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ジューダス・クライスト【第十八話】お題:異世界転生・歴史探訪 嘘つき同士の友情・最期の晩餐 希望と空虚・臆病者 据え膳食わぬは男の恥 正解と正しいは違う ピラト軍への勝利は、あまりに軽く訪れた。 がために、群衆は暫し歓喜を躊躇し 喝采を逡巡していた。 街や神殿の広場からは 既に戦いの熱が薄れ始めていた。 あちこちに打ち倒したローマ兵の骸だけが 揺るがぬ戦勝の証として 消えずに残っている。 やがて、幾何かの時を経て 「勝った」という言葉が 誰のものとも知れぬまま あちこちで口にされ始めた。 絵守は、それを観察するように 城壁の上に立っていた。 「終わったんですか?」 誰かが問いかけてきた。 絵守は応えない。 終わりには、まだ軽過ぎる。 終わるには、まだ早過ぎる。 むしろ、幕が開くのはこれからだ。 その時。遠くで空気が僅かに震えた。 最初は風のように感じたそれは 果たして風ではなかった。 地が鳴っている。 「来る」絵守が振り返る。 人々もひとり、またひとりとそれに倣った。 地が鳴っている。 遠く、だが確実に近付いてくる。 規則的な震え。 一歩ごとに重く揃い 逃げ場を削ってくるような音。 地平の向こうに、線が見える。 線は動いている。 動きながら、徐々にその幅を太くしていく。 やがて、それは形となって顕れた。 鉄の列。否。ただの列ではない。 同じ高さの盾。同じ角度の槍。 同じ歩幅で進む足。乱れが、ない。 列は、城門の前で止まった。 一気に攻め込む気配はない。 距離を置き、形を崩さぬまま、横に広がる。 次の瞬間、空が鳴った。 見えない線が無数に引かれる。 一糸乱れぬ一斉弓撃が 細刃で満たされた面となって 城壁の上を覆う。 「伏せろ!」絵守の檄が飛んだ。 城壁に立っていた者たちは 寸でのところでこれに従い 矢刃から身を躱した。 間を置かず、スリングの回転音が 密集して風巻くような音。投石である。 重い音と共に 次々と石が飛び掛かってくる。 定めて人を狙ってはいない。 ただ投げた場所を破壊していく。 外れても石は砕け、破片は跳ね 縁が崩れ、足場が揺れる。 盾でも受けきれない重さ。 伏せても尚、安全ではない。 門の上。櫓。石の縁。 立てる場所が、戦える術が消えていく。 上方でゴリアテが ダビデに追い立てられている中 下方では別のものが進んでいた。 木で組まれた枠。四方を囲む柱。 上に渡された梁。 その中央から先端に鈍色の鉄を被せた 太い丸太が縄で吊られている。 三十人ほどのローマ兵が、その内側に入り 左右に分かれ、前後に並ぶ。 丸太に手をかける。 押し、引き、揺らす。繰り返し。繰り返し。 重さが遅れてついてくる。 縄が軋み、梁がわずかに鳴る。 そして、最大限まで丸太を引き絞った 次の瞬間。全ての重さが前へ落ちる。 鈍く重い音が響く。門が震える。 内側で何かが軋みをあげる。 ローマは繰り返す。 間断なく引く。無機質に揺れる。 そしてまた、容赦なく落ちる。 音が変わった。 門が、先ほど辛うじて跳ね返した衝撃を 今はただただ受けている。 木の奥でまた何かが軋む。 見えぬ横木が僅かに撓む。 門はまだ閉じている。 だが、閉じているという 形自体が揺らぎ始めた。 「あれを何とかしろ!」 城壁の上から伏せたまま 矢を放つ者があった。 隙を見て石を落とす者もあった。 それらは狙い通りか偶然か 破城槌の集団へ直撃した。はずだった。 破城槌の外側は盾で囲まれていた。 前方。側面。そして上方にまで油断なく。 矢が当たる。石が落ちる。 それらは盾の塊に弾かれ 滑り、流れていった。 封じたはずの上からの急襲を以て尚 破城槌の中の動きは乱れない。 三度目。槌が門を打ち据える。 今度は遅れて音が来た。 外からの衝撃ではない。 内側で何かがズレる音。 門は耐えている。 耐えているという事実が すでに時間の問題を示唆している。 