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走れ、二八番(お題:ランナーズハイ)【吽】そして次の日。午後3時。 浅野谷は仕事用のスーツを着て 小都会のコンビニ前にいた。 相手は余程の金持ちということで きっと高級ブランドショップの 近くかなんかで落ち合うのだろうと 高を括っていたのだが、さにあらず。 しかし、何故にこんな 陳腐な場所を指定してきたのか。 「上級国民の方々は 市井で目立つのを嫌います。 だから市井に溶け込んで 普段ご自分たちが絶対にお召にならない 一般国民の生活物資を大いに買い漁って その感慨を味わってみたい。 なんて物好きな方も多いんです」 ははあ、なるほど。 ではその金持ちは、このコンビニごと 買い占めるつもりかしらん。 その場合 俺は何を手伝ったらいいのだろうか。 商品説明?荷物持ち? …そんな思弁に耽っていると 向こうから、上下ユニクロのような ラフな格好をした男が 駆け足でこっちに向かってきた。 男は受口と名乗った。 何でも市井に溶け込むために こんな安っぽい恰好をしているのだと言う。 なるほど異常な金持ちともなると こんな買い物一つするにしても 一々何かと大変な手順を 踏まなければならないのか。 ひょっとしたらこの人たちの魂は 俺たちのそれより 不自由なのではなかろうか。 刹那的異文化コミュニケーションの中 浅野谷は受口に対して ちょっとした同情を勝手に覚えた。 「じゃあ俺は店内の商品を ちょっと物色してるから このカードでそこのATMから 残高全額引き出しておいてくれ。 なに、ちょうど 要らなくなった口座なんでね。 結構お金が嵩張るかもしれないから 紙袋かなんかに入れて纏めたら 俺に渡しに来てくれ」 「ええ? ホントに全額出しちゃっていいんですか?」 「ああ全額だ。早くしてくれ。 こっちも時間が惜しいんでね」 そういうと受口は店の死角に消えていった。 仕方がないので、浅野谷は言われた通りに キャッシュカードをATMに突っ込んだ。 「このカードはお取り扱いできません」。 冷たく突き放すように そんな一文が表示された。 どういうことだ? 受口がカードを間違えたんだろうか。 とりあえず受口を探そう。いない。 外は?いない。 あれ?どゆこと? おーい、受口さーん。 それからしばらく探しても 受口は見つからなかった。 急用でもできたのか? それにしたってカードを置いていくなんて いくら上級国民とはいえ 迂闊過ぎやしないか? というかこれ、金はどうなるんだ?金は? そう思って心配になった浅野谷は 急ぎ焦って架田に電話した。 「はいはい」 「あ、架田さんですか? 受口さんがいなくなっちゃったんですけど」 「ああ、それね。 カードが使えなくなったのは 被害者が勘付いて通報したからだよ」 「へ?」 「だから被害届だされるまでの スピード勝負なんだよ。 受口は、成功した時に、あんたが金を 持ち逃げしないように見張ってた。 だからカードが使用できませんって 表示を確認した時点でとっくに撤退してる。 今、警察がATMからの情報で そっちに向かってるから あんたは… とりあえず頑張って逃げてみたら?」 浅野谷の頭の中で 架田の言葉がグルグル回っていた。 え?なにこれ?どういうこと? 一個も意味わかんなかったんですけど。 「え~と とりあえず逃げればいいんですか?」 「うん。まあマスクもしないで ATMのカメラにばっちし映ってるから ぶっちゃけ無駄なんだけどね。 あ、知ってる? ATMのカメラって 赤外線で全部透けて見えるんだぜ。 だから普通のマスクじゃ 付けても付けなくても一緒。酷い話だよな。 乳首まで透けて見えるんだぜ? 人権侵害もいいとこだよ」 「ええと、じゃあ逃げなくていいんですか?」 「どっちでもいいよ。 大体こういうの引き受ける奴って 馬鹿な大学生とか シャブ中が相場なんだけどね。 あんたみたいに 正業やってる人間は珍しいよ。 こっちは捨て駒で使うだけだから 別に誰でもいいんだけど」 「そうですか。 それにしても架田さんは なんで用済みの僕と こんなにお喋りしてるんですか?」 「そりゃ案件が潰れて暇になったからだよ。 あんたも暇なら逃げたら? そんでどっかで顔変えれば もしかしたらもしかするかもよ」 「そうでしょうか」 「そうだよ。走れフォレストガンプ」 最期まで飄々とした調子で話していた架田は そういって電話を切った。 気が付くと浅野谷は走っていた。 何処へ向かってかはわからない。 何かから逃げるために走っていた。 一寸先すら見えない 不条理の霧の中を走っていた。 