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仕事が終われば【闘】(お題:飛行機と出張、信頼 私の愚行、口から出まかせ) しかし、予測していない事態が起こった。 俺の担当していた海外取引の契約が 唐突に成立したのである。 そして、その最終契約には 責任者である俺の立ち合いが必須であった。 マジかよ。なしてこげなタイミングで? しかし、今の俺は転職したての 新人サラリーマンの身の上。 流石に入社早々 これを反故にすることはできない。 幸いにして契約には 一時間程度しかかからない。 新婚旅行に支障はない。 ただ、少し便をズラす必要がある。 早速、旅行会社に掛け合って駄々を捏ねた。 だが、流石に 二人分の席をズラすことは難しかった。 しょうがない。 妻には予定の便で行ってもらって 一足先に英国で 寛ぐなり観光するなりしてもらおう。 数時間後には俺も追い付けるはずだ。 「新婚旅行だろ?構わず行ってこいよ」 と軽口で囃す同僚もいたが 取れる仕事の責任を 放棄するわけにはいかない。 「すぐ終わるよ。夜には飛ぶ」 俺は妻にそう告げた。 「無理しなくていいよ?」 妻は少し残念そうな顔をしながらも 心配げに気遣ってくれた。 「大丈夫、明日の夜にはヒースローだ」 抱きしめたいが時間がない。 「ミニャック、夕焼けすごいらしいよ」 「それは見たいな。動画送っておいてくれ」 俺は靴紐を結び終えると 妻の唇に軽くキスをした。 「少し寂しい思いをさせるけど すぐに追いつくから。 先に英国を満喫しておいで」 妻の頭をポンポンしながら 恰好付け気味に前衛芸術的なポーズを 玄関先で決めると 彼女はいつものように破顔して 屈託のない笑顔を作った。 「いってらっしゃい。 じゃあ一足先に豪遊して待ってるからね。 早く迎えに来てね」 あいるびーばっく! 俺は勢いを付けて叫びながら 家を飛んで出た。 熱を帯びた照明が 一人ひとりに濃い影を作り 途切れることのない蝉の音響が 全力で夏を演出していた。 妻は朝の便でイギリスに発った。 そして 永遠にその土を踏むことはなかった。 凶報を聞いた時。通夜の時。葬儀の時。 俺は泣かなかった。泣けなかった。 涙が、流れてくれなかった。 これは芝居か? 俺はまだ舞台の上にいるのか? 全てが作り事のようで 何にもリアリティがなかった。 強いていえば、後悔していた。 何を?一緒に死ねなかったことを。 同じ便に乗っていれば、俺一人 こんな舞台に取り残されることはなかった。 今も尚、俺の瞼からは一滴の涙も流れない。 その瞳は、虚ろに光を失ったまま 通常運転している。 それからの俺は、死んだように生きている。 いや 生きているだけで、もはや死んでいるのか。 俺の時間は、ハムスターの回し車のように 同じ場所をぐるぐると空回りし続けて あの日から一刻も先に進んでいない。 ただ、会社の端末にログインし 数字を整え、取引先に頭を下げる。 その繰り返し。 妻の死後も変わらず出社する俺を見て ある同僚は精神科の受診を勧めてきた。 違う。 俺に必要なのは入院や薬物ではない。 俺は仕事が終われば すぐに行くと妻に約束した。 しかし妻は随分遠くまで行ってしまった。 「後追い」という近道をすれば 妻のところまで 早馬で駆けつけることもできるだろう。 断じて俺にそんな行為は許されない。 何故なら俺には 果たすべき贖罪があるからだ。 妻よりも仕事を優先し 結果、見殺しにした。 そんな男に 自ずから死を選ぶ権利などない。 俺は仕事を続けなければならない。 「仕事が終われば向かう」。 そう約束したのだから。 故に、死が向こうから迎えに来るまで 俺は仕事を続けなければならない。 上司はグリーフケアを勧めてきた。 違う。 同じように苦しんでいる人が 他にも大勢いるとか そういう問題じゃない。 俺個人の問題に 人数や他人のことなど、何の関係もない。 俺一人の罪に、他人の許しなど必要ない。 ある日、部長が俺を呼んだ。 「波佐間、タイに飛んでくれ。 通訳は向こうで手配する」 理由は、現地法人のトラブル対応。 俺は頷いた。 それ以外の機能が すでに失われているように。 きっと部長は 毎日社内で陰気を四方にばら撒いている俺を 少しでも遠ざけたいんだろう。 もしかしたら帰って来た時 俺の席は無くなっているかもしれないな。 そしたらまた別の仕事を探せばいいさ。 🍎アカリ🍎 X 𝐈𝐧𝐬𝐭𝐚𝐠𝐫𝐚𝐦 公式LINE ✉️arabi_akari_otoiawase@outlook.jp ご予約詳細は🈁 ※𝐈𝐧𝐬𝐭𝐚𝐠𝐫𝐚𝐦開設したので フォローお願いします✨ ※公式LINEが凍結してしまったので 再登録お願いします🙇♀️ブログ一覧
