お喋りマッサージ店の罠
肩が痛い。
ここしばらくの無理が祟ったものか
どうにもこうにも重く、張っている。
私は一人
近所にできたばかりの
マッサージ店の前に立った。
表の立て看板には
子供が殴り書きしたように
「まっさーじ!もみほぐし!」とある。
風情など一切考慮しない
潔いほどの正直さである。
斯様な看板があるものだから
入店にはどうも気後れするのだが
かといって、肩の痛みを放置すれば
今後ますます悪化するのは目に見えている。
私は観念し、扉を押した。
すると、店の奥から
異様に明るい声 が飛んできた。
「いらっしゃい!肩こりひどいね?
見るだけでわかるよ!」
私は 知らぬ間に
そこまで分かりやすい人間に
なっていたらしい。
何か一言、反論しようかとも思ったが
どうせ今さら抗ったところで
肩こりが治るわけでもない。
私は黙って施術台にうつ伏せになった。
と、店主は力強く肩を押しながら
唐突に言った。
「いやぁ、昨日ね
不思議な夢を見たんだよ!」
嫌な予感がする。
「宇宙人がね、私の店に来たんだよ!
最初は普通の客かと思ったんだけど
肩を押したら『ピピッ』って音がしてね!」
私は 目をつぶったまま
ゆっくり息を吐いた。
なるほど。そういう種類の御仁か。
こういう時
必要以上に相槌を打つと
余計に話が長引く ものである。
私は努めて無言を貫くことにした。
だが、店主はそんな客の態度など
一向に意に介さぬ 様子であった。
「でね、その宇宙人が言うには
地球人の肩こりは重力のせいだって!」
なるほど、それならば
我々が火星へ移住すれば
肩こりも軽減されるというわけか。
実に結構な話である。
私は半ば諦めながらも
黙って押され続けていた。
しかし、確かにこの店主
話は奇天烈だが、腕は悪くないらしい。
肩の痛みが徐々に消えていくのを感じた。
が、その矢先
再び店主が口を開いた。
「ところで君
前世はカエルだったかもしれないね!」
私は うつ伏せのまま顔を上げた。
「…カエル?」
「そう! なんだかそんな気がする!」
私はこれまで生きてきて
自分の前世を疑われた経験はなかった。
***
施術が終わる頃には
肩こりはすっかり解消されていた。
しかし、それと引き換えに
心の疲れは倍増していた。
私は支払いを済ませ
そそくさと店を出ようとする。
「また来てね!」
店主は 実ににこやかに 言った。
私は微笑みを返しながら
「いや、もう十分です」と思った。
が、数日後
私はまたこの店の前に立っていた。
何が私をここへ向かわせたのかは
今となっては分からない。
🍎アカリ🍎
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