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トニーの馬鹿【思】(お題:タイムスリップ 言語の壁、コミュニケーションの今昔) こうして、両軍の間に 暗黙のクリスマス休戦が取り交わされ 兵士たちは束の間の安息を夜に送っていた。 筆山はだいぶ未来のアニメの話を ロバートに聞かせた。 ロバートは コードギアスの結末を聞いて涙した。 そして深夜。 唐突に、ドイツ軍の塹壕の中から 喧騒が響いた。 何やら揉め事のような雰囲気。 「Hey, lass das!」 「Rauszugehen ist keine gute Idee!」 「しゃらっぷみーは まいはーとうぃるごーおん」 どうも誰かが 塹壕の外に出ようとしているのを 流石に危ないと止めているようだ。 そしてとうとう、その何者かが 塹壕の外へ飛び出てきた。 一人だけ、変なドイツ語?を喋っていた その人だろう。 ロバートが素早くその人影に銃口を向ける。 他のフランス兵も同様に。 「やめろ!」筆山は叫んだ。 ロバートはびっくりしたような顔をして しばらく筆山の方に首を向けていたが やがて塹壕内に向き直って言った。 「Attendez! Ne tirez pas! C’est la trêve de Noël aujourd’hui. Pas de massacre. Vous comprenez?」 どうやら撃つなと言ってくれているようだ。 その間も、変なドイツ語?のドイツ兵は 両手を上げながら ゆっくりとこちらへ近づいてくる。 武器を持っていないことを確認した フランス兵たちは お互いを発砲しないよう説いた。 「Il n’a pas d’arme. Ne tirez pas. Moi non plus, je ne veux pas tirer.」 誰も撃たなかった。 「トニーお前も出て行ってこいよ」 ロバートが耳元で囁いた。 「え?いやそりゃ危なくないか?」 「大丈夫だ。お前のキツイ歌のお陰で みんな久しぶりに人間に戻れたんだ。 向こうも同じさ。誰も撃ちゃしない。」 そしてロバートはまた 塹壕内に向けて演説した。 「Notre héros Tony va sortir comme ambassadeur de Noël. Ne l’arrêtez pas.」 ちょっと止めて欲しかったけど 誰も止めてくれなかった。仕方ない。 筆山は塹壕から思い切って飛び出した。 ドイツ軍の塹壕から銃口の気配。 慌てて筆山は両手をあげる。 それから 目の前の人影にゆっくり歩み寄った。 ロバートの言った通り。 誰一人、発砲する者はいなかった。 やがて、両軍のクリスマス大使は 戦場の真ん中で邂逅した。 いつ発砲されるかわからないまま ここまで歩く恐怖は 途轍もないものがあった。 そしてそれは相手も同じ。 そんな勇気と友好の志を持った相手となら 今日くらい、塹壕から出て平和に過ごそう って話ができるかもしれない。 筆山は握手を求めて手を差し出した。 相手もそれに応えるように 手を差し出してきた。 と、その時。 暗闇でよく見えなかった 相手の顔に月光が差した。 次の瞬間 筆山はそいつの顔をぶん殴っていた。 もんどり打って大地に倒れたそいつの顔は 筆山と瓜二つであった。筆山は更に追撃。 馬乗りになって 己の顔をしたそいつをボコボコにした。 「おい!トニー!貴様! 全部!全部貴様のせいだ! この野郎! 元の場所に返せ!元の場所に戻りやがれ!」 トニーは何も答えない。 おそらく転倒した際に 頭を打って気絶したんだろう。 「何だお前!なんでドイツ軍にいんだよ! 裏切り者め!ふざけるなよ! お前のせいで俺はなぁ…」 それを見ていたドイツ軍は これをフランス軍の騙し討ちと思い 筆山を蜂の巣にした。 フランス軍もこれに応戦して マシンガンを乱射した。 筆山もトニーも みんなグチャグチャのミンチになった。 クリスマスの夜、両軍は 第一次世界大戦において 最も苛烈な戦闘を行った。 後にこの話は 「クリスマスの悲劇」として語り継がれ… …というところでトニーは目を覚ました。 