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Blog@arabian
トニーの馬鹿【摩】(お題:タイムスリップ 言語の壁、コミュニケーションの今昔) ――それは悪夢だったのか 前世だったのか あるいは誰かの描きかけの 絵の中だったのか。 土が燃え立つような砂塵の中で 頭上わずか一尺足らずを 鉄の塊が出鱈目に掠めて 前進の力を削っていく。 四肢に問題を抱えたように 地べたを這いながら 筆山は己が運命を呪っていた。 一体なんで こんなことになってしまったのか。 前衛のロバートが屁をこいた。 昨日配給で食べた芋料理を 南アフリカ原生林で取れた 謎の毒草をフレーバーに 地獄の釜でグズグズに掻き混ぜたかのような タナトスな香りが 弾丸に纏わりつく風に乗って 嗅覚どころか視覚にまで襲いかかる。 一瞬、目の前が 黄土色一色になったような気がした。 目の異常かと思ったが 果たして筆山は土塊に突っ伏していた。 あまりの屁の威力に 気絶してしまったのだろうか。 いや、違う。 同僚の放屁を顔面で 受け止めなければならない その不条理に浮かんだ涙を隠すために 筆山は咄嗟に顔を土塊に伏せて隠したのだ。 「Get your head up, Tony!」 しばらくそのまま泣いていたかったが 上官の耳を劈く声が鼓膜を圧迫し その圧で筆山の頭は ピタゴラスイッチのように跳ね上がった。 瞬間、黒い風が 頭髪を削るように薙いでいった。 その小粒な12.7×99mmの死神 は筆山を失禁させるのに 十分な説得力を持っていた。 小粒といえば納豆だ。 この規格はNATOだけどね。 ハハ。おもろ。 筆山の下半身に不快な温もりが広がった。 ゲシャゲシャになった カーゴパンツを引き摺りながら それでも筆山は停止を許して貰えない。 前からはメタンガス 後ろからはアンモニアが襲ってくる。 後陣を配す同僚たちから 非難の声が上がっている。 それはそうだ。 筆山の這った後の地面は ナメクジよろしく 陰湿に地面を湿らせている。 そこを後から通った 筆山の同僚たちの軍服には 素敵で最低な ラメ加工が施されることだろう。 訓練終了後のロッカールームで一人 居残って全員分の衣服を洗濯している この後の己の姿を想像して 筆山はまた泣きそうになった。 飯に間に合わない。 しかし仕方がない。 屁ならまだしも、小便を引っ掛けられて 憤怒に駆られない聖人など 残念ながらこの隊にはいない。 ああ神よ、我が罪障を許したまえ。 懺悔と共に、筆山は再び己が運命を呪った。 一体、どういう因果か。 何で己はこんなところで 砂を舐めているのか。 編集者からフランス革命について 書いてみないかと打診されたのが二ヶ月前。 押しに弱い筆山が唯々諾々で日本をたち フランスに到着したのが一ヶ月前。 同行していた編集者が 酒場で現地人女性を軟派し 待ち合わせに現れたその女性の 全盛期のドゥウェイン・ジョンソン のような彼氏に連れ去られ 行く方知れずになったのがその二日後。 途方もなく街を彷徨い歩いていた筆山が フランス外人部隊の基地前で 屈強な軍人三人に取り押さえられたのが 三週間前。 なんでもトニーというフィリピン人が 軍事演習中に脱走したとかなんとか。 筆山は何度も身の潔白を説明した。 しかし作家である筆山は 日本語のプロフェッショナルではあっても 外国語においては 海外文学の翻訳本さえ 読むのを嫌っていたため 彼の英語は壊滅的であった。 「あいあむじゃぱにーず まいじょぶのべるらいてぃんぐ」 強烈なビンタが飛んできた。 「If you disrespect the army again…」 目の前の軍曹の肩が怒りで震えている。 それでも筆山は何とか説得を試みる。 「のーいんぐりっしゅ あいむぷりてぃーひゅーまん」 「I’ll have you locked in the brig!」 今度はさっきと反対側の頬を 強烈な張り手が襲った。 少し左右のバランスが よくなったような気がした。じゃない。 なんでこんな道化がチーク塗った みたいな顔にされてるんだ。わからない。 わからないが、なんか 「これ以上口答えするなら 懲罰房に叩き込むぞ♪」 みたいなことを言ってた気がする。 尚更、訳がわからなかった。 そしてその訳のわからないまま 筆山は軍事演習に参加させられていた。 今日でもう二十日目だ。 その間にわかったことは なんでもそのトニーという フィリピン人は日系で 筆山に顔が瓜二つで 加えて脱走の常習犯であり 毎回捕縛されて連れ戻される度に 自分はトニーではない。他人の空似だ。 と訴えていたそうな。 そしてタチの悪いことに トニーは毎回その人種を変えて トボける癖があった。 一回目はドイツ人、二回目はガーナ人 三回目はムジャヒディン 四回目はミスチャイナ そして今回は日本全共闘の生き残りの フリをしてシラを切ろうとしている。 と思われているらしい。 🍎アカリ🍎 X 𝐈𝐧𝐬𝐭𝐚𝐠𝐫𝐚𝐦 公式LINE ✉️arabi_akari_otoiawase@outlook.jp ご予約詳細は🈁 ※𝐈𝐧𝐬𝐭𝐚𝐠𝐫𝐚𝐦開設したので フォローお願いします✨ ※公式LINEが凍結してしまったので 再登録お願いします🙇♀️ブログ一覧