続けて四度。五度。 叩き付けられた梁が軋む。 ぶち当たった蝶番が 悲鳴のような音を立てる。 内側で梁が押し当てられる。 縄が巻かれる。 人が門に体を預ける。 だが、外の動きは変わらない。 揃え、引き、揃え、落とす。 六度目。何かが外れる音。門が内側へ傾ぐ。 「持て!」内側で叫び声が上がる。 次の一撃で木が裂ける。 もう一度。何の衒いもなく槌が落ちる。 裂ける音。外れる音。崩れる音。 門が、割れた。扉が、内側へ沈む。 木が裂け、石が砕け、白い粉が立ち上る。 壊れたのではない。 支えていたものが 順に外れただけであった。 丸太はまだ揺れている。 叩くべきものがそこから失せて尚 ただ飄々と、当たり前のように揺れている。 🍎アカリ🍎 X 𝐈𝐧𝐬𝐭𝐚𝐠𝐫𝐚𝐦 公式LINE ✉️arabi_akari_otoiawase@outlook.jp ご予約詳細は🈁 ※公式LINEが凍結してしまったので 再登録お願いします🙏ブログ一覧
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ジューダス・クライスト【第十六話】お題:異世界転生・歴史探訪 嘘つき同士の友情・最期の晩餐 希望と空虚・臆病者 据え膳食わぬは男の恥 正解と正しいは違う 私は、ただ漫然と小説を書いてきた。 ただ惰性で引き籠ってきた。 そして、ただ怠惰に 英雄たちの履歴を汚してきた。 「そんなことをして 私は一体どこに向かおうとしていたのか」。 私は私に問うた。 心を決めねばならない。 こんな私にもついに行き止まりが顕れた。 あの魂の恐喝にも近い 一万の瞳からは逃れられない。 もう逃げられない。やっと逃げられない。 漸く観念しなければならない。 逃げを諦め己を受け入れ 覚悟を決めなければならない。 問う。 「今まで怠惰と惰性に漫然と耽って 私はどこに向かおうとしたのか」。 知らない。 どの私に聞いても知らないと言う。 「嘘を付くな!」 私は私の中の 有象無象な私の群れを一喝した。 すると、私の群れが雲散霧消して 一人、隅の方で 体育座りをしている私だけが残った。 その私は、私の中の有象無象に紛れながら 今まで最も私の主導権を 陰ながら握ってきた私だった。 その私は、私の中で最も臆病な私だった。 私は臆病な私の胸倉を掴んで問いかけた。 「私は知るのが怖いだけだろう」 「馬鹿な。 私は何を知るのが怖いと言うんだ?」 臆病な私が嘲るように言った。 「知らないことを知ること。それが、怖い」 「では知らなければいいじゃないか」 臆病な私が呆れたように言う。 「知らないを通して ずっと変わらずにいればいいじゃないか」 「嫌だ。私はそんな私がもう嫌になった」 私はそう言って 掴んでいた臆病な私の襟元を引き裂いた。 臆病な私は無理やり胸襟を開かれた。 「わからないから怖くて動かないのか? 否。それは今生で懲りている。 わからないなら進むしかない。 その先にしか、知るということはない。 知らないと知りたいはニコイチのズッ友だ。 今の私が今更逃げても もはや今生にすら戻れない。 私は、知らない道を行くしかない。 王になって王を知るしかない」 「どうなるかわからないのに? 結局、何もわからないかも知れないのに?」 臆病な私がほぼ上裸で 寒そうに身を縮めながら言った。 「そんなことはどうでもいい。 やってみてどうなるか? やってみなければわからない。 やってみてわかるかわからないかの是非? それもやってみなければわからない」 「ちょっと待て。 それは余りにも慎重さを欠いている」 臆病な私が 歯をカチカチ鳴らしながら抗議する。 「知らない洞窟の奥には 化物が潜んでいるかもしれない。 黄金が眠っているかもしれない。 はたまた、まだ見ぬ向こう側へと 続いているかもしれない。 それは洞窟の罠を怖れて 何もしない者には一生辿り着けない場所。 それは洞窟の先に新境地を 夢見た者のみが手にできる場所。 