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仕事が終われば【陣】(お題:飛行機と出張、信頼 私の愚行、口から出まかせ) 「俺の妻も、この会社の飛行機で死にました」 言うつもりのなかった言葉が 口を突いて出た。 目の前の二人がハッとした顔をして 俺を見据えた。 こんなことを言うつもりはなかった。 出張が決まった時 俺は望んで妻と同じ航空会社を選んだ。 一緒に死ぬべきだった。 死なねばならなかった。死ねなかった。 ならば、万が一に墜落するその時があれば せめて同じように。 つまりこれは俺のタダのエゴだ。 航空会社に責任転嫁しても 仕方がないことだ。 しかし、トニーは あのパーカーたちの同僚だったトニーは 会社に殺された。 それを聞いてから どうしても思わずにはいられない。 俺の妻も、この会社の ブラックな労働環境のせいで 死んだのではないか。 杜撰な管理に殺されたのではないか。 目の前で蒼い顔をしている二人を見ながら 努めて冷静に俺は続けた。 「こんなことを言うのは お門違いだとわかっています。 しかし、彼らの、ハイジャック犯の同僚も あなた方の会社に殺されているんです。 俺はね、彼らの言うことが 全部間違ってるとは、思わないんですよ。 もちろん、罪を犯した人間は 罰を受けるべきです。 彼らも。あなた方の会社も。 そして平気で彼らのことを 欺いているこの俺もね。 だから俺は これ以上彼らに 罪を背負わせるわけにはいかないんですよ」 機長も副操縦士も しばらく沈思黙考していた。 嫌な沈黙がしばらく続いた。 やがて、機長が 何かを決心したように顔を上げた。 「…わかった。疑ってすまない。 その、本当にすまなかった」 副操縦士も、顔をあげて バツの悪そうな顔をしている。 「しかし、本当に着陸しても大丈夫なのか? ここからだと福岡空港辺りになるが…」 「大丈夫です。神は俺の舌だけは 丈夫にお創りになったのです」 「…よくわかりませんが 後のことは頼みましたよ」 副操縦士が初めて口を開いた。 それに呼応するように、機長の眉が動いた。 「緊急コード。7700」 続いて副操縦士が無線を開く。 「Mayday, Mayday…」 「OK。それじゃあ、何とかしてきますよ」 管制塔と連絡を取っている二人に そう言って、俺は機長室を後にした。 機長室を出るとCAが立っていた。 心配と不安が入り混じったような顔で 何か聞きたそうにしている。 「あの…」 「大丈夫。何とかするから」 俺は再び客室へと戻った。 パーカーたちは演説を終えていた。 乗客の何人かが まだスマホを弄って操作している。 おそらく録画した ビデオの編集か何かだろう。 パーカーたちの訴えは 不特定多数の端末に保存された。 後は俺の仕事だ。 「どうだった?」 パーカーが振り向きざまに聞いてきた。 「わんすらんでぃんぐ」 「着陸?大丈夫なのか?」 「どんうぉーりー。かんせーとには ぱわちゃーじだけこーるしてる」 「機長に妙な様子はなかったか?」 「いふほかのことこーるしたら かすたまーおーるじぇのさいどかったー いうたった」 「なるほど。 トニー、お前なかなか過激派だな」 「いえす。きゃぷてんふぇいす ぱーふぇくとぶるー。わら」 「それで?どこに着陸するんだ?」 「ふくおか」 「何で福岡なんだ?」 「はかためんたいうまかっちゃん。 あんしんあんぜんやすらぎほけん。 らーじすてーしょんでおーるいんふぉ すぷれっどにだ」 「OK。道具も舞台も整ったってことだな」 「がってんしょうちのすけ」 俺は歯を見せて笑った。 