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芸術戦争【わび】(お題:創作への苦悩 幻想と現実、一芸に秀でた者) ――人類が滅びても原稿は白紙である。 人のプライドとは気付かぬうちに 踏み付けにされてしまっているものである。 かくいう私も何度となく 益体もなしに踏みつけられてきた。 私のプライドはもはや マサイ族が何も知らずに語感だけで作った ボルシチみたいにグズグズであった。 なんかよくわからない虫とかも入っていた。 まだ発見されていない虫かもしれない。 これを摘み上げて学会に発表すれば 一躍私も時の人? いやそんな場合ではない。 学会。私は学会にまたも裏切られた。 アホな選考委員によって受賞を逃した。 私小説の読み方も知らない阿呆どもめ。 私は、三日三晩布団の中で 呪詛を吐き続けていた。 しかし、思えば私の私小説は写実的過ぎて ただの事実の羅列というか 日記帳というか そんな風な体たらくだったので 嗚呼、こんなものを見せられた選考員たちは 何て気の毒なんだろうか。 何を言うか。 一切を偽らず書く気概こそが 文学の神髄だろう。 いやでもそれってあなたの感想ですよね? ここ数日、私の中では幾人もの私が 自己を顕示すべく戦っていた。 私は私を論破することに私の全てを賭けて 戦う私を憐れな私だと私視点で見ていた私。 私は一分置きに思想が変幻自在に分裂し もはや解離性人格障害一歩手前であった。 それもこれも私小説の読み方すら知らぬ 選考委員たちのせいだ。 阿呆め。 私の思考は同じトラックを グルグル回るだけで、一向に先へ進まない。 私は限界だった。 家で一人クサクサしている私を見かねて 友人の画家が尋ねてきた。 「筆山君、そんなに塞ぎ込んでいても 神経が衰弱する一方だよ。 一つ絵でも見に行かないかね」 私は天井の染みを数えるのに とっくに飽きていたので、盲目的に頷いた。 我が家の扉を開け放った友人が 偉大な羊飼いに見えた。 そして私は盲目の子羊。 果たして美術館に 解脱の救済はあるのだろうか? なんてことを羊は考えたりしない。 羊は気がつくとある大きな絵の前にいた。 胡乱な絵であった。愚鈍な絵であった。 キャンパス中央に 仰向けに寝っ転がったピエロが その姿勢で中空に静止して 虚脱したような顔で空を仰いでいる。 だらしなく開き切った口からは 何の思慮も理念も感じられず とりあえず目立つようにというように 出鱈目に装飾された衣服は カラーボールの海に飛び込んで 全身が玉だらけになって取れなくなった人 みたいに稚拙だった。 バラバラに反目している 玉の色が目に煩かった。 そして背景ときたら これはもう描くのが面倒になったのか ただ退屈なだけの田園風景が 壁紙のように張り付けてある。 「人間、こうなってしまってはお終いだな」 私は意図せずして呟いていた。 「いや筆山君 これはどうして中々の名画だよ」 友人は興奮していた。 見ると目に涙まで浮かべている。 「一体、これのどこが名画なんだい? こんな、作者が自分の私生活を開き直って 画布に塗沫しただけの愚作じゃないか」 「筆山君は何もわかっていないね。 ここには人間の全てが描かれているんだよ。 退廃。迷妄。愉悦。極楽と地獄。 エロスとタナトス。画家と娼婦。男と女。 陰と陽。北斗と南斗。 嗚呼、ぼかぁこれを見るために 生まれて来たのかも知れない」 友人の頬を滂沱たる涙が伝った。 馬鹿な。 正直、私は絵に対しては門外漢だが 芸術的センスは文学と通じているはず。 画家も小説も 親戚みたいなところがあるはずだ。 その小説家たる私が この絵は愚作だと直感で断じているのだ。 しかも私は私小説家であり この絵はその私小説の悪いところを 片っ端から集めてふぐ鍋で煮詰めたような 食ったら芸術が死ぬような呪物だ。 それをばこの男は 一体どれだけ拙劣な感性でもって 画家などと名乗っているのか。 「絵守君はそういうけどね。 文学的に見てもこの絵に価値なんてないよ。 何せこの絵には何のストーリーもない。 バックボーンも見えない。 意図すらぼやかしている。 無能な画家が書いた 実に卑劣な絵じゃないか」 「なんだい、筆山君は絵に 筋書きがないといけないというのかい? バックボーンや意図? 真実にそんなものはないのさ。 この世の真実とは、ただそこに揺蕩う 浮世と常世の狭間のようなもの。 それを絵に切り取ったら そこに言葉なんて 理屈が入り込む余地はないのさ」 友人は鼻水を床に垂らし 嗚咽しながら講釈を垂れた。 私はその鼻っ柱を唐突に殴りつけた。 慣れない殴打に手首に激痛が走った。 拳が砕けた気がした。痛い。 もう少し自分を労って 殴ればよかったと思った。 🍎アカリ🍎 X 𝐈𝐧𝐬𝐭𝐚𝐠𝐫𝐚𝐦 公式LINE ✉️arabi_akari_otoiawase@outlook.jp ご予約詳細は🈁 ※𝐈𝐧𝐬𝐭𝐚𝐠𝐫𝐚𝐦開設したので フォローお願いします✨ ※公式LINEが凍結してしまったので 再登録お願いします🙇♀️ブログ一覧
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