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Blog@arabianちょいと養生、戻りんすまで待ってておくんなまし拝啓 春の陽気、花々も咲き誇りし折、 皆々様には一層のご繁栄を 心よりお慶び申し上げます。 日頃より、格別のお引き立てを賜り、 深く感謝の念を抱いております。 さて、このたびは何のお知らせもなく しばし店を離れ、 またご報告が遅れましたこと、 心よりお詫び申し上げます。 皆々様にはご心配を おかけいたしましたこと、 誠に申し訳なく存じます。 実は、季節の変わり目にて 身も心も疲れが出て、 しばし静養を要することとなりました。 急ぎ実家へと戻り、 療養に専念しておりました 次第でございます。 長らくの不調に悩まされておりましたが、 家族の支えを受けつつ、 少しずつではございますが、 元気を取り戻してまいりました。 しかしながら、 皆々様にはご心配を おかけしてしまいましたこと、 改めてお詫び申し上げます。 なお、 店を辞したわけではございませぬので、 どうぞご安心くださいませ。 回復いたしました折には、 また変わらぬご愛顧を賜りますよう、 伏してお願い申し上げます。 末筆ながら、 皆々様のご健勝とご多幸を 心よりお祈り申し上げます。 敬具ブログ一覧
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Blog@arabian丼腹が鳴る。情けない音だ。 地の底から響くような、 飢えに耐えかねた獣の遠吠えにも似た音。 私はそれを聞きながら、 己の愚かさを噛み締める。 何時間ぶりの食事だったろうか。 いや、サプリメントは摂っていたのだ。 ビタミンC、プロテイン、オメガ3。 細胞を維持するだけの成分は、 錠剤となって喉を滑り落ちていった。 だが、それは食事ではなかった。 味も香りもない、 ただの計算された栄養の塊。 私の身体は、長らく「食」を 知らなかったようにすら思えてくる。 だが今、目の前に牛丼がある。 茶色の丼に白米がぎっしりと詰まり、 その上には甘じょっぱいタレを吸った 牛肉が絡まっている。 私は唾を飲み込む。 何故か、塹壕に横たわる 己の姿が脳裏をよぎる。 餓えに喘ぎながら、 銃を握る手すら震えている。 我ながら大仰な妄想だが、 しかし、私の身体が、 それほどまでに 疲弊しきっていたのは確かだった。 箸を取り、米を掬う。 牛肉を乗せる。 そして、口へ運ぶ。 瞬間、塹壕に打ち捨てられた我が身に、 みるみる力が漲っていくのを感じた。 ヘモグロビンが一気呵成に鬨の声を上げ、 管という管、 筋の道を余すことなく駆け巡り、 ドーパミンが景色の糸を切ったかのように 噴出した。 私が目指していたのは、何だったのだろう。 身体と重力の力比べに執着し、 要らぬ引っ張られ方をされぬように 軽やかなるを目指した。 羽衣になりたかった。 Xで見かけた ダイエットツイッタラーの言葉に踊らされ、 米を絶ち、サプリメントに頼り、 いつしかそれは主食となり、 豊かな食事は犠牲として十字架にかけられ、 ついに栄養の加護を司る守護者は 誰もいなくなった。 日に日に大地に削られてゆく体力。 リングの上でもないのに揺れる三半規管、 ふらつく足元。 曖昧になる日常。記憶。 自己の存在の証明。 色即是空、空即是色。 我は空なり。と、頭の中で反芻される念仏。 だが、それがどうした。 私は今、牛丼を食べている。 遠くから、誰かが私に語り掛けている。 その声は段々と近くなってくる。 これは、菊千代だ。 七人の侍の、三船敏郎の顔をした、 百姓出の荒くれ侍だ。 「やいアカリ。 お前はダイエットを説く奴らを 何だと思ってたんだ。 仏様とでも思ってたか。 米は?って言やダメ。 麦は?って言やダメ。 稗は?って言やダメ。 何もかもダメってんだ。」 そこまでダメとは 言われてなかった気がするが、 随分と時代がかった調子なので 黙っておこう。 「正直面して適当な講釈垂れて嘘をつく。 どっかに特集でもありゃ、 すぐダイエット本作って小太り狩りだ。 インフルエンサーってのはなあ、 ケチんぼで、狡くて、意地悪で、人殺しだ! ちくしょう!おかしくって涙が出らあ!」 人殺しというのも言い過ぎだと思ったが、 死ぬことがなくもないので黙っておこう。 「あの抜け策どもが普段、 何食ってると思う?良いもん食ってんだ。 何でも食うんだ。 床板ひっぺがして掘ってみな。 そこになかったら納屋の隅だ。 出てくる出てくる。 瓶に入った酒、から揚げ、 クレープ、二郎系! 山と山の間へ行ってみろ、 そこにゃハンバーガーだ!」 ハンバーガーなんて、 もう一年以上も口にしてないぞ。 なんたる卑劣だ。 私は牛丼をかき込んだ。 米を、肉を、タレを。 そのたびに、思考が冴えていく。 目の前の菊千代が悔しげに揺れる。 丼が空になったとき、彼の姿は消えていた。 牛丼とは、かくも尊きものであったか。 私はため息をついて、 菊千代の顔を思い返してみる。 4Kリマスターされた黒澤映画のように、 鮮明な幻影だった。少し惜しい気がする。 丼は、空になって尚、 泰然自若として屹立している。 もう一杯、頼むべきだろうか。 それとも、久しぶりに ハンバーガーでも食べに行こうか。 🍎アカリ🍎 ꫛꫀꪝ✧‧˚X 公式LINE ✉️arabi_akari_otoiawase@outlook.jp ご予約詳細は🈁ブログ一覧
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