パーカーたちも笑った。 機体は静かに降下を始めていた。 まだ誰も、それに気が付かない。 俺はパーカーたちと話し続けた。 昔のこと。今のこと。 出鱈目なカタコトを、もっと出鱈目な嘘と 罪と共に重ね続けた。 俺は笑っていた。 仲間たちと共に笑っていた。 トニーとして笑っていた。 今思えば、俺が笑うのは 五年ぶりだったかもしれない。 それも笑える話だと思った。 やがて、機体が地面に触れた。 タイヤが滑走路を擦った。 一秒。二秒。客室ドアが爆ぜた。 白い閃光。耳をつんざく破裂音。 黒い装備の男たちが一斉に客室へなだれ込む。 パーカーたちは床に押し倒された。 拳銃が蹴り飛ばされる。 わずか数秒のことだった。 耳鳴りがする。目が眩む。 しかし俺は、通路に立ったまま その光景を見ていた。 俺は足元にある硬いものを 拾い上げて叫んだ。 「おい!こっちを見ろ!拳銃を持ってるぞ!」 裏切り者に死を。 叫びながらそう願った。 次の瞬間、俺は通路に倒れた。 舞台の幕がゆっくり下りるように 目が閉じた。 銃声を二発、聞いた気がする。 🍎アカリ🍎 X 𝐈𝐧𝐬𝐭𝐚𝐠𝐫𝐚𝐦 公式LINE ✉️arabi_akari_otoiawase@outlook.jp ご予約詳細は🈁 ※𝐈𝐧𝐬𝐭𝐚𝐠𝐫𝐚𝐦開設したので フォローお願いします✨ ※公式LINEが凍結してしまったので 再登録お願いします🙇♀️ブログ一覧
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仕事が終われば【者】(お題:飛行機と出張、信頼 私の愚行、口から出まかせ) 翌日。 俺は成田からバンコク行きの 飛行機に乗った。 顔に新聞紙を載せて寝ている 小太りの中年紳士。 赤子に哺乳瓶をしゃぶらせる若い母親。 おそらくその夫であろう 隣で文庫本を捲っている青年。 杖をついてよろけながら 荷物を取ろうとしている老人。 それを甲斐甲斐しく手伝うCA。 地上から四万フィート離れた上空に 老若男女の生が横溢している。 そのことを呪う亡者がいた。俺である。 「こんな鉄塊がこんな高いところを 飛ぶ道理がおかしい。 落ちるべきだ。落ちないかな。落ちてくれ」 死神はどのくらいの 気圧に耐えられるのだろう。 今のところ飛行機の窓から 死神を見たなんて話は聞いたことがないが。 もし死神が気流に乗って 浮いてるのだとしたら この高さだと時速二百キロくらいで 吹っ飛ばされちゃうよね。 フワフワ浮いてるどころじゃないっての。 あと、気温もさ。 あんな寒そうなボロ布一枚で -50℃前後を耐えられるのかって話。 地獄だな。 まあ地獄から出張して来てるんだろうけど。 じゃあ平気なのかな。 だったら早く迎えに来てくれよ。 その願いが通じたのか 機内に突然、死神が現れた。 「騒ぐな」通路の中央に立った男が 拳銃を掲げた。 続いて客席から二人、男が立ち上がった。 更に通路奥からCAが… 喉元に銃口を押し付けられながら ーら歩かされてきた。 通路中央、パーカー。 客席左、スカジャン。客席右、ライダース。 CAの背後、ネルシャツ。計4人。 それぞれがラフな しかし色は黒で統一された格好をしていた。 見た感じ、どうやら全員日本人だ。 各々が一丁づつ拳銃を携帯している。 「この飛行機はハイジャックされた」 パーカーは声を荒げるでもなく 妙に落ち着いた調子で宣言した。 逆にそれが得体の知れない恐怖を生んで 搭乗者たちを縛り付けた。 口角の位置を高く固定して 貼り付けたような笑顔を振り撒いていた CAたちの表情が凍りついている。 