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トニーの馬鹿【議】(お題:タイムスリップ 言語の壁、コミュニケーションの今昔) 再び、夢を見た。夢の中でトニーは 航空会社時代の親友たち 四人と語らっていた。 もう会えないと思っていた四人の仲間。 今頃、彼らは元気にしているだろうか。 だが夢の中のトニーは 純粋にトニー本人というわけではなかった。 トニーはトニーそっくりな日本人の男に 身体を借りていた。 これは筆山?いや違う。 どうやら波佐間という男だった。 妻を亡くして根暗になっている男だった。 その妻は逢坂命という美貌の人であった。 古語で言うところの超マブいスケであった。 トニーは波佐間が可哀想だった。 しかし、トニーと一体になっている 波佐間は笑っていた。 良かった。この男はまだ笑えるのだ。 トニーは感謝した。 ありがとう波佐間。 あなたのお陰で最期に友に逢えた。 何とか波佐間も 会いたい人に会えるといいんだが。 トニーは考えた。 しかし、考えるうちに不安になってきた。 世界には同じ顔をした人間が 三人はいるという。 ということは、トニーは夢の中とはいえ もはやそれをコンプしてしまった。 そして、ドッペルゲンガーのジンクス。 あの呪いが本当ならば…。 翌朝、トニーは冷たくなっていた。 老衰だった。32歳であった。 「…寿命短すぎねえか?」 ロバートが呟いた。 「仕方ないだろう。 トニーは太く短く生きる宿命だったんだ」 同僚のスコットが言った。 「俺らの知らないうちに 三人分くらいの人生を生きてたのかも」 トラヴィスが絵を持ってくる。 「その絵は?」 「なんかコンクールに出すって言ってた。 画家になるのが夢だって」 「じゃあ俺たちで出しといてやろうぜ」 ロバートが絵を手に取った。 「いいのか?一応、トニーの遺品だぞ」 スコットが少し心配そうな顔をする。 「いいだろ。ひょっとしたら 夢が叶うかも知れないんだし」 トラヴィスは乗り気だ。 「航空会社に軍人、次は画家か。 確かに三人分だな」 「まあそう言うなよ。 トニーは夢追い人だったのさ」 「ところでこれ、何の絵なんだ?自画像か?」 ロバートは訝し気な目で絵を見ている。 「わかんない。 自画像にしちゃ変な絵だよな」 「なんて題名なんだ?」 「確か…よみち…って言ってたような」 「なるほど。夜の道ってことか。 わかんねーけど」 いくら見ても意味がわからない絵なので ロバートは考えるのを辞めた。 トニーの絵は、なんと大賞を受賞した。 絵守彩人という画家との 同時受賞であった。 びっくりしたロバートは 慣れないドレスコードに身を包んで 美術館へ向かった。 トニーの作品は、絵守彩人の作品の隣に 華美に展示されていた。 まず絵守の作品は 作家が俯いて机に向かっている シンプルなものだ。 顔も見えない程に項垂れているその姿から 絶望が色濃く伝わってくる。 『筆山文彦』という題名だ。 聞いたことのない作家だが 実在するのだろうか?まあ創作だろう。 そして、金縁の額に入れられて すっかり立派に見えるトニーの作品。 月明りが照らす夜道を トニーそっくりな男と、美貌の女… 古語で言うところの超マブいスケが 仲睦まじく手を繋いで 幸せそうに笑い合いながら歩いている。 そしてその脇の、道から外れた暗がりで これまたトニーと同じような顔をした二人が 掴み合いの喧嘩をしている。 三人の男と一人の美女は 光り輝く展示の中で 一際幸せそうに 一方では一際険悪そうに見えた。 「やっぱりわけわかんねー絵だなぁ」 ロバートは絵の前に立って 30分くらいその謎を眺めていた。 が、やはり全く意味が解せず 馬鹿馬鹿しくなってきて 考えるのを辞めて帰宅した。 額縁の下に そのわけわかんない絵の名前が より一層わけわからなく印字されていた。 『黄泉路』 🍎アカリ🍎 X 𝐈𝐧𝐬𝐭𝐚𝐠𝐫𝐚𝐦 公式LINE ✉️arabi_akari_otoiawase@outlook.jp ご予約詳細は🈁 ※𝐈𝐧𝐬𝐭𝐚𝐠𝐫𝐚𝐦開設したので フォローお願いします✨ ※公式LINEが凍結してしまったので 再登録お願いします🙇♀️ブログ一覧
