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ジューダス・クライスト【第十一話】お題:異世界転生・歴史探訪 嘘つき同士の友情・最期の晩餐 希望と空虚・臆病者 据え膳食わぬは男の恥・正解と正しいは違う 外に出ると 空気はすでに夜の深さに沈んでいた。 史実であれば明日に 十字架を引き摺り歩かされる終わりの道を 十二使徒と私の一行は 立ち止まることなく進んでいた。 忌まわしきゴルゴダの丘を 己たちは横目に捉えながら ただ通り過ぎる。 「こっちだ」絵守の声に、迷いはない。 民家の二階で晩餐という名目の 作戦会議を終えた己たちは 暗がりの中 エルサレム市内を抜けて城門から外へ出で 目的の場所へと向かっていた。 キドロンの谷を挟んだエルサレムの東 神殿の真正面に位置する 奇襲に打ってつけの場所。 オリーブ山の丘である。 また、水面下で別の影も動いていた。 絵守が四方八方随所にばら撒いた噂である。 「今夜、イエスはベタニアにいる」 「いや、下町に潜んだ」 「捕らえるなら、急げ」 形を持たない噂は何処へでも 何処までも入り込む。 ローマ兵も、神殿の者も その曖昧模糊に振り回され 実体のない影を追って散っていた。 その甲斐あってか 己たちはデマの間隙をすり抜けて無事 丘へ辿り着いた。 丘の上に、静かな塊があった。 「整っております」。 シモンがそれに向けて 一足先に歩を進めながら言った。 近づくにつれて、塊は群れとなり ひとりひとりが 呼吸を持つ集団へと変わった。 熱心党のゼイロータイ。約一千五百。 全員が、短剣・棍棒・錆びた刃を携え 簡易ではあるが最低限の武装をしている。 全員が私を見ると キラキラした、輝く未来に夢を馳せる 上京前の大学生みたいな瞳を向けてきた。 なんだかまた胃が痛くなってきた。 「こうやって見ると何だか思った以上に 壮観でございますわね」 「しっかりしてくれよ。 連中の士気は君の佇まいにかかってるんだ」 自然とシュリンプ気味になっていた 背中を絵守が叩く。 「でも僕は今さっき来たばかりの 益体もない新参者でござんすよ」 「いいから何が起こっても 泰然自若と胸を張ってろ。 君は僕ら彼らの信仰そのものなんだ」 他人事だと思って簡単に言ってくれる。 否。他人事ではない。 私の態度に皆の命がかかっているのだ。 私は家系ラーメンの暖簾にプリントされた 店主くらい踏ん反り返って腕組みをし 無駄に高圧的な顔を作って肝を引き締めた。 「さて、どこまで増えるかな」 絵守は遠く周辺全体を見渡し始めた。 丘の背後。側面。正面。 それぞれに別の流れができていた。 市内から巡礼者たちが 少しずつ、しかし絶えず上ってくる。 その誰もが「イエス様のために!」 みたいな顔をしている。 命を擲つ覚悟の顔である。 三千、四千、五千。まだ増える。 数が気配へと変わり 丘が駐屯地に変わっていく。 せっかく踏ん反り返らせた 骨盤がまたシュリンプしそうだ。 「この世をば我が世とぞ思ふ 陳は望月の欠けたる国家なりと思えば 尊し我が身の辛さ」 私は無意識に稀代の調子コキである 藤原道長やルイ十四世の 太々しい魂へ連帯を試みた。 その残滓は、わけのわからぬ 減らず口の戯言となって外に洩れ出ていた。 「いきなりどうした?」 「いや、何とかこの責任というか重圧というか そういうのに対抗しようと思いまして」 「そうか。気が触れて 自由律俳句に逃げるのだけはやめてくれよ」 他人事だと思いやがって。 嗚呼、咳をしても一人。 同時刻。 街の中では、見えない手が動いていた。 