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Blog@Kinpeibai
愛は茶色く古びて 〜クロ子、子供貰うってよ〜①――自分ならきっと 上手に愛せると思っている。 愛するものが、まだ家に来ていないうちは。 黒田クロ子は悩んでいた。 離島育ちで武家育ちの彼女は 道場でクロ吉という頑固一徹な親父に 『漢』の何たるかを だいぶファンキーに叩きこまれて育った。 そんなクロ子は実家の道場で 空手のブラックベルトを取り 離島でクロ子に敵う男は クロ吉以外にいなくなっていた。 しかしクロ子は 「大きくなったらパパと結婚する!」 なんて乙女ッティーな性質でもなかったため やむなく島を出て結婚相手に相応しい男を 内地に探しに出た。 …と、クロ子は言い張っているが アカリは「ただの都会への憧れだろう」と これを真に受けて聞くことはなかった。 しかしある日 喫茶店に呼び出されたアカリとシロ子は クロ子への認識を改めざるを得ない話を 彼女の口から聞くこととなった。 曰く、都会の男は軟弱者ばかり。 今まで漢と見込んで付き合ってきた者たちも 結局はカッコツケだけの ハッタリベイビーであり それらに比べてみれば離島の男たちの方が 何倍も『漢』らしかった。 都会の男がこんな体たらくでは 結婚も子育てもできないまま 一生を終えてしまう。 その前に女として 命を育む経験をしておきたいと言うのだ。 「だから子供をさ 引き取ろうと思うんだよねぇ」 アカリは激怒した。 クロ子は先日、マッチョイズムの権化の如き 筋肉達磨彼氏と別れたばかり。 そんな失恋の中でヤケになって 己への慰みに子供を引き取ろうとは なんたる自分勝手か。 アカリは、必ず親友から かの邪智暴虐なる観念を 除かなければならぬと決意した。 「クロ子! 命を、命を何だと思っているんだ! 遊びでやってんじゃないんだよ!」 アカリは某・女のような名前をした ガンダム乗りの如く吠えたてた。 クロ子は一瞬、面喰った顔をしたが やがて破顔、爆笑した。 「ちょっとアカリ。 その必死な顔やめて。面白過ぎる」 「…ッ!馬鹿にして! そうやって事の重大さを スカすんじゃないよ!」 「いやいや 私だって命を迎えるわけだからさ。 別に半端な覚悟じゃないんだって」 「自分にはお父さんがいるのに 子供からはパパを取り上げるなんて! エゴだよそれは!」 「アカリちゃん~。 最近サブスクでハマってるからって 浅い知識でガンダム語録 連発するのやめなよ~。 本気のガノタに絡まれたら 話ついていけなくなるくせに~」 「ぐぬぬ…」 シロ子がアカリに水を差す。 しかし痛いところを突かれたアカリは 少々心にダメージを負ったため しばし黙して、精神のベクトルを 我が尊厳の回復の方向へ面舵いっぱい。 言葉を思弁に変えて 己がレゾンデートルを 保持することに努めた。 「てかアカリさぁ。 いちいちパパなんて大袈裟だって。 ワンちゃん狙いなのに 男なんていらないっしょ?」 「クロ子ちゃん ゆきずりの男と ワンナイトで子供作る気なの?」 「よくもそんなことが言える! それが人間のすることか!」 「アカリちゃん。 いい加減、ネトフリでゼータしか 見てないのバレるよ?」 「ぐぅ…」 そういえばシロ子がガンダムを ジークアクスまで全て網羅していることを 思い出したアカリは 虎になった李徴の如く 叢から月を仰いで咆哮したかった。 しかし咆哮の代わりに出たのは ぐぅの音であった。 「だからさー。 ワンちゃんお迎えすんのに 何で彼氏が必要なのよ?」 「???ワンチャンヲオムカエスル?」 クロ子の話を詳しく聞いてみたところ もう東京の男に望みは託せない。 子供を授かる機会なんて 今後ないかもしれない。 故に、犬を我が子として育てよう。 と言うのだ。 「人間の子供も犬の子供も 同じ命を預かって育むことには 変わりないっしょ?」 「クロ子!いつも言葉を捏ねくり回して 人を弄んで!」 