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芸術戦争【さび】(お題:創作への苦悩 幻想と現実、一芸に秀でた者) 「さっきから聞いてりゃ 下らん小理屈並べやがって。 その小理屈に自分だけで 凝り固まっているなら よし僕もこんな暴挙には出るまい。 しかしね、絵守お前 言葉を理屈と言いやがったな? 物書きを侮辱しているのか? この世は言葉でしか 顕せないものに満ちている。 というか、嗚呼、もう言ってやろうか? 言おう。 言葉にできないような芸術なんて 贋作なんだよ。 言葉にできない時点でただの夢幻。 インチキ宗教と変わらない。 だから僕はお前のことを殴ったんだ。 そんな間違った信仰心から お前の目を覚させるためにね。 僕は友を助けるためにやったんだ。 その証拠にどうだ。 お前の曲がった鼻より 僕の曲った手首の方が よっぽど腫れ上がっているじゃあないか」 鼻水の代わりに鼻血を垂らして 俯いていた友人はしかし 急にその態勢から屈伸。解放。跳躍。 そのまま私の顎に ロケット頭突きを喰らわせてきた。 意識が飛んだ。 私は冷たく硬い床にどうと倒れた。 その際、さらに後頭部を 強かコンクリートに打ちつけた。 もはや私のヘッドダメージは限界であった。 薄れゆく意識の中で 友人の喚き声が聞こえる。 「筆山貴様、よくも俺を殴ったな。 物書きの、しかも売れない物書きの分際で。 画家はな、常に世界の深淵と 向き合っているんだ。 お前たちのように言葉で物事を どうこう理屈づけて動かそう って俗物と一緒にするない。 その俺の高い高い鼻をへし折ったお代は 高く付き過ぎてお前の命でも足りないぞ。 さあ、立て。立ってもっと俺に殴られろ」 友人が私の襟首を 掴んで引き起こそうとするが しかし私はもはやその時 この世の人ではなくなっていた。 私は私を何だか 高いところから見下ろしていた。 なんだ、これが人生か。 それから私の眼に絵が顕れ始めた。 その絵は暴力という色に満ちていた。 友人の戯言を聞いた たまたま居合わせた作家たちが 激昂して友人に襲いかかっていた。 また、そこに たまたま居合わせた画家たちが その友人の弁を庇ってこれに応戦した。 そして普通に たまたま居合わせた人々は通報し たまたまではなく突入してきた警官隊は 警棒を持って画家や作家たちを 打ちのめした。 するとこちらも黙ってはいない。 作家は絵の額縁を千切っては投げ 千切っては投げて応戦した。 すると、たまたま居合わせた 額縁匠の老人の怒声が飛んだ。 「貴様、ワシの額縁になにをする」 画家たちはこれの援護に回ったが それがまた新たな争いの火種となった。 「そうだ。 額縁なんてものはどうでもいいが 物書き風情が崇高な絵画に 手を触れるんじゃねえ」 「なんだと? 額縁がなければ貴様らの落書きなんぞ 紙切れ以下じゃろうが」 「耄碌するな爺。 額なんてのは絵を際立たせるための ただの飾りだ。 美女の取り巻きの 不細工と変わらんぞなもし」 「額にも納まらん絵描きが何をほざくか」 額縁匠は乱心して画家たちを 作家たちに向けて投げ飛ばし始めた。 画家にぶつかられて怒った作家たちは 画家を更に警官に向かって 投げ飛ばし始めた。 警官は飛んでくる画家たちを 片っ端から警棒で打ち落とした。 打ちのめされた画家たちは もはや発狂して出家し、 寺で物書きに耽るようになった。 やり過ぎて発狂した作家たちは 精神病棟に送られ セラピーで絵を描くようになった。 張り切り過ぎた額縁匠は老衰して死んだ。 責任を問われ懲戒免職になった警官隊は ヤタケタでギャングを組織した。 東京の治安は既に南アメリカ並だ。 政府は自衛隊を国力と定め これの鎮圧に腐心したが 内乱に充てた軍事費が 増大し過ぎて国庫が破綻。 