理不尽が透明な壁となって 行く先に等間隔に立ち塞がっていた。 浅野谷は走り続けた。 走りながら透明な壁を ぶつかりながら叩き割っていった。 壁を一つ割る度に破片が体に刺さって 刺さったところから 血の代わりに、思考そのものが 流れ出ていくような感じがした。 それは得も言えぬ恍惚感を生んだ。 壁を割る度に、浅野谷の頭の中は どんどん白くなっていった。 浅野谷は走り続けた。 壁を割り続け、体中が破片だらけになった。 頭の中も真っ白になった。 やがて肉が見えない程に 破片が体を埋め尽くした。 すると、白一色の頭の中が突然 絶頂に達したかの如く スパークして弾けた。 と同時に、身体全体の筋肉が膨張し 突き刺さっていた破片を跳ね返し 辺り一帯へ四散させた。 破片は道行く通行人たちに突き刺さって 人々はあまりの痛みにその場に倒れ伏し 転げ回り、のた打ち回った。 対して浅野谷の方は 破片によって空いた穴から 一斉に空気のようなものが 抜け出し始めていた。 その噴射により 浅野谷は遥か天空の青へ 吸い込まれるようにして消えた。 雲を突き破って高みに到達した浅野谷は こんだ地平と平行になり 零式艦上戦闘機のように 空を切り裂きながら大気圏を疾駆した。 太平洋を渡り、アメリカ大陸を 横断しつつあった浅野谷はしかし ドミニカ共和国辺りでガス欠となり 中身を失った体は皮だけのフニャフニャ。 シチューの素を入れ忘れたシチューのような グダグダな存在となってしばらく滑空を続け バミューダトライアングルに 差し掛かったところで謎の渦に巻き込まれ そのまま虚数空間の彼方に消えた。 浅野谷の行方は誰も知らない。 目が覚めて、飛び起きた。 全身が汗でびっしょりだ。 嗚呼、なんだ夢か。 それにしてもなんたる夢か。 縁起でもない。 「28番、何起きてんの。早く寝て」 柵の向こうから 感情の籠らない不愛想な声が飛んできた。 「あ、はい。すみません」 浅野谷は再び 煎餅布団に包まって身を小さくした。 ベトついた汗が不愉快に体を冷やしていく。 浅野谷はその冷たさに身を委ねて静止した。 夜も眩しく雑居房を照らす蛍光灯の光が いつまでも瞼の裏から去ってくれなかった。 🍎アカリ🍎 X 𝐈𝐧𝐬𝐭𝐚𝐠𝐫𝐚𝐦 公式LINE ✉️arabi_akari_otoiawase@outlook.jp ご予約詳細は🈁 ※𝐈𝐧𝐬𝐭𝐚𝐠𝐫𝐚𝐦開設したので フォローお願いします✨ ※公式LINEが凍結してしまったので 再登録お願いします🙇♀️ブログ一覧
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二八の男(お題:蕎麦と饂飩)【離】忘我のうちに 私はしばらく人込みを彷徨い歩いていた。 頭に蕎麦が乗った男を見た現地の人々は 戸惑い、皆これを遠巻きに倦厭したが 私はもはや明鏡止水の境地にあった。 泰然自若として憚らなかった。 何故なら一時的に心が死んでいたからだ。 仮死状態にあっては 羞恥も面目も意味をなさないものなのだな。 私はある種の 良くない悟りを開いた気分だった。 しかし、意識が息を吹き返しては 動揺して頓死してしまうかもしれない。 危うく思った私は、途中にあった手洗いで 体に纏わりつく胡乱なものを 急ぎ洗い落とした。 すると何ともいえない寂寥感が襲ってきた。 人込みの中にいて まるで一人荒野を歩いているようだった。 女に出て行かれ ヤタケタで信州くんだりまで来て 蕎麦屋に入って、尚も私は孤独だった。 何一つ満たされなかった。 私は十割の男になるためにここへ来た。 ところがどうだろう 今の私は二分五厘くらいに 小さくなっている気がする。 これなら東京で二八蕎麦男だった方が まだマシだった。 帰ろう。我が家へ。 白塵の支配する1LDKへ。 嗚呼、やだなぁ。めんどくさいなぁ。 ハウスクリーニング頼もうかなぁ。 いやでもタクシー代がなぁ。 纏まらない思考で駅へ向かっていると 黒塗りの看板が光って見えた。 「きよみず」という金文字が その中に細く舞っている。 さっきの店とは真逆の風貌。 その佇まいに、静かな誇りを感じた私は 此処を最期と立ち寄ってみることにした。 「きよみず」という店名からして 自分にはお誂え向きだ。 ちょうど今、そんなところから 飛び降りたい気分なのだから。 相変わらずヤタケタな気分には 変わりなかったがしかし、意に反して 店内は趣深い内装で居心地がよかった。 店自体が温度を持っているような 暖かで静かな木の香りのする店。 広さは先程の店より少し広く 四人掛けのテーブルが六つに カウンター席が八つ。 お客は既に十人以上入っている。 