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仕事が終われば【臨】(お題:飛行機と出張、信頼 私の愚行、口から出まかせ) ――だから男は 今日も生きてしまっている。 五年前、妻が死んだ。旅行中の飛行機事故。 それ以来、俺の世界から色が消えた。 俺は昔、ある劇団に所属していた。 自慢じゃないが 当時の俺はめっちゃモテた。 俺はいわゆる看板役者だった。 ある日、新しい劇団員が入ってきた。 逢坂命(おうさかみこと)。 美貌の人であった。 古語で言うところの 超マブいスケであった。 入団初日から、何人もの朋友が彼女に挑み そして散っていった。 この一文に劇団の悪いところが 全て詰まっている。 それにしても逢坂はモテた。異常にモテた。 そのせいで、しばらく劇団員たちが 猿にしか見えなかった。 しかし逢坂は どの猿にも靡くことはなかった。 俺はというと 何のアクションも起さなかった。 その頃の俺は、芝居が恋人だったからだ。 何て言うと恰好が良いように聞こえるが 先に言ったように俺はモテた。 逢坂ほどではないが、激烈にモテていた。 それで最初のうちは何人かの女優と 付き合ってみたりしたんだが これが全然楽しくない。 リアリティがないというか 何もかもが恋愛という ルールの上の作り事って感じで 身が入らずクニャクニャになった。 そんなことで 俺の恋愛は長く続いた試しがない。 だが下半身の事情は別だ。 なんせ俺は空前絶後にモテた。 モテたもんだから 毎日のように女優からの 誘惑・お誘いがあった。 そのせいで俺は日々 俺の中の俺と戦い続けていた。 「ワンナイトくらい良いじゃないの」 「ダメだ。一回そんな味を覚えたら お前、絶対猿化するぞ」 「猿化して何が悪い。 サイヤ人だって猿になったら 戦闘力十倍なんだぞ」 「お前の場合は悪評が十倍になるってんだ」 「なんでだよ。女遊びも芸の肥やしって 昔のエロイ人 もといエライ人も言ってたじゃないか」 「お前は上方の落語家じゃないんだ。 お前がヤリチンになったらどうなる? 女たちからの評価はダダ下がり。 具体的には『二度と近寄るな不可触民』 くらいに蔑まれることになる」 「ええ、マジで?」 「マジだ。 劇団女のネットワークを甘く見るな。 そうなるとキャスティングもされなくなる。 この界隈での出世は絶望的だ。 お前は残りの俳優人生を 棒に振ってもいいのか?」 「俺が下の棒を振ると 人生の棒も振ることになるっていうのか」 「そうだ。人生はチンコだ。 三回振ったらもうアウトと思え」 「じゃあ俺は一体どうすればいいんだ? こんなにモテてるってのに このモテ期を みすみす棒に振れっていうのか?」 「棒を振ったら そのモテ期も一瞬でなくなって 不可触民にまで堕ちるっつってんだよ」 「モテ期は棒に振っていいのに なんで他の棒は振っちゃいけないんだよ」 「モテ期なんてものは 人生やチンコに比べりゃ ないのと同じだからだよ」 「ご無体な。 盛りの付いた健康優良児に対して あんまりな仕打ちじゃないか」 「待て。一回抜いてから考えてみろ。 お前には女より ずっと信頼できる相棒がそこにいるだろう」 「そんな。 右手とお友達になれっていうのか。 寄生獣じゃないんだぞ」 「右手を使いこなせばお前は夜の神になり その人生は月光の如く輝くだろう。 お前の右手はミギーじゃない。 いうなれば夜の神の月」 「キラじゃねぇかよ」 「俺よ、新世界の神になれ」 オレオレ戦役を制したのは 神の座を狙う俺だった。 俺は一発抜いて考えた。 そして決めた。 俺は新世界の神になる。 こんなところで終わってたまるか。 それからの俺は偉かった。 来る日も来る日も手淫に明け暮れた。 誘惑を感じたらば すぐにトイレに駆け込み、これを治めた。 俺は新世界の神になる。 俺の右手は神の右手だ。 ミッドナイト・ゴッド・ムーンだ。 そう自分に言い聞かせつつ 俺は悲しかった。 俺は俺が可哀想でならなかった。 俺はこんなにモテているのに そこいらの醜男以下の青春を送っている。 しかし仕方がない。 これは必要な犠牲なのだ。 耶蘇は十字架の重みを背負って神となった。 ならば我もまた 性なる十字架を背負ってそれに倣わん。 ザーメン。 まあしかし、劣情を抜きにしてみれば 舞台上の恋愛の方が よっぽど心動くものがあるのだ。 俺には、作り事の世界の方が 性にあっているのだ。 神となった暁には、この作り事の世界を 本物と挿げ替えてやろう。 令和の山中鹿之助とは俺のことよ。 嗚呼、我に七難八苦を与えたまえ。 我が他に誰がこんな苦行を 耐え忍ぶことができようか。 はは。誰もできやしない。 愚かな猿どもめ。 どうせあの逢坂命も 日々寄る波に呑まれて溺れるに違いない。 見た目だけで演出家に気に入られて 良い役もらったってなぁ 結局はその場限りのハッタリなんだよ。 容姿しか武器のない井の中の姫君たちは 皆そうして諦めて田舎に帰っていくのさ。 又は更に枕に磨きをかけるかだ。 どっちにしろ、本質的な出世とは程遠い。 雄猿も雌猿も大した差はないわね。 ホホホ。 🍎アカリ🍎 X 𝐈𝐧𝐬𝐭𝐚𝐠𝐫𝐚𝐦 公式LINE ✉️arabi_akari_otoiawase@outlook.jp ご予約詳細は🈁 ※𝐈𝐧𝐬𝐭𝐚𝐠𝐫𝐚𝐦開設したので フォローお願いします✨ ※公式LINEが凍結してしまったので 再登録お願いします🙇♀️ブログ一覧
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