電車でHIPHOP
電車に乗り、座席に腰を下ろした私は
ぼんやりと窓の外を眺めていた。
先ほどまで歩いていた街並みが
ゆっくりと流れていく。
その単調な風景に
私は何の感慨を抱くこともなく
ただ時間の経過を受け入れていた。
そのときである。
電車のドアが開いた瞬間
車内に異様なエネルギーが流れ込んできた。
どかどかと乗り込んできたのは
大柄な黒人の男たちである。
それだけなら、特段気にすることもない。
だが、問題は彼らの座り方であった。
向かいの座席にも、こちらの座席にも
まるで私を
包囲するかのように座るではないか。
ファミリーなのか?
本当の家族なのか
それとも「名目上のファミリー」なのか。
後者であるならば
少々厄介なことになる。
***
ふと、私はオセロを思い出した。
私は今、両脇を黒に挟まれている。
もはや黄(イエロー)から黒に
ひっくり返るのは時間の問題ではないか。
そうか
こうして ファミリーは増えていくのか。
などと
どうでもいい考察をしていた矢先
突然、向かいの男たちが口論を始めた。
「Yo, what you talkin’ ‘bout?!」
「Nah, man, you trippin’!」
私は思わず耳をすませた。
ん? 何か 妙にリズムがいい 。
いや、待て。
これは、もはや「ラップバトル」ではないか?
私は目を凝らした。
彼らは確かに口論をしているはずなのだが
不思議と韻を踏んでいるように聞こえる。
_ライム&フロー。
これが本場のHIPHOPというものか。
目の前で繰り広げられる
即興の韻踏み合戦に
私はもはや、一人の観客になっていた。
***
そこへ、車内のスピーカーが鳴り響いた。
「次は~○○駅~」
私はハッとした。
もう、降りる駅ではないか。
まことに名残惜しいが
私はここで ファミリーから
離脱しなければならない。
電車を降りる直前、
私は心の中でそっとつぶやいた。
「アメリカンなひとときをありがとう、
リトルスヌープドッグたち。
私はジャパニーズヒップホップに
帰ります。」
電車の扉が閉まり、私はふと笑った。
まるで 海外旅行をしていたかのような、
不思議な体験。
日本にいながら、
こんな異国情緒を味わえるとは。
なかなか、得した気分ではないか。
🍎アカリ🍎
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