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Blog@arabian曼殊沙華の徒花【上】――咲いたがゆえに 誰よりも赤裸にされてしまう花がある。 全く山のヤツときたらすっかり澄まし顔で ムードまですかしてて気に入らない。 ところどころに背伸びした杉の梢が びゅうびゅう風に吹かれて ああもうこんなに揺らされるなら 身長伸ばさなきゃよかった、と叫んでいる。 難儀なものよなぁ。 目立ちたがりが過ぎるからそうなるのだよ。 ついでに私の悩みもこいつ 引き受けてくれないかしら。 何たって私は今心が重い。 いや、重いというか、沈んでいる。 それも、太陽のような沈み方ではない。 そもそも太陽のヤツなんてのは どうせ半日後には何食わぬ顔で 酔っぱらったような朝帰りの赤ら顔を 禿げ頭に射返して 煩い光で人を叩き起こす癖に 沈むときもこれ いちいちネチネチと寂しがって酒を煽り 呑まなきゃやってられんよと 赤ら顔で星々の経営する 夜の飲み屋街に消えていくのだ。 かまってちゃんにも程がある。 なんという厚顔無恥か。恥を知れ。 私はお日様に怒った。 もっと君は、慎ましさを持った方がいいな。 いや、別に 月のようになさいとかいうのではないよ。 月なんてあいつ あんたの光で夜を我が物顔にしてさ それでおいて いや自分はそんなに照らしませんから。 人様の足元を薄ら照らす程度の 役に立たない丁稚でございますから。 でもほら そんな奥ゆかしさが美しいでしょう。 どうぞ詩に詠んでもらってもいいんですよ。 なんて気取っている。 全く図々しい。破廉恥だ。 月の面の皮は鉄でできているのかしら。 鉄面皮ってやつ。 一人仮面舞踏会。 私は月を軽蔑した。 次から月ではなく 鉄子とでも呼んでやろうと思った。 私の沈み方といえば、鉄というよりは鉛。 そう、恥辱と後悔を体に塗りたくって 煮えた窯でじっくりコトコト煮込んで どんどん固まっていく鉛。 ひとたび湾に投棄されたら もう浮上できないんじゃないかしら。 カチカチ山で兎に挑んだ私の船は 泥どころか そんな風な鉛で出来ていたのだ。 なんだって人は他人の目が こんなに気になるのか。 私は人目が痒くてしょうがない。 あれはそう 学び舎を飛び出ての、屋外活動ってやつ。 学年生徒が一様に 息苦しい校舎から這い出て 肺臓の中身を 山の空気とすっかり入れ替えましょうって 束の間に与えられる自由と革命。 我々は自然と対峙する 独立戦争の解放軍として 目をランランに輝かせながら 外路に足並みを揃えて軍靴を鳴らす。 否、軍靴といっても 事前に配られたしおりには 「服装はジャージ、あるいは私服でも可」 と書いてあった。 既定の軍服を強制される 従軍ではなかったのだ。 やはりそこは自由解放軍。 偉大なる凱歌をあげるための大いなる一歩。 そこにも選択の自由がある。 その頃の私は、言うなれば 「おしゃれ病」に罹患していた。 オレンジと白のボーダーのシャツ。 真っ青なズボン やけに目立つ派手なスニーカー。 これが必殺の一張羅。 今思えばあれは 一張羅なんて殊勝な言葉で飾るには あまりにも派手過ぎた。 あまりにも過剰だった。 まるで舞台衣装だった。 だが私はそれを誇らしげに クローゼットに掲げていた。 うっとりと眺めては悦に入り それだけでは飽き足りず 兎角、人に見せたくてたまらなかった。 行軍においては確かに ジャージに一日の長がある。 しかし、果たしてそれでよいのか。 自由解放軍を名乗りながら 統一規格の軍服を身に纏い 無個性の塊となるなどと そんなことでは 自由の使徒として失格ではないか。 私が誰に相談するでもなく選び抜いた この美しき孤高の私服。 自由とは、各々の孤高を解放し 個の解放区を打ち立て 独立を宣言することだ。 ならば私がその先陣を切ろう。 …私はあの時、孤高なる言葉に浮かれず 冷静に判断を打ち立てるべきだったのだ。 半端な孤高は、気高さを蔑ろにして 愚かな独断に堕ちるということを。 🍎アカリ🍎 X *⋆⸜𝐧𝐞𝐰⸝⋆*公式LINE ✉️arabi_akari_otoiawase@outlook.jp ご予約詳細は🈁 ※公式LINEが凍結されてしまいましたので お手数をおかけいたしまして 恐縮ではございますが 再登録をお願いいたします。 ※9月後半はお休みいたします。ブログ一覧
