-
次の記事
-
Blog@Kinpeibai
「愛は茶色く古びて」〜幸福の匂い〜⑩久々に会うクロ子は すっかり気色を取り戻し なんなら肌ツヤがテカテカしていた。 「いやー呂布と二人になったら うんちの粗相もないしオシッコもしないし トイレシート噛むのも辞めてくれたし。 ありゃストレス性のもんだったんだねぇ。 主犯が女だとは思わなかったよ。 やっぱ女はダメだ。 殴んなきゃわかんねぇよ」 クロ子は恬然と言い放った。 「ちょっとクロ子! ジェンダーの時代に何てこと言うの! クソッ!シロッ子のせいで… こうして哀しみだけが広がって…」 「まあ後半は冗談だけど 私アンチフェミだから。 ゴリマッチョ思想だから。 ヘミングウェイの晩年は哀しかったね」 「クロ子、嫌いな作家は?」 「村上春樹。やれやれうるさい」 「筋金入りだね」 「でも春樹はフェラさせるくせに クンニは絶対しないんだよ。 まあマッチョっていうか 自己陶酔っていうか」 「春樹のことは置いといて ベスだっていい子だよ?」 「スカトロ女優なのに?」 「確かにベスは うんち食べるし体につけるけど」 「ほら、企画女優じゃん。 一生単体になんかなれないよあいつは」 「我が子に何てこと言うの!」 「うんち憎けりゃベスまで憎しとは よく言ったもんでね」 「人にベス預かって貰っといて 連絡も寄こさずに よくもそんなことが言える!」 「アカリ、またちょいちょい ガンダム語録挟んでる?」 「はい。ムシャクシャして 言ってしまいました。反省してます」 「連絡が遅くなったのは悪かったよ。 犬の学校に入れるかどうかを ちょっと悩んでてさ…」 「え?なんで?」 「呂布と二人暮らしなら 入れなくていいんじゃんって。 束の間の平和に浸ってるうちに 月日が過ぎちゃって…」 「ベスのこと忘れてたっての?」 「そんなわけないじゃん。 ただ、なんか呂布の方は 学校入れなくて いいんじゃないかなーって。 でもそしたら 一人で入るベスが可哀想だし。 そんなん考えてたらつい」 「無責任だよ、それは」 「わかってる。ごめん。 ちゃんと二人とも学校入れるよ。 じゃあベス迎えに行くかな。 元気してる?」 「え?ベスはもう、うちの子ですけど?」 「は?」 「ろくに連絡も寄こさないような クロ子にベスのことは任せられません」 「おおっと、ペット誘拐事件発生か?」 「人聞きの悪い! 育児放棄したのはそっちじゃん!」 「してないよ! いいからベス返しなさいよ!」 「ほら、返せとかそうやって ベスのこと物扱いして!」 「あーあー 人の言葉の揚げ足ばっかとって。 これだから女って奴はよぉ」 「うるさい!このファシスト!」 「なんだと誘拐犯!」 「ぐぬぬ…娘さんをください!」 私は嘆願という攻勢に出た。 「…アカリ、それマジで言ってる?」 「本気と書いてマジ。卍と書いて転落死」 「どゆこと?」 「とにかくベスは私が育てたいです! クロ子もそっちの方が 上手くいくと思います!」 「う~ん、確かにそりゃそうだけど 一度お迎えした犬を手放すってのは 姥捨てというか子捨てというか…」 「親権はクロ子でいいから!」 「じゃあ定期的に 呂布と遊ばせに来てくれる? 私が行くでもいいけど…ってあれ? アカリの家ってペット禁止じゃ…」 「ベスのために 引っ越すことにしました!」 「…マジで?」 「マジです」 「どひゃー」 「実際にどひゃーと言ってる人間を見て 私も今どひゃーっと思っています」 「うるさい。黒田家に 代々受け継がれてる口癖なんだよ」 「どひゃー」 🏮 燈 🏮 X 𝐈𝐧𝐬𝐭𝐚𝐠𝐫𝐚𝐦 公式LINE ✉️kinpenakari.otoiawase@gmail.com ご予約詳細は🈁ブログ一覧
