ皇帝ティベリウス。 ヤツが人間不信になって カプリ島に引き籠って王座に帰らず 外から統治命令を 下すようになってから四年。 そんな引き籠り皇帝への不満のしわ寄せは 民衆に、貴族に、軍人に、王宮に 今もなお留まることなく溜まり続けている。 その爆発点が、明日だ。 明日、同時多発的に 各地で反乱が起きるよう 調整に調整を重ねて仕向けてきた。 『ローマが最も弱っている瞬間に蜂起』。 これが切り札だ。武力だけでも勝てない。 思想だけでも勝てない。 ならば、民衆の蜂起と行政の 崩壊の挟み撃ちなら? ここだ。俺たちは内側が決壊している間に 外側を叩く。 卵を叩き割って、茹で上がる前に ドロドロの中身を出し尽くしてやるのさ」 私は痺れるような感覚で 絵守の言葉を聞いていた。 彼がここまで練り上げるのに ここまで準備するのに ここまで考え至るのに、一体この三年で 否、この出鱈目な夢幻転生世界の中で どれだけの艱難辛苦があっただろうか。 私などには想像もつかない。 卓の前に立つ絵守が かつての友人とは思えない 頼もしい輝きを放っている。 私は何処で彼と これほど差がついてしまったのだろうか。 それは私がただただ 怠けていたという一言で片付く話なのだが。 そんな私の心中を知ってか知らずか 絵守は堂々と言葉を続けた。 「今、ローマには 皇帝ティベリウスが不在の状態だ。 そんな中で、その権限を 半ば無理やり 引き継がされている地方官を打倒すれば 後はどうなると思う? 帝国は総崩れさ。 なあ筆山。言っただろう。 ポンティウス・ピラトさえ倒せば 君の王権も夢ではないと。 それに今、お前はイエス・キリストなんだ。 その気になれば 奇跡だって起こせるかもしれない。 期待してるぜ」 確かに私は今どうやら イエス・キリストらしい。 しかし器がそれでも魂は月と鼈。 天皇陛下と穢多非人。 学園マドンナと不可触民だ。 それでも私に奇跡は起こせるのだろうか。 それってプーラン・デヴィのように シュードラの身でありながら ビーマイ村で二十二人の 上位カーストを駆逐し クシャトリアである シュリ・ラム兄弟を滅却させ 低カーストの希望の光として 『義賊の女王』と呼ばれ 称えられるくらいの偉業を為して 魂のレベルをめっちゃ上げないと 難しいんじゃなかろうか。 絵守は続ける。 「十三と言う数字が縁起が悪いとされるのは この最後の晩餐が由来だ。 十三人で食事をすると一人死ぬことになる。 ってね。だったら一人も死なせなきゃいい。 十三を呪われた数字になんかさせない。 君が転生したジャンヌ・ダルクも 神の声を聞いたのは確か十三の頃だ。 君が守ろうとした彼女の誇りのためにも この数字を 僕らで呪いから守ってみせようじゃないか」 私は黙って頷いた。 私は私ことかつて私だった ジャンヌ・ダルクが 稀代のヤリマンとして イングランドに寝返ったことを 歴史の彼方へ葬り去り 現世に戻ろうとこれを 一切一生口外しないよう、己に固く誓った。 私はいつかこの身を 地獄の業火で焼かれるに違いない。 嗚呼、私はパンになりたい。 どうせ焼かれるなら 生まれ変わって焼きたてのパンになりたい。 🍎アカリ🍎 X 𝐈𝐧𝐬𝐭𝐚𝐠𝐫𝐚𝐦 公式LINE ✉️arabi_akari_otoiawase@outlook.jp ご予約詳細は🈁 ※公式LINEが凍結してしまったので 再登録お願いします🙇♀️ブログ一覧
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