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Blog@arabian
芸術戦争【わび】(お題:創作への苦悩 幻想と現実、一芸に秀でた者) ――人類が滅びても原稿は白紙である。 人のプライドとは気付かぬうちに 踏み付けにされてしまっているものである。 かくいう私も何度となく 益体もなしに踏みつけられてきた。 私のプライドはもはや マサイ族が何も知らずに語感だけで作った ボルシチみたいにグズグズであった。 なんかよくわからない虫とかも入っていた。 まだ発見されていない虫かもしれない。 これを摘み上げて学会に発表すれば 一躍私も時の人? いやそんな場合ではない。 学会。私は学会にまたも裏切られた。 アホな選考委員によって受賞を逃した。 私小説の読み方も知らない阿呆どもめ。 私は、三日三晩布団の中で 呪詛を吐き続けていた。 しかし、思えば私の私小説は写実的過ぎて ただの事実の羅列というか 日記帳というか そんな風な体たらくだったので 嗚呼、こんなものを見せられた選考員たちは 何て気の毒なんだろうか。 何を言うか。 一切を偽らず書く気概こそが 文学の神髄だろう。 いやでもそれってあなたの感想ですよね? ここ数日、私の中では幾人もの私が 自己を顕示すべく戦っていた。 私は私を論破することに私の全てを賭けて 戦う私を憐れな私だと私視点で見ていた私。 私は一分置きに思想が変幻自在に分裂し もはや解離性人格障害一歩手前であった。 それもこれも私小説の読み方すら知らぬ 選考委員たちのせいだ。 阿呆め。 私の思考は同じトラックを グルグル回るだけで、一向に先へ進まない。 私は限界だった。 家で一人クサクサしている私を見かねて 友人の画家が尋ねてきた。 「筆山君、そんなに塞ぎ込んでいても 神経が衰弱する一方だよ。 一つ絵でも見に行かないかね」 私は天井の染みを数えるのに とっくに飽きていたので、盲目的に頷いた。 我が家の扉を開け放った友人が 偉大な羊飼いに見えた。 そして私は盲目の子羊。 果たして美術館に 解脱の救済はあるのだろうか? なんてことを羊は考えたりしない。 羊は気がつくとある大きな絵の前にいた。 胡乱な絵であった。愚鈍な絵であった。 キャンパス中央に 仰向けに寝っ転がったピエロが その姿勢で中空に静止して 虚脱したような顔で空を仰いでいる。 だらしなく開き切った口からは 何の思慮も理念も感じられず とりあえず目立つようにというように 出鱈目に装飾された衣服は カラーボールの海に飛び込んで 全身が玉だらけになって取れなくなった人 みたいに稚拙だった。 バラバラに反目している 玉の色が目に煩かった。 そして背景ときたら これはもう描くのが面倒になったのか ただ退屈なだけの田園風景が 壁紙のように張り付けてある。 「人間、こうなってしまってはお終いだな」 私は意図せずして呟いていた。 「いや筆山君 これはどうして中々の名画だよ」 友人は興奮していた。 見ると目に涙まで浮かべている。 「一体、これのどこが名画なんだい? こんな、作者が自分の私生活を開き直って 画布に塗沫しただけの愚作じゃないか」 「筆山君は何もわかっていないね。 ここには人間の全てが描かれているんだよ。 退廃。迷妄。愉悦。極楽と地獄。 エロスとタナトス。画家と娼婦。男と女。 陰と陽。北斗と南斗。 嗚呼、ぼかぁこれを見るために 生まれて来たのかも知れない」 友人の頬を滂沱たる涙が伝った。 馬鹿な。 正直、私は絵に対しては門外漢だが 芸術的センスは文学と通じているはず。 画家も小説も 親戚みたいなところがあるはずだ。 その小説家たる私が この絵は愚作だと直感で断じているのだ。 しかも私は私小説家であり この絵はその私小説の悪いところを 片っ端から集めてふぐ鍋で煮詰めたような 食ったら芸術が死ぬような呪物だ。 それをばこの男は 一体どれだけ拙劣な感性でもって 画家などと名乗っているのか。 「絵守君はそういうけどね。 文学的に見てもこの絵に価値なんてないよ。 何せこの絵には何のストーリーもない。 バックボーンも見えない。 意図すらぼやかしている。 無能な画家が書いた 実に卑劣な絵じゃないか」 「なんだい、筆山君は絵に 筋書きがないといけないというのかい? バックボーンや意図? 真実にそんなものはないのさ。 この世の真実とは、ただそこに揺蕩う 浮世と常世の狭間のようなもの。 それを絵に切り取ったら そこに言葉なんて 理屈が入り込む余地はないのさ」 友人は鼻水を床に垂らし 嗚咽しながら講釈を垂れた。 私はその鼻っ柱を唐突に殴りつけた。 慣れない殴打に手首に激痛が走った。 拳が砕けた気がした。痛い。 もう少し自分を労って 殴ればよかったと思った。 🍎アカリ🍎 X 𝐈𝐧𝐬𝐭𝐚𝐠𝐫𝐚𝐦 公式LINE ✉️arabi_akari_otoiawase@outlook.jp ご予約詳細は🈁 ※𝐈𝐧𝐬𝐭𝐚𝐠𝐫𝐚𝐦開設したので フォローお願いします✨ ※公式LINEが凍結してしまったので 再登録お願いします🙇♀️ブログ一覧