-
-
前の記事
-
Blog@Kinpeibai
「愛は茶色く古びて」〜幸福の匂い〜⑧――幸福は、失くす前から 少しだけ寂しい クロ子の家からベスを引き取って 二週間が経った。 ケージを買い、クレートを買い 額を畳みに擦り付けて大家に許しを請い 後頭部を踏まれながら 敷金礼金を一年分要求された私は アコムに返すためにプロミスし プロミスするためにレイクした。 空飛ぶ楽天カードマンが 目からオプティックブラストを放ちながら どこまでも追いかけてきた。 気が付くと私は多重債務者として 希望の船なる豪華客船にぶち込まれ 変なカードでジャンケンする 悪徳企業主催の下品なパーティーに 参加させられていた。 結果、何故か借金が倍々になった上に ビルの五十階層に据え付けられた 鉄骨の上を渡らされ 後ろを歩いていた眼鏡のおっさんに 背中を押された私は 滑って転んで闇がひっそりかん。 『おおアカリよ 死んでしまうとは情けない…』 神父にそう声をかけられたところで 目が覚めた。 ケージの中からベスが 仲間になりたそうにこちらを見ている。 どうやら私はまた ベスの瞳に吸い込まれるまま その蠱惑的な顔貌の奴隷となり 床で寝てしまったらしい。 奴隷の朝は早い。 時計を見ると六時半である。 早速ベスの朝食に取り掛かる。 好き嫌いの激しいベスのために 三種の犬ご飯をブレンドした スペシャルディッシュ。 これを召し上がるようになってから ベスの顔色はみるみるよくなり ステップも鮮やかになり 目を離すと タップダンスの踵を鳴らすように 軽やかにうんちを踏みまくった。 ベスはうんちが汚いものだと まだ理解していないのだ。 そこで私はベスに説いた。 「ベス。 私たちは生命を維持するために 清潔でおいしい食べ物を体内に取り込むの。 この段階では 食べ物は自分の身体を作り出す ポジティブな自己の構成要素。 食事ってのは純粋な自己とも言えるわ。 でもね、そのアンチテーゼとして 毒素として追放しなきゃならない 不純な自己が発生する。 それがうんちなの。 消化・吸収を経て 栄養を抜き取られた残渣は 体内にとどまると病気リスクを生み出す。 生を保つためには かつて自己の一部だったものを 忌むべき異物・他者として外部へ切り離し 嫌悪の対象=汚物として 否定しなければならない。 悲しいけれど 生きるために私たちはうんちに 悪役を買って出てもらうしかないのよ。 うんちだって、その役割を以て 次の生を生み出す循環プロセスの 結節点にしてもらいたいはずよ。 うんちってのはね、汚さと尊さが同居する 善悪二元論では語れない 二律背反な存在なの。 ゾロアスター教の スプンタ・マンユとアンラ・マンユが アフラ・マズダの許可を得て フュージョンしたみたいな… ハマスとイスラエルが 魔人ブウに取り込まれて 海原雄山に弟子入りするみたいな そんなどうしようもないカオスなのよ。 そんなものを踏み続けて御覧なさい? 足の裏がギンヌンガガプにくっついちゃうわよ?」 ベスはゆっくりと首を傾げると うんちを踏んだままの前足で ケージを叩いてかまちょしてきた。 私の頬に踏みたての うんちの飛沫が飛び散った。 鏡を見て、ちょっと ウォーペイントっぽくてありかな? このまま出かけちゃおうかしら? などという思考が過った私の脳裏に 『ゲダツノキュウサイモカナワヌ コノハザマノヨコソジゴクナリ』 という一文が浮かんだ。 あの日見たクロ子の変わり果てた顔。 