-
次の記事
-
Blog@Kinpeibai
本が売れているようで編集者から珍しく電話がかかってきた。 2月に出した短編集が ありがたいことに 地上波の『殿様の昼飯』的な番組で 何度か取り上げてもらっていたので またその類の吉報であろうか? 番組名からして ばらずし・お吸い物・茶わん蒸しなどに並んで 私の本がグズグズに煮込まれ ほどよい糊のようになって 供せられるということだろうか? 最初に番組で紹介されると聞いた時は、 そんなことを思っていた。 その場合、もしハードカバーの ポリプロピレンが溶けきれずに残り 殿様の喉に詰まり、あわやご逝去 などの事態に到ったならば 私は一体どうなってしまうのだろうか? その殿様が古ローマの ヘリオガバルス並の暗君だったならば ワンチャン私の石像がたてられたり 何となれば何万石かもらって地方大名として 左団扇で暮らせるかもしれない。 しかし、普通に考えれば切腹であろう。 その場合 介錯人はこちらで頼めるのだろうか? 今も伝説の首切り役人 山田浅右衛門の家業は 続いているのだろうか? もし、かの山田浅右衛門の紙一重の秘技を 目の当たりに出来るのならば 今際の際に是非ともお願いしたいものだ。 と、いつものように妄想が白痴の彼方に 飛び立とうとするのはおいといて。 今回の編集者の鼻息は荒かった。 「神保町で村上春樹の新刊を 週間ランキングで抜いたそうで。 東野圭吾の次 二位にランクインしたそうです」 これは結構凄いんじゃないか? 商業出版ほどの広告も営業もなしに これと言って推せるような パンチラインになる経歴もない帯の本が しかも、しがない一夜職の女の本が 一時的とはいえ かの春樹の新刊を超えるなんて。 「これは結構凄いんじゃないですか? 私がハルキストでなくても 凄いんじゃないですか?」 「まあまあ 何度かテレビでも取り上げられましたから 物珍しさで手に取る人も 増えたんじゃないかと」 「そんなこと言わずに とりあえず一緒に喜んでくれといた方が ××さんの功徳にもなると思うんですがね」 「そうですか、まあ次の売り上げが出るのは 11月くらいになりますから」 「じゃあ11月は編集の方々で集まって 祝賀会しましょうよ」 「まあまあ、11月は頭からケツまで 会議でいっぱいなんで難しいですね」 「あの、まあまあ言うの 辞めてもらってもいいですか?」 私はヒロユキのような口調で ハルキストの編集者に そう言って電話を置いた。 後日、書店に行ってみると 週間ランキングで 東野圭吾と村上春樹に挟まれた我が本が クロックムッシュ、いやクロックマダム いやさケイゴ・ムラカミサンド KMサンドされて 棚にふてぶてしくふんぞり返っていた。 帯に「西村賢太氏推薦!」 と書かれているような幻が一瞬見えた。 今思えばあれは 私の中で浮世と黄泉路の境界が ノンフィクションと私小説の間くらい 曖昧になりつつあったためだろう。 それにしても まさか初出版した本が あのケイゴ・ムラカミの隣に 並ぶ日が来ようとは。 明日は空からケラウノスが 降ってくるんじゃないかしら。 とにもかくにも 地上波で紹介された上にこの本の並び。 さしもの私もこれを自慢 …いやさ宣伝しなければなるまい。 それが渡世、いや、人情、いや仁義 または十界互具における 一念三千の法理の顕現であろう。 私は一体何を言っているのか。わからない。 そもそも私が写メ日記でこんなことを嘯いて 果たして喧伝になるのか? それとも宣伝カーをレンタルして 渋谷スクランブル交差点の真ん中に乗りつけ 壇上で泡沫候補の断末魔の如く 「ノンフィクション!ノンフィクション!」 と叫べぶべきなのだろうか。 わからない。私には何もわからない。 🍎 燈 🍎 X 𝐈𝐧𝐬𝐭𝐚𝐠𝐫𝐚𝐦 公式LINE ✉️kinpenakari.otoiawase@gmail.com ご予約詳細はブログ一覧
-
-
前の記事
-
Blog@Kinpeibai
一音ズレた世界【結】そう心に決めた私は早速攻勢に打って出た。 「え~どんなシャツなの?気になるなぁ。 私はほら、パーカーの下は ダサダサなTシャツだよ。 もう丸首んとこダルダルだよ。 部家着のまんまで来ちゃった。 テヘペロッ☆」 私は肩を竦めて寒さを受け止めながら ジャケットとパーカーを脱ぎ ボロボロのTシャツ一枚になった。 タンクトップのクロ子よりは マシかもしれないが 江戸中期の町娘と現代っ子を 耐寒性で競わせても詮無いこと。 そして私のTシャツにはSystem of a Down というバンド名がプリントされていた。 確かに私のシステムはダウン寸前であった。 「え~ほんとに肌着じゃん。ヤバッ。 