ルームメイトのロバートが眠い目をこすって 二段ベッドの上から覗き込んでいる。 「どうしたんだトニー? いきなり飛び起きて。 やけにうなされてたぞ?」 「ろんぐたいむのーしーゆー。 みーはいんまいどりーむで のべりすとでごんした。 ばってんほわいとぅるーすなみーは あーみーかららなうぇい。 いくすちぇんじのべりすとなみーが あーみーとれーにんぐ。 せやけどさどんりわーるどうぉーに とらぶるとらべる。 みーはくりすますまで なんでんかんでんさばいばるだんす。 ほんでさいれんないしんぎんしたら あーみーずぴーすふる。 みーはそこでとぅるーすなみーと みーつしたばい。 ばってんのべりすとなみーは むかちゃっかふぁいあで とぅるーすなみーを ぱうんどふぉーぱうんどでしふぉんけーき。 ほいであーみーず おーるぶらっでぃうぃんたーすのう れいんぼーまうんてんなってもてん」 「ん~? つまりお前は夢の中でお前に間違われて その途中で第一次世界大戦に タイムスリップして お前はお前に出会うけども 結果的にドッペルゲンガーに絡まれて ボコボコにされるみたいな感じで お前は死んで、そのせいで ドッペルゲンガーもみんなも死んで せっかくのクリスマスが台無しに… ん~?意味わかんねぇ。 なんだそりゃ」 まだ夜中だった。 「とにかく、もう起こすなよ」 ロバートは再び ベッドの上に戻って横になった。 トニーもまた眠ることにした。 ベッドの隅に立てかけた 描きかけの絵のキャンバスが 目に飛び込んできた。 キャンバスには月明りが照らす 異国の夜道が描かれていた。 何かが足りない気がする。 その絵を眺めながら トニーは微睡みに落ちていった。 🍎アカリ🍎 X 𝐈𝐧𝐬𝐭𝐚𝐠𝐫𝐚𝐦 公式LINE ✉️arabi_akari_otoiawase@outlook.jp ご予約詳細は🈁 ※𝐈𝐧𝐬𝐭𝐚𝐠𝐫𝐚𝐦開設したので フォローお願いします✨ ※公式LINEが凍結してしまったので 再登録お願いします🙇♀️ブログ一覧
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トニーの馬鹿【訶】(お題:タイムスリップ 言語の壁、コミュニケーションの今昔) なんでそんなことがわかるかって? それは同室のロバートが大のアニメ好きで 日本語がペラペラだったからだ。 じゃあロバートに 直談判して貰えばいいじゃないか という話だが、なんということか。 彼はこれを面白がって 決して協力してくれない。 「お前がいなくなったら ジャパニーズアニメの話を 聞けなくなるだろ?」 ロバートはそう言って いつも気楽に澄ましている。 他人事だと思いやがって。 こうなったら 兎にも角にもにも上官にかけあうしかない。 しかし実際、部隊長はトニーのことについて 毎回頭を悩ませていた。 そして、毎回の珍騒動に もはや呆れ果て、疲れ果て ある種の思考的虚脱状態に陥っていた。 もはや筆山がトニーでなくても 軍事演習ができれば問題ない という考えにまで堕落していた。 なんたる軍務違反であろうか。 もしそんなことが露見したら 国際問題になるとは思わないのか。 しかし彼は、訓練中以外 魂が抜けたように コーヒー片手に 中空に目を彷徨わせるばかりで そのくせ、そのコーヒーは一口分も 減っているところを見たことがない。 軍人、失格。 もはや廃人である。 筆山は戦時中、丙種に分類されて 戦役を逃れた太宰治のことを 極地的に羨んだ。 何故に文人墨客たる己が こんな兵役を強いられねばならんのか。 何故にこんな 物騒な軍服を着ねばならんのか。 太宰だって着なかったのに。 まして我が日本国民の大半は 未だ大局を見ず 平和ボケの真っ最中だというのに。 いつ果てぬ仮想塹壕戦の中に 渦巻く煉獄の中で 己だけが外国人として 終わりなき旅路を歩かされている。 このままではこの先の行き止まりに 骨を埋めることになってしまう。 なんとかしなければ。 そう思いながら 筆山は今日も黄ばんだ トニーの軍服を一人洗い続けていた。 漂白剤を入れすぎて もはや迷彩柄が寒冷地仕様になりつつある。 一度、漂白剤の海に顔を突っ込んでみたが 残念なことに頭の中が 真っ白になることはなかった。 