殊に、銃口を突きつけられているCAなどは 口をパクパクさせながら 引きつけを起こしたように震えている。 「俺たちはこの航空会社の不正を 世界に知らせる。 悪いがその広報に立ち会ってもらう」 乗客の誰かが小さく泣いた。 スカジャンが、その嗚咽の音に反応して 素早く銃口を向けた。 一瞬にして機内に緊張が走る。 耐えきれなくなった 人質のCAが膝から崩れ落ちた。 腰が抜けたのだろうか。 「おい、立て。立てないなら他のヤツを…」 「待ってくれ」 気が付くと俺は立ち上がって 声を上げていた。 「その人を放せ。俺が人質になる」 「動くな。それ以上、動くと撃つ」 俺はその言葉を意に介さず ネルシャツの元へ ゆっくりと歩を進めていった。 「チッ…クソ野郎が。 日本語わかんねえの…て、あれ?お前…」 パーカーは発砲しなかった。 それどころか 訝し気にこちらへ近づいてくる。 「お前、トニー!トニーじゃないか! 生きてたのか?」 他の連中も中央通路付近に集まってきた。 「ほんとにトニーじゃないか! 嘘だろ、奇跡だ」 意味が分からない。 分からないが とりあえずトニーというのは こいつらの仲間らしい。 ここで、これを利用して こいつらに取り入ることができれば 御の字だ。 俺は言った。「あいるびーばっく」 トニーという日系フィリピン人がいた。 空港会社の契約社員で やはりこいつらの同僚だったらしい。 そんで俺に瓜二つだという。 そういえば俺の親父は すしフィリピンパブが好きだった。 母親と出会う前から嵌っていた。 そしてやたら バタくさい顔をした俺が生まれた。 これはつまり…。やめよう。 家系図にも載っていない 暗部に深入りするのは エプシュタイン島の闇を覗くのと 同じくらい危険だ。 置いといて、トニーは真面目な男だった。 会社の言うことなら何でも聞いた。 そして死ぬほど働いた。 ある日、空港からの帰り道。 トニーが事故を起こした。 車で中央分離帯に突っ込んだのだ。 会社はこれを「私生活の事故」として処理。 だが同僚たちは知っていた。 その日のトニーが 36時間勤務だったことを。 「俺は死んだって聞いてたからよ。 このヤタケタだって、お前の弔い合戦 みたいなところが半分あったんだぜ」 「そうだよ。なんで生きてんだよ。 いや良かったけどさ。連絡ぐらいくれよ」 「もう手遅れじゃん、これ」 「いえす。あいあむじあんだーていか」 「なんだそれ。不死身ってことか?」 「そうそう」 もはやこうなったら トニーになり切るしかない。 トニーは日本語も英語も不自由で だが連中にはなぜか トニーの言うことが通じた。 ならばこれは俺の得意分野だ。 自慢じゃないが俺も英語は全くできない。 そして俺は適当に喋るのが得意だ。 いやそもそも、こんな死んだような人生を 抜け殻として生きるより トニーとか言うヤツの魂を この身にぶち込んで もうこの先、トニーとして生きる方が まだ生き甲斐があるんじゃないか? どうせ俺は五年前に死ぬべきだったんだ。 今更トニーでもスタークでも 何でもいいじゃないか。 でも待て。 そうすると俺は仕事ができない。 どころか犯罪者になってしまう。 そうだ こんなことをしている場合じゃない。 俺は仕事をしなければならない。 🍎アカリ🍎 X 𝐈𝐧𝐬𝐭𝐚𝐠𝐫𝐚𝐦 公式LINE ✉️arabi_akari_otoiawase@outlook.jp ご予約詳細は🈁 ※𝐈𝐧𝐬𝐭𝐚𝐠𝐫𝐚𝐦開設したので フォローお願いします✨ ※公式LINEが凍結してしまったので 再登録お願いします🙇♀️ブログ一覧
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