でもなんか私だけ厚着してて 恥ずかしくなってきたな~」 「そうですそうです。 我が国には和を以て尊しとすという ありがたいお言葉がありますからね。 何事も自我に拘泥せず付和雷同して 他に追従してこそ大和魂というものですよ」 「アカリ なんか言語が混沌としてきてるけど大丈夫? 寒いんじゃなかったの?」 「んなこたごぜあせんよ。 あっしは歯の音が合わずとも こうしてきちんと発音できてるでげしょ? これが正気の証明ですよ。 アチキの気が違っていたら こうも流暢な発音は儘ならんぞなもし。 あくまで某は公明正大でげす」 歯の根が合わないのを食いしばって 何とか喋っていると 今度は言語中枢が嚙み合わなくなり 私の言語は支離滅裂を極めた。 「見て見て~。このシャツJil Sanderなの。 やっぱハイブランドはワンポイントでも ハイソな感じがいいよね~」 いつの間にかシロ子は 白T一枚になって飄然としている。 馬鹿な。時空間転移装置は? 私は何を見落としたというのか? …ホッカイロだ。 ヤツは体中にホッカイロを 貼り付けているに違いない。 きっとクロ子も店員たちもみんなそうだ。 よってたかって 私を謀りにかかっているのだ。 思えば今日ヤケに寒いと思ったら ホッカイロを貼ってこなかった。 私はホッカイロなしでは 冬の外場が卒塔婆に なってしまう体質なのだ。 やられた。 Tシャツ一枚になった私の意識は もはや朦朧としている。 「…そのじるさんだーも脱いで…」 口が勝手に動いていた。 「え?」 「その中に隠してるのは ご明察の通り白日の下の晒上げなのである」 「おいアカリ ちょっと何言ってるかわからないぞ」 クロ子が余計な横やりを入れてきた。 「だまらっしゃい。 こっちはもう少しで このアマを剥けるとこなりけり」 私はカタカタと震える首を傾けながら クロ子を睨みつけた。 すると流石のクロ子も気味が悪かったのか 見てはいけないようなものを見てしまった というような蒼ざめた顔をして固まった。 すると突然 シロ子が両手を優しく私の肩に置いてきた。 そして言った。 「パニック障害じゃないの? 病院行かなくて大丈夫?」 瞬間、意識が反転した。 私はシロ子に掴みかかり じるさんだーをビリビリに破り捨て それだけでは飽き足らず 腹に手刀を突き込んで中身を抉り出した。 シロ子のハラワタは真っ黒であった。 ほーらね。黒よりも黒い白があるってこと。 私の意識はそこで途切れた。 「アカリ、聞いてる?おーい」 タンクトップのクロ子が 私の顔を覗き込んでいる。 ハッと我に返って言葉を返す。 「あ、ごめん、聞いてなかった。寒くて。 何だっけ?」 「いや、シロ子とアカリが 店ン中でも厚着して脱げないのは 家と職場の往復で 耐性がなくなってんじゃないかって話よ」 「確かに最近は ぬくぬくした現場ばっかだからね~」 ロシア帽にコート姿のままのシロ子が モツ煮を口に運びながら答えている。 「そういやクロ子って 今何の仕事してんだっけ~?」 「私?ドボジョよ。ドボジョ」 「ドボジョ?何それ? 凄くボンジョビのファンってこと?」 「違うよ。土木女子。 これでも現場監督なんだからな」 「へえ~。 だからそんな薄着でも平気なんだ」 「あたぼーよ。土方舐めんなってハナシ」 クロ子は得意になって 変な言葉遣いそのままに 土木業について語り始めた。 すると段々意識が明瞭になってきた。 なんということか。 私はあまりの寒さに耐えきれず 会の途中から 意識を妄想の中に耽溺させていたのだ。 そしてあまつさえ、その幽界の先で 友人のハラワタを引っこ抜いてしまった。 「…ごめんねシロ子」 ボソリと、懺悔の念が口から零れ落ちた。 「え?何が?」 「いや、ハラワタ…」 「ハラワタ?ハラワタってこれ?」 シロ子はモツ煮を指しながら ポカンとしている。 確かにそれは牛のハラワタである。 「欲しいの?」 「…え?ああ、うん。 ハラワタ、私も頼めば良かったなぁって」 「いいよ~。これ全然美味しくないからさ。 食べきるの地獄だな~って思ってたんだ。 はい、あげちゃう」 シロ子がモツ煮を 丼ごとこちらにスライドさせて寄こした。 謝らなきゃよかった。 大体モツ煮に失礼だ。 私は目の前の黒いモツ煮に敬意を払い 命をいただきます。 と心の中で唱えて頬張った。 地獄のような味がした。 黒目が白目になりそうだった。 黒より黒い白が、やはりこの世にはある。 そう思ってクシャミが出た。 くしゃみの途中で諦めた みたいなクシャミだった。 現実が一瞬ズレた気がした。 🏮 燈 🏮 X 𝐈𝐧𝐬𝐭𝐚𝐠𝐫𝐚𝐦 公式LINE ✉️kinpenakari.otoiawase@gmail.com ご予約詳細は🈁ブログ一覧
-