その根源たる意味が 今ではよくわかる気がする。 しかし私は諦めなかった。 犬の調教師さんに カウンセリングに来てもらったところ クレートトレーニングが良いとのこと。 何でも今のベスにはケージが広すぎる。 自由過ぎる。 故に何でもありな状態で 誤った選択をしてしまう。 クレートという密室空間であれば 選択は自ずと限られるので 犬が迷わず最善手を選びやすいのだとか。 思えば我々霊長類もそうである。 強制収容施設にぶち込まれでもすれば 毎日無心に働くが 娑婆に出た途端に全てのやる気を放擲して パジャマから着替えもせず ポテチを頬張りネトフリ三昧。 そのうち昔の悪行がバレて収容され 何だかんだ持ち前の事なかれ主義により 模範囚として務めを終え、看守さんに 「もう戻ってくるなよ?」 と言われて二週間くらいは 社会復帰に躍起になるが 結局、坂口安吾の堕落論に感化され カレーライスを百人前頼んで パキスタン人を困らせては また昔々の悪行がバレて収容。 いつからか看守さんの口から 「もう戻ってくるなよ?」 の代わりに 溜息が送り出されるようになっていた。 ある日、生活保護を受けながら 有名YouTuberを目指して 暴いてはいけない刑務所の実態を 勝手に配信していたら 丸暴が乗り込んできて逮捕監禁。 よくわからない理由で 無期懲役を言い渡された私は その日から一日も欠かさず モタ工でお弁当に シールを貼ったり剥がしたり 休みなく働いています。 そんな私も今では立派にお婆ちゃん。 「今、何時だい? そうかい、潮時かい。 人間ってのは 潮が引くときに逝くもんなんだなぁ」 私はそう言って 静かに独居房で目を閉じた。 『おおアカリよ 死んでしまうとは情けない…』 私は自由になり過ぎた思弁を クレートに閉じ込めて 思考を前に進めることにした。 とはいえクレートトレーニングに 問題はある。私の生活習慣である。 クレートトレーニングは クレートにベスを入れ 毛布などで光など外界の刺激を遮って とにかく落ち着ける空間を作る。 しかしクレート内に 給水所もトイレも当然ないので 一時間半~二時間毎にクレートから出して トイレに連れて行き排泄を促し その後、水を少量与えて水分補給を 欠かさず行わなくてはならない。 加えてそれが終わったなら10~15分 お外で遊ばせて運動させてあげる。 これに加えてお散歩もある。 …無理じゃない? そんなの出来るのって ニートか上級国民くらいじゃない? 私はこの世の時間軸を恨んだ。 こんなことなら甲賀の里に行った時に 分身の術の修行を 真面目にしておくんだった。 太秦映画村しか行ったことないけど。 でもきっと分身したところで 分身した私は私がオリジナルだとか言って 襲い掛かってくるに違いない。 だとして、その場合 私は私のことなど 手に取るようにわかるので 猪突してきた私の動きを 私はいとも容易く見切り そのまま八階の窓の外から 巴なげしてしまい 分身した私はコンクリートに 卍のような恰好で打ち付けられ頓死。 マスコミは分身殺人として これをセンセーショナルに取り扱い 裁判での判決は、例え分身であっても 殺人は殺人であるという極論に至り 話題性の犠牲となった私は 仮釈も執行猶予もなしで刑務所に収容。 何だかんだ持ち前の事なかれ主義により 模範囚として務めを終えた私は カレーを百人前頼んでパキスタン人に 「もう注文してくんなよ?」 と言われ(以下略)。 🏮 燈 🏮 X 𝐈𝐧𝐬𝐭𝐚𝐠𝐫𝐚𝐦 公式LINE ✉️kinpenakari.otoiawase@gmail.com ご予約詳細は🈁ブログ一覧
-