「アカリちゃん さっきからカミーユのセリフ 言いたいだけだよね?」 「うん」 「でも私もクロ子ちゃんの言には賛成だよ~。 人生で命を育んだかどうかで 世界の見え方が 変わっちゃうかも知れないもんね~」 「じゃあさ、二人とも付いてきてくれる? 今日、千葉のブリーダーさんのとこに ワンちゃん見に行く予定なんだ。 車は私が出すからさぁ。 どうせ今日二人とも予定ないでしょ?」 🏮 燈 🏮 X 𝐈𝐧𝐬𝐭𝐚𝐠𝐫𝐚𝐦 公式LINE ✉️kinpenakari.otoiawase@gmail.com ご予約詳細は🈁ブログ一覧
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万華鏡患者――偶然を永遠にしようとして 布団の上で転げ回った。 万華鏡が欲しい。 無垢な稚児の如き欲求が ふと脳裏に降ってわいた。 何の前触れもなかった。 だからこそ厄介。 私のような優柔不断の徒にとっては 衝動的欲望ほど執念深く 追ってくるものはないから。 しかも万華鏡というのは 「偶然を永遠にする装置」とも言われる。 そう、私に偶然に降ってわいたこの欲求は 満たされるまで永遠に 我が身を消えることなき黒炎で 焼き続けるのだ。 このまま全身炭化してなるものか。 私は写輪眼の魔の手から逃れるために 万華鏡を求めて楽天だのAmazonだの 現代の商都をふらふら徘徊した。 ところが眺めれば眺めるほど 今度は別の確信が胸中に渡来した。 それは、いざ家に万華鏡が届いたところで 私はショッピングに満足して ろくに万華鏡を愛用もせず せいぜい一度覗いた程度で満足して あとはガラクタとも家財道具とも 区別のつかぬ漂流物として 部屋の隅へこれを 放逐するに違いないということだ。 こう見えて私はもう私と 随分長いこと付き合っているので 私のことは私には 手に取るようにわかってしまう私。 この私という阿呆は 欲しいものが手に入った途端に 興味を無くすのだ。 これはアイドルと結婚した瞬間に セックスレスになる野球選手みたいなもので 非常に性質が悪く この世の三大厄災の一つとも言われている。 ちなみに他の二つは 大統領選挙と港区女子である。 結局、私の家に程なくして万華鏡が届いた。 三角形に配置された三枚鏡が 色とりどりの無数の硝子片を 夢幻の空間に千変万化して魅せる。 これを眺める時間のなんと幽遠なことか。 まるで鏡の世界に吸い込まれていくようだ。 何とかして逆に私の方に このミラーシステムを 吸収できないものだろうか。 そうすれば私は永遠の曼荼羅模様を この世に顕現することができるじゃないの。 おや?曼荼羅? そういえばこれ、曼荼羅に似てないかい? さては万華鏡という代物は 曼荼羅をなんとか 三次元的に再現するためにできたのだな。 この中心から放射する秩序といい 無限に続くような広がりといい 曼荼羅に共通しているじゃないか。 あの唐突な欲望の発露は 万華鏡が私を曼荼羅に導く 因果律の連環だったのか。 いやはや、我ながらなんと勘の鋭いこと。 こんなにニュータイプなオナゴが 令和の浮世に在るなど お釈迦様とて気づくまいて。 くわつはつはつはつ。 私は文学上でしか伝わらないような 高笑いをあげて、随分いい気になっていた。 全然、関係なかった。 万華鏡は、遠いスコットランドの とある才気ある紳士が 灯台の光を遠くへ送るために 鏡を研究している最中に ついでのように発明したものらしい。 なんと軽やかな誕生であろう。 私は時を越えて彼に喝采を送りたい。 対して曼荼羅は 仏教の高名なる教えがあまりに難儀で 人々が首をかしげてしまうため 「ならば絵にして示そう」 という慈悲深い発想から 描かれたものだという。 まったく共通点がない。 根の根から、まるで違う。 私は時を置かずして私に叱責を送りたい。 なんと私の脳は 都合の良い幻想を編み上げることか。 人間の錯覚というのは こうした見当違いの恋にも似た 妄動から始まるものに違いない。 