「おいおい、なんだ白い顔して。 ジョーカーに憧れてテロでも起こす気か?」 ロバートの馬鹿笑いが兵舎の窓から 広がる空に吸い込まれて 異国の空気を震わせた。 筆山の拳も震えていた。 青空の中に、消えた編集者のニヤつきに 似た雲が流れていた。 あってもなくてもいいような雲だったが それはとても遠くに感じた。 目を閉じると、祖国も遥か彼方に浮かんだ。 浮かんで飛んで壊れて消えた。 筆山はその日も一日 異国で泥と砂塵と思弁の海に沈んだ。 そして夜。 いつものように硬いベッドの上で 丸まって微睡みに堕ちた。 二段ベッドの上の ロバートの寝言が微かに聞えた。 「Keep your head down… Tony…」 目が覚めると、激しい轟音が響いていた。 筆山は泥濘の中に這いつくばっていた。 なんということだ。 己は軍事演習中に微睡んでしまったのか? しかも昨晩寝入ってから ここまでの記憶が飛んでいる。 ストレスか?頭でも打ったか? それともロバートの放屁か? 昨日の晩飯には確か香辛料が多かった気が… 「Keep your head down! 頭を下げろ!トニー!」 前方でロバートが叫んだ。 瞬間、彼方から機関銃の鉄の刃が 容赦なく地表を薙ぐように襲い掛かった。 伏せて尚ギリギリのところを狙ってきた。 おかしい。 気付けば塹壕がいつもより深い。ガンッ。 後方で鉄塊が鉄兜を叩く鈍い音がした。 更に遠方で兵士たちの叫び声が聞こえた。 機銃掃射の音に混じって、あちこちから 悲鳴、怒声、呻き声が聞こえる。 なんだ?一体これはなんだ? 「ロバート、一体こりゃどういうことだ?」 「ああ?何がだよ」 「こりゃ本当に軍事演習なのか?」 「ついに頭イカれたか? おいトニー、しっかりしろ」 「いや、俺は正気だ。 多分、記憶が飛んでるだけだ」 「まあ、正気でいろって方が 無理な注文かもしれねえな。こりゃ」 「確認させてくれ。 ここはどこだ?今はいつだ?」 「ここは十一月末のスイス国境だ。馬鹿野郎」 「何年?西暦何年だ? 相手は?何処の兵士だ?」 「1914年のドイツ軍だ。 目ぇ覚めたかよ、浦島君」 浦島太郎の話を知っているほど ロバートが日本通だったということに 筆山は不覚にも感心した。 そして絶望した。 思えばこの取材旅行に来てからこっち わけのわからないこと続きだったが 今のこれはそんなレベルじゃない。 戦争だ。戦争が起こっている。 軍事演習でも何でもない。 本物の大人災だ。1914年。 まさに第一次世界大戦の幕開けの年。 その悪夢そのもので名高い塹壕戦が おそらくここ。 スイス国境の西部戦線。 目の前が黄土色一色になった。 いつぞやと同じ格好で 筆山は土塊に突っ伏していた。 涙を隠すためではない。 頭が思考を拒否し、運動を止めた。 ドッペルゲンガーの次はタイムスリップ。 理解できない。 漫画じゃないんだぞ。 ましてや小説でも絵画でもない。 そういえば絵守は元気にしているだろうか? こんな今生の別れも クソもないような羽目になるくらいなら 最後の誘いに乗って 一緒に美術館に行ってやればよかった。 そう思うと、余計に泣けてきた。 滲んだ瞳の向こう側の世界で 絵守がニヤニヤ顔で 画布に絵具をのたくっていた。 その彼方から、絵守の声がした。 「これは大賞を狙えそうですぞ!」 その嬉しげな響きに 何だか己への嘲りが 含まれているような気配を感じた。 筆山はムカついた。 ムカついたおかげで黄泉返った。 なんだか絵守が己にとって 良からぬ絵を拵えようとしている。 そんな予感がしたのだ。 あの野郎。帰って一発ぶん殴ってやる。 こんなところで死んでたまるか。 友を殴るまで生き延びよう。 筆山は静かに心でそう誓った。 🍎アカリ🍎 X 𝐈𝐧𝐬𝐭𝐚𝐠𝐫𝐚𝐦 公式LINE ✉️arabi_akari_otoiawase@outlook.jp ご予約詳細は🈁 ※𝐈𝐧𝐬𝐭𝐚𝐠𝐫𝐚𝐦開設したので フォローお願いします✨ ※公式LINEが凍結してしまったので 再登録お願いします🙇♀️ブログ一覧
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