今まで私が台無しにしてきた 英雄たちが進んだ道」 「私は英雄ではないよ。 私なんかにそんなことはできないよ」 臆病な私は凍て付きながらも 抵抗を辞めない。 「英雄でなくとも 彼らに倣って進むことは出来る」 「嫌だ。そんな険しい道を行くのは嫌だ」 臆病な私が固まっていく 声帯を振り絞りながら叫んだ。 「黙れ。閉じるな。籠るな。逃げるな。 理屈を捏ねるな。思考を止めるな。 行動を止めるな。 グダグダ言わずにやるんだよ」 臆病な私の声は消こえない。 臆病な私は凍て付いて氷像になっていた。 私はかつての私の大部分を占めていた それをぶん殴った。 氷像は粉々に砕け散って 砕け散った先からまた更に粉々になって やがて ダイヤモンドダストのような霧になった。 私の中に白銀の煌めきが舞っている。 私の中に鬱屈して溜まっていた闇が それを受けて解けていく。 すると、私の中に埋もれていた愛と勇気が 噴水のように湧きあがり 私の中を満たし始めた。 私は愛と勇気の温泉に達磨大師の如く 頭まで浸かり、座禅を組んで決心した。 私は知ろうじゃないか。 私は何になりたいのか。 それが王なのか。違うのか。 結局わからないのか。 それでも、私は私の王として進む。 私は知りたい。 私の進む先に何があるのか。 それが栄光でも破滅でも。 そこに私の決着があるのならば。 「これで後戻りはないな」 絵守が後ろでニヤついているのがわかる。 「君のせいだ。 しかしおかげで踏ん切りがついた」 「なんだ。 君にしては珍しく殊勝じゃないか」 「ここまで追い込まれなければ 腹が決まらなかっただろうからね」 私は自嘲気味に 口角を片側だけ上げて応えた。 「なるほど。大器晩成の志 ついに実ったりというところか」 「いや。僕はお猪口だ。 持って生まれた器の大きさは変わらない」 「お猪口じゃ王の器は務まらんだろうよ」 「大きい器は重くて動かない。 ところが僕というお猪口は 溢れた水に乗って何処かへ 軽々と流れていける。 行き先はわからない。 わからないが、もし僕が どこかの浅瀬に辿り着きたいというのなら 荷物は少ない方がいい。 果たして王座が僕の終着点とは限らない。 僕に行きたい場所が あるかどうかもわからない。 しかし、僕は僕の進むべき道が やっとわかった気がする。 否。道があるかどうかもわからないな。 でも僕は進む。 凝り固まって動かないのはもう辞めたんだ」 後ろにきょとんとしたような 雰囲気が流れている。 僕の変心を聞いた絵守が面喰って 暫し意外そうに佇んでいるようだった。 「ふうむ。僕としては 君の器に期待したかったんだがね」 やがて、不満たらしい声が 漏れ聞こえてきた。 一方でどこか納得した感のある声だった。 すっきりとした晴れやかな響きを その囁きの中でささやかに感じた。前庭では今も尚 「イエス王」「神の国」「主に栄光」 といった 胃もたれするような言葉が飛び交っていた。 神殿はもはや己たちの城である。 前庭は一万の熱に景色を揺らしている。 大気が滾り、風が灼かれる。 私は石段の上で 王としてその熱風を浴びていた。 絵守はそんな私をシールドにして 涼しい顔をしている。 「兎に角、君は皆の命運を預かっている。 頼んだぞ。イエス王の筆山君」 絵守が囁き女将の 立ち位置を外れながら言った。 一万の期待を注がれた私のお猪口は 溢れ出した期待の海に放り出された。 私は石段を降りていく 絵守の背中に言葉を投げた。 「任せてくれとは請け負わないが、少なくとも もう僕が立ち止まることはないよ」 🍎アカリ🍎 X 𝐈𝐧𝐬𝐭𝐚𝐠𝐫𝐚𝐦 公式LINE ✉️arabi_akari_otoiawase@outlook.jp ご予約詳細は🈁 ※公式LINEが凍結してしまったので 再登録お願いします🙏ブログ一覧
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