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仕事が終われば【在】(お題:飛行機と出張、信頼 私の愚行、口から出まかせ) 「ヨミージです。通訳を担当します」 長い黒髪。静かな笑顔。 どう見ても妻そのものにしか見えない その面貌。 違うのは、肌の色と、香水の匂いくらいだ。 さっきまで自己を責め立てていた仮説が 一瞬で吹き飛ぶほどの現実感。 顎先にメイ・ウェザーの エキシビジョンパンチがヒットして 脳髄がぷっちんされた ぷっちんプリンくらい揺れた。 地盤がそのプリンのキャラメルのところに 落ちてズクズクになって 俺の心は兎に謀られた狸のように彼岸近海を どんぶらこどんぶらこと彷徨った。 ヨミージは、幻ではなかった。 ひょっとしたらこの女は 妻の生き別れの双子か何かであろうか。 「どうかしましたか?」 妻がやけに他人行儀な調子で 心配そうな顔をしている。 違った。この女はヨミージだ。 「いや、慣れない飛行機に 少し酔ってしまったみたいで」 俺は額に手を当てて誤魔化した。 すると心臓の鼓動が少し治まった。 そうだ、この女は妻ではない。 いくら似ていようが、ただの仕事相手だ。 俺は仕事をしなければならない。 そうしなければ 永遠に妻の元へ行くことが出来ない。 自分に言い聞かせるように 頭の中でいつもの言葉が反響し 頭痛がするほど響き渡っていった。 俺とヨミージは翌日、劇場へ行った。 舞台装置の搬入口を確認し 照明の吊り位置を測り 劇場側と契約の確認をする。 交渉はヨミージがすべて通訳した。 「劇場側は追加料金を請求しています」 「契約書では?」 「含まれています」 ヨミージがタイ語で話す。相手が反論する。 「当初の契約には貴社も納得していました。 実入りが多くなったから報酬を寄こせ というのは反社会的なやり口です。 この条件で呑んでいただけないのでしたら 当社としても裁判を 視野に入れる必要性が…」 ヨミージは振り向いて微笑んだ。 「大丈夫です。向こうが折れそうです」 夕方には問題は片付いた。 俺とヨミージは初めてとは思えない程 バディとしての相性がよかった。 そこには確かな意思の共鳴があった。 それは、とてもとても懐かしい感覚だった。 …いや 余計な感傷に浸り込むのは止めよう。 ともかく これで出張のお役目は終わったのだ。 その夜。ヨミージが言った。 「近くでショーをやっています。 観に行きますか?」 屈託のない笑顔だった。 重ねてはいけない想いが去来しそうになる。 俺はそれを振り払うように できるだけ明るい声を振り絞った。 「いいね。 せっかく仕事が早く終わったんだ。 是非、行こう」。 するとヨミージは 嬉しそうに駆け寄って俺の手を取り 蒸し暑さが地面に残る タイの街路を歩き出した。 ヨミージに導かれ 着いたのは小さな劇場だった。 劇場といっても 東京で見慣れたような建物じゃない。 古い倉庫を改装したような空間で 入口の横には 小さなカフェが併設されている。 扉を開けると、湿った夜気と コーヒーの匂いが混ざって流れ込んできた。 客席は五十ほど。 黒い椅子がぎゅうぎゅうに並べられている。 舞台は客席より一段高いだけで 境界はほとんどない。 「ここ、私の好きな劇場です」 ヨミージが小声で囁いた。 まだ開演していないのだから ヒソヒソする必要はないのに。 しかし、久方ぶりに感じる その妻らしい気遣いを とても懐かしく思った。 …やめろ。 思い違いをするな。調子に乗るな。 照明が落ちる。暗闇の中で、役者が一人 舞台の中央に現れた。 男と女の物語だった。 遠い昔、同じ村で育った二人が恋に落ちる。 だが戦争が始まり 男は兵士として連れ去られる。 女は待ち続ける。 何年も。何年も。 やがて男は帰ってくる。 だがその彼は、もはや別人のようだった。 「俺はもう とうに昔の俺じゃなくなってしまった」 女は微笑む。 「それでもいい」その台詞を聞いて 胸の奥で何かが軋んだ。 俺は昔、同じような台詞を 舞台で言ったことがある。 相手役は、妻。逢坂命だった。 照明が変わる。 二人は抱き合う。 しかし次の場面で、男は死ぬ。 彼は、戦争で受けた傷に ゆっくり蝕まれていた。 女はその亡骸を抱きしめる。 悲しげに。愛しげに。 そして呟いた。 「あなたはどこへも行ってはいない」 客席は水を打ったように静まり返っていた。 俺は舞台を見ていた。 いや、見ていなかった。目の前の役者に、別の顔が重なっていた。 逢坂命。 舞台の灯りの中で 彼女があの日のように笑っている。 🍎アカリ🍎 X 𝐈𝐧𝐬𝐭𝐚𝐠𝐫𝐚𝐦 公式LINE ✉️arabi_akari_otoiawase@outlook.jp ご予約詳細は🈁 ※𝐈𝐧𝐬𝐭𝐚𝐠𝐫𝐚𝐦開設したので フォローお願いします✨ ※公式LINEが凍結してしまったので 再登録お願いします🙇♀️ブログ一覧
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