日本はチョッパリ州として アメリカの一部となった。 私は日本人のうちに 死ねてよかったと思った。 そして私にはどうやらもう時間がない。 なぜなら さっきから羽根を生やした素っ裸の なんだか嫌な薄ら笑いを 浮かべている幼児たちが ベビーパウダーの匂いを漂わせながら 私の五肢を束縛し 第六天へ向けて屠去ろうとしているからだ。 しかして私は満足であった。 よかった。 人はまだ自分の誇りを守るために 剥き出しになれるのだ。 そしてそのために死ぬる。 私はその先駆けとなった。 正直 あんな奴らみたいになって生き延びるより 私の最期の方がよっぽど上等じゃないか。 踏み潰されてグチャグチャだったけど。 まあいいや。 私は天上にてこの人間の 愛しき浅ましさを一冊に書き上げ 第六天魔王様に献上しよう。 そうすれば 天上での出世だって思いのままだ。 そんなことを思いながら 私は未だ机の前に向かって 一文字も書き上げていなかった。 友人からの誘いを断ってまで 我を通したというのに、なんたる様か。 こんなことなら美術館に行って 妄想の通り討ち滅ぼされていればよかった。 数滴の涙が原稿用紙に溢れた。 美術館には、絶望して机に向かい 嗚咽する男の絵が煌々とかざられていた。 🍎アカリ🍎 X 𝐈𝐧𝐬𝐭𝐚𝐠𝐫𝐚𝐦 公式LINE ✉️arabi_akari_otoiawase@outlook.jp ご予約詳細は🈁 ※𝐈𝐧𝐬𝐭𝐚𝐠𝐫𝐚𝐦開設したので フォローお願いします✨ ※公式LINEが凍結してしまったので 再登録お願いします🙇♀️ブログ一覧
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仕事が終われば【前】(お題:飛行機と出張、信頼 私の愚行、口から出まかせ) その瞬間だった。視界が歪んだ。 涙が溢れていた。 五年間、一滴も出なかった涙が。 ヨミージが驚いた顔でこちらを見る。 俺は手で顔を覆った。 「俺は…」言葉が途切れる。 「逃げていただけだった」声が震えた。 「妻が死んでから、ずっと。 何も感じないふりをして」 舞台の上では、女が男の亡骸を 静止したように抱き続けている。 「仕事を続けていれば いつかまた会えると、勝手にそう決めて」 客席は、まだ息を殺したように沈黙して 微動だにしない。 「俺は、ただ許されたいだけだった。 誰かに、許してもらいたいだけだった」 暗い劇場の中で、頭の中の黒い靄が 塊になって喉元へ転がっていく。 やがて口蓋を埋め尽くしたそれは 圧力に耐えかねたように 咳を切って口から零れ出ていった。 「でも許されなかった。許せなかった。 俺なんか、早く死んじまうべきだったのに。 でも死ねなかった。 俺一人だけ こんなクソッタレな世界に取り残されて。 独りぼっちで。 俺は、寂しかった。 寂しくて堪らなかったんだ」 ヨミージは何も言わなかった。 ただ静かに、俺の肩に手を置いた。 そして、ゆっくりと 静かに俺を抱き寄せた。 ヨミージは、俺の耳元に 優しい声で囁いた。 「あなたは、どこにも行ってやしないわ」 聖母のような声だった。 菩薩の救済のような温もりだった。 クレメンティアの託宣のような響きだった。 涙が止まらなかった。 ヨミージの胸元は 俺の嗚咽でグシャグシャになった。 それでもヨミージは尚俺を抱き続けた。 しばらくして、ようやく顔を上げたその時。 色が、虚ろだった瞳に 反射して飛び込んできた。 照明の薄い青。緞帳の草臥れた赤。 客席の影を彩る緑。 五年間、モノクロだった俺の世界に 色が戻っていた。 俺は五年ぶりに、舞台を眩しいと感じた。 五年ぶりに、生きている気がした。 舞台は盛況に終わった。 俺はヨミージと並んで帰り道を歩いた。 