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トニーの馬鹿【不】(お題:タイムスリップ 言語の壁、コミュニケーションの今昔) 一ヶ月が過ぎた。 凍えるような寒さ。死臭が漂う塹壕。 感染症に罹った者。 凍傷で動かなくなった者。足を引きずる者。 目の前の腐った友軍の死体の上を それでも兵士たちは進んでいく。 頭上僅か数寸を飛び交う 黒い風から低く身を隠しながら。 大砲の破片が掠った者は 肉ごと吹き飛ばされた。 敵陣に突撃した同僚はバラバラになった。 いつ何時襲ってくるかわからない 敵兵の奇襲に怯え続け 発狂していく仲間たち。 「早く地獄へ堕としてくれ」。 塹壕の壁にそんな書き残しがあった。 そう、ここじゃ地獄の方がまだ生温い。 人間の罪業の極限は ゲヘナの底よりまだ深い。 そんな中で、筆山は今日も眠る。 もう助からない友の呻きを子守歌に。 眠っている我が身に 砲弾の雨が降り注がぬよう祈りながら。 もはや開始五ヶ月で 百万人もの兵士が死んでいた。 奈落の暗がりに閉じ込められているのは こちらばかりに非ず。 とっくに両軍とも限界だった。 一秒でも早く この闇から解放されたかった。 死にたくない。殺したくない。 全ての兵士の望みはただ一つ。 「早く戦争が終わって欲しい」。 そのたった一つだった。 雪が降る。綺麗だ。 全てを凍結させてほしい。 そう思いながら 筆山は降り積もる雪を眺めていた。 その雪は、重なり、折あって 人の顔を成し始めたように見えた。 絵守の顔が顕れた。 絵守はヌクヌクとソファで 暖炉にあたりながらニヤニヤしていた。 全身が熱くなった。 筆山の体中に熱い血潮が流れ出す。 筆山はまだ生きている。 死にそうになる度 絵守憎しの一念をして魂を燃やし 復活し続けてきたのだ。 そして幾多の死線を越えてきた。 戦友たちの屍に囲まれた塹壕。 隣にはロバートが座っている。 「なあ、今夜はクリスマス・イヴだぜ。 信じられるかい?」 「ああ。どおりでみんな センチメンタルだと思った」 「どうセンチメンタルなんだ?」 「いつもより静かだ」 「そりゃみんな死んでるからな」 「おセンチな戦場だな」 己がこの前線にタイムスリップしてきてから 一ヶ月が経ったということか。 今やフランス外人部隊で 軍事演習していた頃が遠い天国に感じる。 静かな夜だった。 今までで最も静かな 最も生と程遠い聖夜だった。 ただただ死の緊張だけが 夜を覆い尽くしていた。 澱んだ空気の中に突然、歌声が咲いた。 ドイツ軍の塹壕の方から クリスマスキャロルが聞こえる。 「さ~いれんなあぁ~い… ほ~おぉりぃなあぁ~い…」 誰かが歌っていた。凄まじい音痴だった。 しかし、こんな凄惨な場所に こんな寂しい夜に その歌はとても不似合いで とても尊かった。 筆山は故郷の歌を思い出した。 歌の不得意な筆山が 毎年、学校で、パーティーで 嫌々歌わされていた、あの歌。 「き~いよぉしぃ~… こ~おぉのよぉるぅ~…」 気付けば筆山は歌っていた。 悍ましい音痴だった。 しかし 相対する塹壕から響く音痴の二重奏は 奇天烈なハーモニーを生んだ。 最初は二人の小さな声だった。 両軍の兵士たちは黙って聞いていた。 しかし、暫くして 歌が重なって聞こえてきた。 ドイツ兵が一人、フランス兵がまた一人と 歌い始めたのだ。 ロバートも隣で歌い始めた。 長三度でハモっていた。 なんだか鼻についた。 だがロバートも、他の仲間も 初めて見るような安らいだ顔で歌っていた。 きっとドイツ軍の方でも 同じだったのだろう。 やがて歌は、両軍の大きな合唱となって 戦場に響き渡った。 その歌が、死神を掻き消したのだろうか。 さっきまで隣り合わせだった死の気配が 無くなっていた。 そして歌が終わった。 両軍から、大きな歓声が上がった。 ついさっきまで 命のやり取りをしていた両軍が この夜、互い交わしたプレゼント交換。 自然と涙が流れた。 己たちは、人間だったのだ。 相手もまた、人間だったのだ。 この一ヶ月 すっかりそれを忘れていたような気がする。 小さな合唱祭を終えると ドイツ兵たちは 木に蝋燭を付けた即席のクリスマスツリーを 塹壕の上に置き始めた。 それは、今夜だけは争わずに ふクリスマスを共に祝おう。 そう願い込められた ドイツ軍からのメッセージだった。 フランス軍はそれを恭しく受け取るように 攻撃を一切行わなかった。 🍎アカリ🍎 X 𝐈𝐧𝐬𝐭𝐚𝐠𝐫𝐚𝐦 公式LINE ✉️arabi_akari_otoiawase@outlook.jp ご予約詳細は🈁 ※𝐈𝐧𝐬𝐭𝐚𝐠𝐫𝐚𝐦開設したので フォローお願いします✨ ※公式LINEが凍結してしまったので 再登録お願いします🙇♀️ブログ一覧
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