私はまたも、叶わぬ恋に夢を見てしまった。 そして目を覚ますと、己の勘違いに恥じ入り 自らの内なる呵責に身もだえしながら 小一時間布団の上を転げまわるのだ。 嗚呼、人生のなんと寂寞なることか。 閑寂の朝に張り付くは暁の嘲笑か。 しかし寝覚めの悪い頭で私はふと考えた。 果たして本当にそんな理論に 帰結してしまって良いのだろうか? 因果というものは理屈で説明のつかぬもの。 私が万華鏡によって曼荼羅に 思いを導かれたことは純然たる事実であり なんとなれば万華鏡にて偶然の宇宙を発見し そこに秩序の宇宙としての曼荼羅が 存在していたという見方も できないことはない。 してみれば、これは視覚による 瞑想から通じた必然的な出会いとも言える。 ひょっとしたらこれこそが人智を超越した 観世菩薩のお導きであるのかもしれない。 こうなったら私はいっそ 曼荼羅を買ってしまおうかしら。 というと、私の中の私が 「我利我利な妄想に恋着して 勝手に純朴女学生気取ってんじゃねえよ このスベタ!」 と私を糾弾してくるだろうが こんな内なる私の声に負けていては 私は私をいつまでたっても この私に統合できない。 となれば、私はもはや私の精神を 統合するためにも曼荼羅を買うしかない。 買うしかないのだが そうすると今度は別の問題が出てくる。 大体において私は無宗教家である。 そんな凡骨が 仏教の教えを顕した神聖なる曼荼羅を ろくに理解もせず和様建築から程遠い RC構造のリビングに飾るなどという行為は 流石に身の丈に 合わないのではないだろうか? 例えるならばそれは 恐れ多くも弘法大使の袈裟を羽織り 合わぬ丈の裾を引きづって新宿などを徘徊し 尊い法衣をトー横の地べたで汚すような 不道徳極まる蛮行に 値するのではなかろうか? そのような冒涜めいた真似を 果たして大日如来が許してくれるだろうか? 否。例え仏が許したとしても そんな私は、私の私が許しはしないだろう。 何より私のことは私が私よりも よく知っているはずなので 私には私の考えが 手に取るようにわかってしまう私。 なんだか私は私が 大日如来よりも恐ろしくなってきた。 嗚呼、私がゲシュタルト崩壊してゆく。 この剥がれ落ちた私の中心にこそ ひょっとしたら曼荼羅の 本質があったりするんじゃないかしら。 そこから世界が広がってゆくのかしら。 その世界はまた私に満ちているのかしら。 あな恐ろしきは私なり。 こうなったら私は私の世界から 私を放逐しなければならない。 そうするとやはり私には 曼荼羅が必要なのではないかしら。 私の精神は曼荼羅によって 宇宙に同調接続され 私は曼荼羅の中心から 因果律を巡って再び中心へ帰る。 私に還りなさい。燃える魂。 レッドソール。魂のルブタン。 なにがやねん。 そうしてなんやかんやで 若干のトランス状態に陥りながら 思考の旅を巡り経て 浮世に何とか帰り着いた私は 今、居間で茶を啜りながら サルートの新作やら おぱんちゅうさぎの景品やらに 目を通している。 居間居間しいことである。 こうして万華鏡からも 曼荼羅からも解放されて 仏罰を怖れることもなく なまぬるい時間を眺めていることの安らぎ。 混沌が秩序へ収束する瞬間の絵巻の巻末に このような静謐な宇宙が顕れるのではないか。 私は一体何を言っているのだろうか。 結局、私の買い物というのは いつもこのような不実と逡巡の連続に 翻弄されて儘ならないのだ。 それもまた人生。いとをかし。欲し茶菓子。 そんな風に茶を啜りながら お茶を濁していると その味が少し 渋みを増してきたような気がした。 部屋の隅には、買ったばかりの万華鏡が ワビサビを帯びて転がっていた。 🍎 燈 🍎 X 𝐈𝐧𝐬𝐭𝐚𝐠𝐫𝐚𝐦 公式LINE ✉️kinpenakari.otoiawase@gmail.com ご予約詳細は🈁ブログ一覧
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