「舞台に見入ってる君の横顔を見てさ」 何ともなしに俺は語り始めた。 「コーンウォールの約束を思い出したんだ」 ヨミージが首を傾げる。 「コーンウォール?イギリスの?」 「ああ。妻と新婚旅行で行くはずだった」 「そうなの。奥さんとの約束…」 ヨミージは何かを察したように その先を留めた。 「劇場で一緒に シェイクスピアを見るんだって。 とても楽しみにしてた」 ミナックシアター。妻と約束した場所。 「でも、今日それが 少しだけ叶った気がする」 俺はヨミージの方を振り返った。 自然と笑顔が零れた。 ヨミージも笑っていた。 大きな瞳いっぱいに 涙を溜めて笑っていた。 「なんで泣いてるの?」 「あなたが感傷的なこと言うからよ」 俺たちはまた笑い合った。 ずっと止まっていた時間が やっと少し前へ進んだ気がした。 帰国の日。 ヨミージは搭乗口の前まで 見送りに来てくれた。 「色々お世話になったね。本当に。 君に会えてよかった。神に感謝しないと」 俺は顔の前で適当に十字を切った。 「大袈裟ね。でも私も会えてよかったわ。 本当に。会えてよかった」 ヨミージはそう言って 切なげな顔をして俯いた。 「どうしたの?」 「あなたはこれからどうするの?」 「ん?どういう意味?」 「その…悩み事は解決できた?」 ヨミージは いつもの笑顔を作って顔を上げた。 俺は少し恥ずかしそうな バツの悪そうな顔をして言った。 「あ~…その あんだけ恥ずかしいところを 見せちゃったからね。 お陰様で吹っ切れたよ」 「じゃあ、もう大丈夫ね」 「ちっとは自分のために生きてみるよ。 っていうと 大変なのはこれからなんだけどね」 俺はちょっと苦笑いを浮かべた。 ヨミージはそんな俺を 満足そうな笑顔で見つめていた。 「あのね、最後に どうしても伝えたいことがあるの」 と、突然にヨミージが真剣な声になって 真面目な顔で 俺の目を真っ直ぐに見据えながら言った。 「え?なに?どうしたのよ、急に」 少し面喰った俺に対してヨミージは 身を乗り出すようにして語り始めた。 「あのね。実はあ_―――――――――」 ヨミージの唇が動く。 俺はそれを聞いていた。 聞いていたが、届かない。 彼女の唇だけが 視界の中でゆっくりと開閉している。 その輪郭が、霞がかったように どんどんぼんやりと薄れていく。 曖昧に、朧に、そして崩れた。視界が白む。 遠くで、銃声のような音が、また鳴った。 速報です。 今日午後、福岡空港に緊急着陸した 国際線の機内でハイジャック事件があり 警察は現場で男らを取り押さえました。 警察によりますと 犯人の男らは航空会社の元契約社員とみられ 拳銃のようなものを所持して 客室乗務員を人質に取り 機体を占拠していたということです。 この事件で 乗客の日本人男性一人が死亡しました。 死亡したのは東京在住の会社員 波佐間流生さん(30)です。 警察の調べによりますと 波佐間さんは人質となっていた 客室乗務員を助けようとして席を立った際 犯人の発砲を受けたとみられています」 画面は、滑走路に止まったまま 動かない航空機を映している。 その上には、絵具をのたくったような 雲一つない空の真っ青が 馬鹿みたいに開けて続いていた。 その色は どこまでも静かでどこまでも寂しく 黄泉路の果てまで 永遠に続いているように見えた。 🍎アカリ🍎 X 𝐈𝐧𝐬𝐭𝐚𝐠𝐫𝐚𝐦 公式LINE ✉️arabi_akari_otoiawase@outlook.jp ご予約詳細は🈁 ※𝐈𝐧𝐬𝐭𝐚𝐠𝐫𝐚𝐦開設したので フォローお願いします✨ ※公式LINEが凍結してしまったので 再登録お願いします🙇♀️ブログ一覧
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