門番が、ほんのわずか目を逸らす数刻。 路地の石が崩され 行き止まりは通路へと変わった。 内通者たちである。 彼らの手によってエルサレム市内の道は 極端に狭く しかし抜け道は血管の如く張り巡らされた。 「可哀想に。 これじゃろくに隊列も組めないな」 「代わりに俺らは神出鬼没の自由自在だ」 蜂起決行前日の深夜深更。 名前を持たない、誰でもない彼らが 都市の脈をその手に握っていた。 暁が差す。 夜と朝の間が、最も曖昧な頃合い。 その境界を、唐突な角笛の音が引き裂いた。 空気が大きく揺らいだ。 低く長い、心をざわつかせる音色。 間を置かず、更に続けて角笛の叫び。 二の矢は鋭く短く響いた。 瞬間、堰を切ったかのように 時が流れ出した。 丘の上の者たちが、一斉に動き出す。 市内に潜伏していた巡礼群衆が 同時に城門へと向かう。 内通者がその閂を外した。 坂を下る数千の群れは 勢いそのままに外側から門に突っ込み これを押し開いた。 内外の勢力が合併しながら 濁流のように市街を押し流していく。 「神殿へ!」絵守が叫ぶ。 その声は次の声、また次の声へと伝播し 増殖した言葉はひとつの 大いなる意志の矢となって神殿の門を直撃。 いとも容易くこれを打ち破った。 前庭に第一波が雪崩れ込む。 神殿警備隊が慌てて隊列を組み 槍を構える。彼らの行動は正しかった。 しかし正解ではなかった。 数が余りにも足りない。 三方から押し寄せる群衆の波。 どんなに知恵を絞った陣形を拵えようと 洪水の前には意味すら虚しい。 石礫が舞う。棍棒が落ちる。 短剣が布の隙間を探る。 混乱は、秩序をより早く呑み込んだ。 やがて第二波、第三波が続く。 数千が流れ込む。神殿は一瞬で蹂躙された。 この時、イエス軍の数は一万に達していた。 🍎アカリ🍎 X 𝐈𝐧𝐬𝐭𝐚𝐠𝐫𝐚𝐦 公式LINE ✉️arabi_akari_otoiawase@outlook.jp ご予約詳細は🈁 ※公式LINEが凍結してしまったので 再登録お願いします🙇♀️ブログ一覧
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ジューダス・クライスト【第九話】お題:異世界転生・歴史探訪 嘘つき同士の友情・最期の晩餐 希望と空虚・臆病者・快楽に溺れる 据え膳食わぬは男の恥 正解と正しいは違う・推し活沼 「良かった。実は安心しているんだ。 君が主と入れ替わらなかったら 主は僕の進言を聞き入れてくれない 可能性が高かったからね。 歴史は簡単には覆らない。 それは君もよく知ってるだろう。 だが、君と僕ならば 歴史の外から来た僕たちならば チャンスはある」 絵守は真実ほっとしたような顔を浮かべた。 確かに、本来のイエス・キリストであれば 戦争の申し出を受ける可能性は 極めて低かっただろう。 そこへ悪魔根性の権化のような 私が入って来たのだから これは私にとっても絵守にとっても 千載一遇のチャンスなのかもしれない。 「しかし、戦うと言って 相手はユダヤの司教たちに加えて ローマ帝国そのものだろう? 勝てる見込みはあるのかい?」 「そうだな、まずは 敵勢力について把握しておこうか。 まずはユダヤの内部抗争だ。 大祭司のカヤパ。 神殿貴族のサドカイ派。 そしてパリサイ派。 まずこいつらを叩き潰す。 しかしこれを ローマ帝国が放ってはおかない。 内戦勃発の事態を把握すれば 皇帝ティベリウスは鎮圧のため即刻 ユダヤ総督を派遣してくるだろう。 ポンティウス・ピラト。 史実でキリストの処刑を決定した ローマ軍官吏だ」 「その敵勢力は結局 全部でどれくらいなんだ?」 