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Blog@Kinpeibai
「愛は茶色く古びて」〜幸福の匂い〜⑧――幸福は、失くす前から 少しだけ寂しい クロ子の家からベスを引き取って 二週間が経った。 ケージを買い、クレートを買い 額を畳みに擦り付けて大家に許しを請い 後頭部を踏まれながら 敷金礼金を一年分要求された私は アコムに返すためにプロミスし プロミスするためにレイクした。 空飛ぶ楽天カードマンが 目からオプティックブラストを放ちながら どこまでも追いかけてきた。 気が付くと私は多重債務者として 希望の船なる豪華客船にぶち込まれ 変なカードでジャンケンする 悪徳企業主催の下品なパーティーに 参加させられていた。 結果、何故か借金が倍々になった上に ビルの五十階層に据え付けられた 鉄骨の上を渡らされ 後ろを歩いていた眼鏡のおっさんに 背中を押された私は 滑って転んで闇がひっそりかん。 『おおアカリよ 死んでしまうとは情けない…』 神父にそう声をかけられたところで 目が覚めた。 ケージの中からベスが 仲間になりたそうにこちらを見ている。 どうやら私はまた ベスの瞳に吸い込まれるまま その蠱惑的な顔貌の奴隷となり 床で寝てしまったらしい。 奴隷の朝は早い。 時計を見ると六時半である。 早速ベスの朝食に取り掛かる。 好き嫌いの激しいベスのために 三種の犬ご飯をブレンドした スペシャルディッシュ。 これを召し上がるようになってから ベスの顔色はみるみるよくなり ステップも鮮やかになり 目を離すと タップダンスの踵を鳴らすように 軽やかにうんちを踏みまくった。 ベスはうんちが汚いものだと まだ理解していないのだ。 そこで私はベスに説いた。 「ベス。 私たちは生命を維持するために 清潔でおいしい食べ物を体内に取り込むの。 この段階では 食べ物は自分の身体を作り出す ポジティブな自己の構成要素。 食事ってのは純粋な自己とも言えるわ。 でもね、そのアンチテーゼとして 毒素として追放しなきゃならない 不純な自己が発生する。 それがうんちなの。 消化・吸収を経て 栄養を抜き取られた残渣は 体内にとどまると病気リスクを生み出す。 生を保つためには かつて自己の一部だったものを 忌むべき異物・他者として外部へ切り離し 嫌悪の対象=汚物として 否定しなければならない。 悲しいけれど 生きるために私たちはうんちに 悪役を買って出てもらうしかないのよ。 うんちだって、その役割を以て 次の生を生み出す循環プロセスの 結節点にしてもらいたいはずよ。 うんちってのはね、汚さと尊さが同居する 善悪二元論では語れない 二律背反な存在なの。 ゾロアスター教の スプンタ・マンユとアンラ・マンユが アフラ・マズダの許可を得て フュージョンしたみたいな… ハマスとイスラエルが 魔人ブウに取り込まれて 海原雄山に弟子入りするみたいな そんなどうしようもないカオスなのよ。 そんなものを踏み続けて御覧なさい? 足の裏がギンヌンガガプにくっついちゃうわよ?」 ベスはゆっくりと首を傾げると うんちを踏んだままの前足で ケージを叩いてかまちょしてきた。 私の頬に踏みたての うんちの飛沫が飛び散った。 鏡を見て、ちょっと ウォーペイントっぽくてありかな? このまま出かけちゃおうかしら? などという思考が過った私の脳裏に 『ゲダツノキュウサイモカナワヌ コノハザマノヨコソジゴクナリ』 という一文が浮かんだ。 あの日見たクロ子の変わり果てた顔。 その根源たる意味が 今ではよくわかる気がする。 しかし私は諦めなかった。 犬の調教師さんに カウンセリングに来てもらったところ クレートトレーニングが良いとのこと。 何でも今のベスにはケージが広すぎる。 自由過ぎる。 故に何でもありな状態で 誤った選択をしてしまう。 クレートという密室空間であれば 選択は自ずと限られるので 犬が迷わず最善手を選びやすいのだとか。 思えば我々霊長類もそうである。 強制収容施設にぶち込まれでもすれば 毎日無心に働くが 娑婆に出た途端に全てのやる気を放擲して パジャマから着替えもせず ポテチを頬張りネトフリ三昧。 そのうち昔の悪行がバレて収容され 何だかんだ持ち前の事なかれ主義により 模範囚として務めを終え、看守さんに 「もう戻ってくるなよ?」 と言われて二週間くらいは 社会復帰に躍起になるが 結局、坂口安吾の堕落論に感化され カレーライスを百人前頼んで パキスタン人を困らせては また昔々の悪行がバレて収容。 