中々繁盛してるじゃないか。 手入れの行き届いた 木製のテーブルに腰を掛けると 「いらっしゃいませ」 凛と澄み切った良く通る声で 女店員が一人駆け寄ってきた。 また女か!と身構えたのも束の間 私は一瞬にして意を翻した。 その女のあまりの美貌に 目を奪われたからである。 派手なタイプではないが 朝ドラ女優のような正統派の美人であった。 艶のある黒髪を肩口あたりで整えている様が 健康的な快活さを伺わせる。 さっきの店の女と同じ人種とは思えない。 向こうが出っ歯の義経なら こちらは牛若丸だ。 そういえば牛若丸の本当のモデルは 頼朝だと聞いたことがある。 なるほど九郎判官と鎌倉殿では 勝負は決している。 ならば今度こそ 本物の蕎麦が食えるのではないか。 と、思ったがメニューに蕎麦がない。 なんということか。 外観からはわからなかったが 此処は饂飩屋であった。 しかし、考えようによっては これは僥倖ではないか。 今思えば私は、女に報復されたことに 端を発して蕎麦に拘泥し いつの間にか意趣返しの念に囚われ 蕎麦の世界に 閉じ込められていたんじゃないか。 その結果、蕎麦に嬲られ、嘲られ ボロボロになってこの饂飩屋に辿り着いた。 これはお導きだ。神の声が聞こえる。 「男ならば、太く短く生きよ」と。 細く長く生きるなど、男の道ではないのだ。 私の誠は、饂飩の先にしかないのだ。 嗚呼、やっと道の開ける時がきた。 否が応にも高鳴る期待に呼応するかの如く 鎌倉殿の饗応は心地良いものであった。 ただの水でさえ 鎌倉殿が運んでくるとそれは アムリタの聖水の如き甘露に感じられた。 そしてついに饂飩がきた。 誂えたのはおろし饂飩である。 何故またおろし饂飩なのか。 これには密かな打算・腹案があった。 考えてみれば、あのような因業な店でさえ おろし蕎麦の味は確かだったのである。 いわんやこの店のおろし饂飩の味たるや 蕎麦と饂飩の垣根など遥かに超えて 耶蘇や釈迦でも口にしたことのない 神懸りな絶品に違いない。 私は内心で勝利を確信しながら 割り箸を丁寧に割り この先の有望なる前途を祝して 丁寧に饂飩と薬味と大根おろしを つゆの中で混ぜ合わせ そしてゆっくりとした所作でこれを啜った。 地獄のような味がした。 絶望を雑巾絞りしたようなつゆは 独特の臭味をもってどこまでもしつこく 麺は太すぎてもはや マカロニのようなというか 祟り神のニョロニョロみたいというか 果たしてこれ食物として機能しているのか 脳髄が錯乱状態にある上に 蜘蛛の糸に群がる亡者の苦しみを 煮詰めたような薬味と 神が山中鹿介に与えるはずだった七難八苦を 山盛りに削ったような大根おろしは もはやこれのどこに原材料の味が 残っているのかわけがわからない。 全体的に、これならシュールストレミングと ブルーチーズの佃煮の方が 全然イケるんじゃないかという有様で 私は昏倒して意識を涅槃に飛ばさないよう 丹田に力を籠め、尻の穴を絞めて 脂汗を流しながらこの食事という名目の 責め苦に耐えていた。 「お勘定!」 私は堪え切れず悲嘆して 千円札を机に叩きつけ 疾風の如く店の外へ遁走した。 何故そんなことをしたのか? 涙だ。 あまりの苦渋に涙が溢れ 止められなかったのだ。 しかし、男の涙を 容易く余人に見せては人生の行き止まり。 結果、私は食半ばにして 己が感情に行動を支配され 戦を投げ出してしまった。 負けた。私は負けた。 きっとあの女 黄泉の国であれを拵えたに違いない。 何のために? 私の味覚を破壊するためにだ。 思えば義仲を討った義経は 頼朝の命によってこれを行ったのだ。 私はとんだ思い違いをしていた。 私が木曽義仲であるならば 鎌倉殿が味方のわけがないじゃないか。 結果、私は敗北した。 やはり史実は変えられないのか。 木曽義仲は源氏に滅ぼされる運命から 逃れられないのか。 そして私は同じようなことを 前にも言っていたような気がする。 脳髄が痺れてもうそれもよくわからない。 わからない。 私にはもう何が誠で 何が嘘なのかわからない。 体を引きづるようにして東京に戻った私は 自宅近くで二八蕎麦を食べた。 なんだかとてもホッとした。 人生、本音二割で生きていこうと そう思った。 🍎アカリ🍎 X 𝐈𝐧𝐬𝐭𝐚𝐠𝐫𝐚𝐦 公式LINE ✉️arabi_akari_otoiawase@outlook.jp ご予約詳細は🈁 ※𝐈𝐧𝐬𝐭𝐚𝐠𝐫𝐚𝐦開設したので フォローお願いします✨ ※公式LINEが凍結してしまったので 再登録お願いします🙇♀️ブログ一覧
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