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Blog@arabian浅草黙示録【中】一通りグーグルマップに裏切られ 彷徨いに彷徨いつつも 私たちはなんとか いかにも歴史のありそうな 飲み屋が肩を寄せ合って並んでいる 目的の場所に辿り着いた。 思いのほか店が乱立しているせいで どこに入るのが正解なのか わからなくなってきたが コンビニの飲み物は潔く前からとる派だ。 と自慢にもならないことを 誇らしげに宣うクロ子に倣い とりあえず賑わっている 目の前の一軒に入ることにした。 乾杯ビール。さよなら休日。 その泡の苦いこと苦いこと。 揚げたてのタランチュラを 嚙みちぎったような味だ。 麦の代わりにヒロポンでも 入ってるんじゃないかしら。 毒が回って周りのお客の笑い声が 蟹の断末魔に聞こえる。 頭の中まで泡だらけになりそうだ。 こんなものを飲み干した日には 脳みそが蟹味噌になってしまう。 出ようか。 言うや否やクロ子は立ち上がった。 こういう時の彼女の 衒いの無さはありがたい。 なんだかんだ私たちは 優柔不断と無鉄砲で 良い組み合わせなのかもしれない。 私は蟹味噌でそう思った。 「いや、凄いね。 あれで客商売が成り立つなんて。 人類はまだまだ多様性に満ち溢れているよ」 「多様性ってもう死語らしいよ」 「ええ?勝手に流行らせといて 代替品も置いてかずにトンズラですか?」 「ダイバーシティの時代ですから」 「小賢しい!」 横文字アレルギーなクロ子は 苛立ちを募らせた勢いで次の店に入った。 これだからリモート・アイランドの バーバリアン・カルチャーは スケールしない。 プリミティブなピープルには リムジン・リベラルな アジェンダが通じないのだ。 アーバン・エリートは チェンジング・タイムズを スマートにサヴァイヴし サステナブルでインクルーシヴな ソサエティをデザインして いかねばならないというのに。 そしてマイ・ブレインはすっかり ボイルド・クラブ・エッセンスと化し コンセプトやナラティブは フロートしてはエフェメラルな バブルのように ヴァニッシュしていったのだ。 …あのビールには本当に ヒロポンが入っていたのかもしれない。 間口の狭い、まるで洗濯機置き場のような 小さなバーだった。 カウンターが数席と ソファで囲んだボックス席がいくつか。 暗がりにピンクのネオンサインが 湿ったように滲んでいる。 ケバケバしい光を背に ひとりが数人の客に囲まれ 陽気な笑いを振り撒いて談笑している。 多分あれがママである。 ママは黒地に赤茶けた 鶴が無数に飛び立つ刺繡が施された 派手で大きな法被を羽織り 黒のショートボブに 深い紫のニット帽を浅く被っている。 やたらに騒々しいメイクと その口調・身振り手振りからして どうやら彼…彼女は「おかま」らしい。 「ちょっと面白そうじゃない?」 クロ子はそう囁くと 吸い込まれるようにその輪の中へ加わった。 勢い私もそれに続いて並ぶ。 「あら、あんたたち、初めましてね。観光?」 「いや、そんな大したもんじゃないです。 飲み屋を回ってるんですよ」 私たちはとりあえず 適当にカクテルを注文した。 すると「ちょっと私も」と言って ママも同じものを 自分のグラスに注ぎ込む。 乾杯カクテル。さよなら性別。 「そんでそれが カブトムシを煮込んだ味がして。 もうゲロゲロでしたよ」 「あんたダメよ この辺の安酒は混ぜ物だらけなんだから」 「一体、何が混ざってるって言うんです?」 「そんなこと言えないわよ。 界隈から追放されちゃうわ」 「え~?ママはもう生物学上からも 追放されてるんだから怖いものなしじゃん」 「あら、言うじゃないあんた。 もう私飲んじゃうわよ、乾杯」 クロ子とママは意外にも会話が弾み ママはノリノリで自分の杯を 空にしては満たし、満たしては空けていく。 その喉仏を上下させながらの 豪快な飲みっぷりは まるで食堂が太い血管に 変わったかのように脈打ち ゴクリゴクリというより ドックンドックンといった感じの オノマトペが聞こえてきそう。 顔は暗い照明にぼんやりとしていて 赤いのやら青いのやら区別がつかないが どうやらママはザルのようだ。 私は瘤取り爺さんの宴会鬼を ママのうるさい化粧顔に重ねてみた。 かなりお似合いな気がした。 「やっぱりヒロポンとか 入ってたんですかね?」 「まあ、あんた大人しそうな顔して 突拍子もないこと言うわね。 もう飲むしかないじゃない。乾杯」 「だってあの後 ちょっと言語中枢に 異常をきたしたような気がしたんですよ」 「あんた、そりゃマジックマッシュルームよ。 キノコに乾杯ね。乾杯」 なんだかんだで 私もそこそこ楽しくなってきた。 ママはことあるごとに乾杯を繰り返し 調子よく笑い 勝手に身の上話を繰り広げては 涙目になったりと忙しかった。 「あの人はねぇ、良い男だったのよ。 アタシはそれからプリテンダー歌うたびに 涙が止まらなくてねぇ。 もう飲むしかないわよ。乾杯」 クロ子は案外こういうのが楽しいらしく 肩を揺らしてケタケタと笑っている。 かくいう私も、誰かと他愛もないことで 談笑するという行為は好物なものだから この空間が割に心地よく感じられた。 🍎アカリ🍎 X *⋆⸜𝐧𝐞𝐰⸝⋆*公式LINE ✉️arabi_akari_otoiawase@outlook.jp ご予約詳細は🈁 ※公式LINEが凍結されてしまいましたので お手数をおかけいたしまして 恐縮ではございますが 再登録をお願いいたします。 ※9月後半はお休みいたします。ブログ一覧
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