いつからか看守さんの口から 「もう戻ってくるなよ?」 の代わりに 溜息が送り出されるようになっていた。 ある日、生活保護を受けながら 有名YouTuberを目指して 暴いてはいけない刑務所の実態を 勝手に配信していたら 丸暴が乗り込んできて逮捕監禁。 よくわからない理由で 無期懲役を言い渡された私は その日から一日も欠かさず モタ工でお弁当に シールを貼ったり剥がしたり 休みなく働いています。 そんな私も今では立派にお婆ちゃん。 「今、何時だい? そうかい、潮時かい。 人間ってのは 潮が引くときに逝くもんなんだなぁ」 私はそう言って 静かに独居房で目を閉じた。 『おおアカリよ 死んでしまうとは情けない…』 私は自由になり過ぎた思弁を クレートに閉じ込めて 思考を前に進めることにした。 とはいえクレートトレーニングに 問題はある。私の生活習慣である。 クレートトレーニングは クレートにベスを入れ 毛布などで光など外界の刺激を遮って とにかく落ち着ける空間を作る。 しかしクレート内に 給水所もトイレも当然ないので 一時間半~二時間毎にクレートから出して トイレに連れて行き排泄を促し その後、水を少量与えて水分補給を 欠かさず行わなくてはならない。 加えてそれが終わったなら10~15分 お外で遊ばせて運動させてあげる。 これに加えてお散歩もある。 …無理じゃない? そんなの出来るのって ニートか上級国民くらいじゃない? 私はこの世の時間軸を恨んだ。 こんなことなら甲賀の里に行った時に 分身の術の修行を 真面目にしておくんだった。 太秦映画村しか行ったことないけど。 でもきっと分身したところで 分身した私は私がオリジナルだとか言って 襲い掛かってくるに違いない。 だとして、その場合 私は私のことなど 手に取るようにわかるので 猪突してきた私の動きを 私はいとも容易く見切り そのまま八階の窓の外から 巴なげしてしまい 分身した私はコンクリートに 卍のような恰好で打ち付けられ頓死。 マスコミは分身殺人として これをセンセーショナルに取り扱い 裁判での判決は、例え分身であっても 殺人は殺人であるという極論に至り 話題性の犠牲となった私は 仮釈も執行猶予もなしで刑務所に収容。 何だかんだ持ち前の事なかれ主義により 模範囚として務めを終えた私は カレーを百人前頼んでパキスタン人に 「もう注文してくんなよ?」 と言われ(以下略)。 🏮 燈 🏮 X 𝐈𝐧𝐬𝐭𝐚𝐠𝐫𝐚𝐦 公式LINE ✉️kinpenakari.otoiawase@gmail.com ご予約詳細は🈁ブログ一覧
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「愛は茶色く古びて」〜クロ子の曇天とアカリの青天〜⑥――助けてと言えるまで 人は無駄に立派でいなければならない 呂布&ベスを クロ子がお迎えして三週間が経った。 けたたましくスマホが鳴る。 クロ子からのLINEだ。 そこには一文でこうあった。 『ゲダツノキュウサイモカナワヌ コノハザマノヨコソジゴクナリ』 アカリは家を飛び出して クロ子宅に急いだ。 クロ子が、ござりかけている。 「あれ?アカリちゃんにも怪文書?」 エントランスに差し掛かると ちょうどインターフォン越しに クロ子との応答を終えたシロ子が ロックを解除してもらっている ところだった。 私はそれに追従して クロ子のペットマンションに侵入。 「うん、なんか黄泉路を彷徨う 亡者みたいな文言が…」 「私にはね~。ほらこれ」 シロ子がクロ子との トークルームを私の眼前に翳す。 そこには一文でこうあった。 『ハタラケドハタラケド チャイロイセンソウ』 「これかなりヤバい感じだよね~? クロ子ちゃんキャラ変っちゃってるし」 「啄木と中也なんて クロ子が一番嫌いそうな男の類なのにね」 クロ子の部屋の前に着く。 チャイムを鳴らすと、クロ子が出てきた。 その充血した目からは かつての溌溂とした光が消え失せ 視線は、終わらない闘争を 地平線の彼方まで 見やっているかのように虚ろだった。 血色の良かった頬はこけ Tシャツに短パンという ラフな出で立ちでありながら その足取りは戦国武将が本陣で お飾りに纏う鎧を着こんでいる かのように重そうであった。 「クロ子、一体何が…」 「嗚呼、よく来たね二人とも。 まあ入りなよ…」 クロ子の怪しい足取りに導かれる儘 居間に通される。 すると、久方ぶりに見る 呂布&ベスの姿がケージの中にあった。 