「全て合わせて、まあ一万二千… 多くて一万五千というところだろう」 「無理じゃん」 「だがピラトの軍さえ打ち破れば ティベリウスを出し抜いて 君が王座に君臨することも夢ではない」 「だからさぁ こっちにそんな戦力ないじゃん。 寝言は寝て言えって。 いや今己たちは寝てんのか。 失敬。前言撤回するよ。 夢だからって夢みたいな寝言ばっか ほざいてんじゃねえよ能天気野郎。 そんなだから今までも 失敗してきたんだろうが。 学習能力ないんかカス」 絵守がなんだかシゴデキみたいな感じで 主人公の座を乗っ取られそうな気がした私は 本能的に絵守に対して 罵倒の言葉を浴びせていた。 少しでも絵守の評価が落ちないかなぁ という稚拙な心理欲求から出た ラインを越えた言動に 私は己がことながら己にちょっと引いた。 そして、こんなことだから 毎回読者に嫌われるんだと、一瞬自戒した。 が、言ってしまったものは もう取り返しがつかないので 私は開き直ってこのまま 無責任なアウトローを貫こうと 刹那の決心をした。 私だって限界なんだ。 文句があるなら 転生してから言ってくれたまえ。 って、私はさっきから 誰に向かって何を言っているのか。 しかして、絵守は偉かった。 私の質の悪い悪態を受けて尚 彼は一切心乱すことなく 私の問いにあくまで真摯に応えた。 「言っただろう。 僕はこの日のために三年間 準備をしてきたんだ。 具体的にはそうだな。 まず君が主の中に入るまで 主にできるだけ力を使わせるよう仕向けた。 主の力は本物でな。 まさに奇跡を起こせたんだよ。 それで兵糧の足りない地方に行っては 片っ端からパンを出して与えた。 流行り病が起こった地方に行っては 片っ端から病を治した。 戦争があれば兵士たちの傷を 片っ端から治した。 天候が乱れそうな時は 嵐を止めることもした。というかさせた」 「なにそれ。チートじゃん」 「それがそうでもない。 主は力を妄りに使うのを良しとしなかった。 そこで僕はあの手この手で主のご機嫌を操り なんとか『妄りに力を使う』 ように仕向けてきたのさ。 正直、これが一番骨が折れたよ。 なにせ主は堅物だからな。 そう簡単に乗りこなせる馬じゃないんだ」 「救世主を馬扱いか。随分と罰当たりだな」 「それくらいの胆力がなきゃ この戦に勝機を見出すこと なんてできないよ。 僕は幾度もの失敗で学んだんだ。 どんな手段でも使わなきゃならない。 勝利するに最も邪魔なものは 人間的な躊躇だということを」 なんだか絵守が遠い人のように思えてきた。 こいつは本物の戦士だ。 幾多の戦場が彼を叩き上げたのだろうか。 兎角、認めざるを得ないのは 絵守の器の大きさだ。 それに比べて私はどうだ。 私は私のお猪口にも劣る器の小ささに 己のことながら辟易した。 しかし、持って生まれた器量は 今更変えられないので 男らしくこれを受け入れ これからも己の小ささに一々文句を言わず 開き直って積極的に人の 揚げ足を取って行こうと 刹那の誓いを神と交わした。 その誓約書を受け取るや否や 即シュレッダーに投げ込む神の姿が 瞼の裏に見えた気がして 私はいつか神殺しの大罪人 となるやもしれぬと夢想した。 🍎アカリ🍎 X 𝐈𝐧𝐬𝐭𝐚𝐠𝐫𝐚𝐦 公式LINE ✉️arabi_akari_otoiawase@outlook.jp ご予約詳細は🈁 ※公式LINEが凍結してしまったので 再登録お願いします🙇♀️ブログ一覧
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