異邦人の来訪に テンションが青天井の二人は 発狂したかのごとくケージを叩いて 出せ出せと吠えたてる。 まるで一斉検挙されて 中野警察署の雑居房にぶち込まれた 怒れる黒人たちのようだった。 「クロ子ちゃん~。凄いね。 とってもキレイで お利巧さんにしてるじゃん、二人とも」 「…素人にはそう見えるか…」 クロ子が沈んだ声で呟く。 二度と 浮かび上がってくることのないような 疲れ切った声だった。 「ねぇクロ子。育児、大変なの?」 私の問いに、クロ子は大きく嘆息した。 そして何か妙なことを吟じ始めた。 「幾時代かがありまして 茶色い戦争ありました。 幾時代かがありまして 今夜此処での一うんち。 今夜あちらで一うんち。 ゆあーん。ゆよーん。ゆやゆよん」 「クロ子ちゃん!正気に戻って!」 バゴッ! …シロ子が 完全にあっちの世界に 行ってしまいかけているクロ子に ビンタ(ほぼグー)を放って 今生に繋ぎ止めた。 「お!流石はパワハラ音響! 昔を思い出すねぇ」 私はシロ子の衒いの無い一撃に TPOを置き去りにして しばし音響時代を懐かしんだ。 クロ子はというと どうやら正気に返ったようだ。 「あー。ちょっと気付けになったよ ありがとシロ子」 「念の為、もう一発いっとく?」 「シロ子、あんたそれ 単に人を殴りたいだけでしょ」 「殴って何が悪い!」 「これだから音響界隈はよぉ」 私は音響界隈の止まらぬガラパゴス化に 見切りを付けて、再度クロ子に問うた。 「で、クロ子。 一体どういう状況なのか教えてよ。 じゃないと一生ハザマノヨだよ」 「んー。まあ舐めてたよね こいつら二人の面倒見るの。 直置きのトイレトレーにしたら 呂布が噛みちぎって トイレシートごと食べちゃうし。 ベスもそれに乗じて ズタズタにしちゃうし。 それでスノコ型にしたんだけど 下におしっこやうんちが 溜まってっちゃうのは仕方ないとして おしっこは、出したか出してないか スノコじゃよくわかんないから 基本放置するしかない。 でもこいつら スノコの上が居心地いいのか ずっとスノコの上で ゴロゴロしてんだよね。 プラスしてスノコの裏側に付いたうんちが 長い毛にくっついちゃったりさ。 一日何回かスノコの清掃するんだけど これがまた一苦労。 溜まって裏にこびりついたうんちとか まー取れないのよ。 ドメストとか犬の身体に 悪いものは使えないから、 洗浄力の低い洗剤で コツコツ洗うしかない。 そしたらさ、その間 トイレ使えないでしょ? しちゃうんだよね。その間に。 うんちとかおしっこを居間で。 しかもどっちが犯人かわからない。 実にすました顔してやがんのよ二人とも。 で、漏れなく手足に うんち付けちゃってるから 抱っこしてウェットティッシュとか 犬用洗剤でできるだけ拭いて お尻の穴もふきふきするわけ。 そしたらさ、もう一人が 構って欲しくてまたしちゃうのよ。 かまちょうんち。 もうエンドレスシットよ。 それでしょうがないから 待ってる方の一人はもう うんちやおしっこ足に付けてるの上等で スノコ部屋に隔離して 一人一人拭いてきれいにしてるんだけど」 「へ~。あのクロ子ちゃんが ちゃんとママやってるなんて意外だなぁ」 「私は音響界隈じゃないからな」 「いやクロ子、別に音響界隈全体が ネグレクトの巣窟ってわけじゃないよ? 単にシロ子の手癖が悪いだけで…」 「でもさ~。 それなら特に問題ないんじゃないの?」 シロ子が他人事のように 楽観的に言うのを見て クロ子の目付きが変った。 それは、ベトナム戦争で ベトコンに親友を何人も屠られ PTSDになったどこぞの ヘロイン中毒のアメリカ兵のようだった。 「…まあ聞きなよ。 それから、あまりにスノコが不衛生だから 何とか躾できないかなって ネットとかで調べたら 声出して怒るのも、体を拘束して諭すのも NGって言うのよ。 悪いことをしたらひたすら 淡々と処理して無視をしろって。 唯一していいとされてることと言えば 悪いことをしたら小さなクレートに 1~2分隔離することくらい。 しょうがないから それを何十回も繰り返して ようやく呂布が トイレシートを噛まなくなって 直置きのトイレトレーに 変えるところまでは成功したんだけど… つっても、まだちょこちょこ破くけどね」 🏮 燈 🏮 X 𝐈𝐧𝐬𝐭𝐚𝐠𝐫𝐚𝐦 公式LINE ✉️kinpenakari.otoiawase@gmail.com ご予約詳細は🈁ブログ一覧
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