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Blog@arabian曼殊沙華の徒花【下】山の麓に伝家の宝刀ならぬ フルアーマーで参じた私の視界は 一瞬にして絶望という名の霧に包まれた。 眼前に山神様が踏み荒らした跡かのように 緑が溢れかえっている。 ジャージ。 ジャージ。 ジャージ。 どこまでも均一化されたダイダラボッチが 手足を投げ出して、その見えない身体が どこまでも広がっている。 殉職。散華。 私は自由の忠実な下部として 模範的な行動を示しただけであるのに 戦地に身を投じる前に敗残兵と成り果てた。 同時に、私の中の現実主義者が 厳しく私を責め立て始めた。 そもそも、自由の忠実な下部とは何ぞや。 自由に飼い殺しにされてるじゃないか。 阿呆め。ハナから本末転倒じゃないか。 云々。 しおりに「可」と書かれていたはずの私服は たった数名しかいなかった。 そして、私のような極彩色を提示する 殉教者は皆無だった。 自由は死んだ。 板垣が死んだから自由も死んだのだ。 だとしたら、随分前から 自由は死んでいたのだなぁ。 嗚呼、私は野に咲く曼殊沙華。 所詮一輪の花に過ぎぬのでございますから どうぞ皆さまお気遣いなく。 目先の珍妙なるに目を奪われて ご自分の脚元がお留守になっては 危のうございますからね。 さあさあ、どうぞ私のことなど うっちゃってくださいまし。 場違いな異物感を 必殺の私服より色濃く醸し出しながら 私は出来るだけ小さくなって 朋友たちの視線に平身低頭 愛想嘆願しながら歩いた。 だが、全体主義の権化である 教師という名の悪魔が 作成したカリキュラムは 尚も悉く私を苛み続けた。 チームごとの写真撮影という儀式。 シャッターの音を合図に 恥辱の鉄槌が振り下ろされる。 緑緑と生い茂る草の中に際立つ棕櫚。 一人、燦然と輝くわたくし率。 シラフの太陽は馬鹿馬鹿しいまでに輝いて 嫌がらせに私に スポットライトを当てているようだ。 高いところであんなにも自己主張している 不届き者に「目立たされている」私。 なんという理不尽。 皆、見るならば頭上で能天気に 熱を振り撒いている 目立ちたがり屋のアイツに 目を向けてしまえばいいものを 目が眩むのが嫌だからといって それは御免被る様子。 やーい太陽め。ざまあみろ。 行き過ぎた自己顕示欲に人は閉口するのだ。 目も当てられないと陰に目線を逸らすのだ。 そしてその視線は 根が陰でできている私に降り注いで さらに私の後ろに影を作っていく。 冗談じゃないぞ、君。 写真が現像され 学校の廊下に貼り出された。 私は全ての使徒の罪を背負い 磔にされたキリストの気持ちに連帯した。 ジャージの波の中に ぽつねんと遠く浮いている富士。 葛飾北斎の捉えた 奇跡の一瞬の中に見る寂寞。 「孤高」から「高」を括った虚飾を取り除けば 「孤独」になるのであろうか。 更にそこから「孤=個」を取り去ったら ただの「毒」になったりするのかしら。 私の「自我」が具現化したそれは 「過ち」の決定的証拠として 学び舎に展示され続けた。 これは、罠だ。 この学校というシステムが 私をまんまと落とし穴にハメたのだ。 でなければ なんだって中途半端に統一もせず 「私服でも可」などという ネズミ捕りのような選択肢を設けたのか。 私は、自らの見栄や浅はかさを とりあえず棚にあげて 学校という巨悪に 問いを投げかけることにした。 かくも美とは、孤独である。 愚かな美は、ただ笑い者になるだけである。 しかし、これこそが 我が闘争の歴史であるのかもしれない。 災いも笑いも転じて福となること 世に儘あるではないか。 私の孤高は 死後、評価されるかもしれないじゃないか。 嗚呼、私はゴッホになりたい。 そう思いながら、私は耳の代わりに 今日も恥辱を削ぎ落す。 自我が擦り減らないように。 誰にも気づかれないように。秘密に。 ひょっとしたら 私すら気づいていないかもしれない。 嗚呼、ゴッホになりたいものだなぁ。 🍎アカリ🍎 X *⋆⸜𝐧𝐞𝐰⸝⋆*公式LINE ✉️arabi_akari_otoiawase@outlook.jp ご予約詳細は🈁 ※公式LINEが凍結されてしまいましたので お手数をおかけいたしまして 恐縮ではございますが 再登録をお願いいたします。 ※9月後半はお休みいたします。ブログ一覧
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Blog@arabian浅草黙示録【下】「あ、そうだ。あんたたち」 ママがふと思い出したように カウンター下をごそごそ探り出した。 「これ、着てみる?」 出て来たのは、色褪せた浴衣。 洗濯のりも抜けきったような布地だが 妙に艶めかしい。 「着る着る!それママのお古なの?」 「そうよ、あんたこれ、特別よ」 クロ子はノリノリである。 「お姉さんたち、はいはい順番ね。 写真撮ってあげるから」 真っ先に袖を通したクロ子が 「似合う?」と回転してみせる。 「似合う似合う。 銀幕スターの2号さんみたい」 「2号って何?仮面ライダー?」 「あんた馬鹿ねぇ、愛人よ愛人」 「ダメじゃん!」 クロ子はまたケタケタと笑う。 ママはそんなクロ子にまた乾杯する。 「ほらアカリも早く着てみなって」 クロ子に半ば無理やり薦められながら 私も観念して羽織ってみた。 案外着心地が良い。 「あら、あんたなかなか色気あるじゃない。 これは1号さんね」 「納得いかない!」 クロ子が赤ら顔で抗議している。 まだ大して呑んでいないのに すっかりできあがっている。 そう、彼女は酒好きのくせに 滅法アルコールに弱いのだ。 下手の横好きとでも言おうか。 いや、なんか違う気もする。 なんだか私も酔ってきたような。 「1号って正妻ってことですか? 私の勝ちってことですよね?」 「あんた馬鹿ねぇ 1号は泣かされるのよ。可哀想に」 「何号が正解なんですか!」 クロ子は大爆笑だ。 ママはまたも、涙に乾杯 とか言って杯を仰いでいる。 写真を撮り合い 一通りキャッキャと浮かれ騒ぎ ともあれここはまだほんの 二件目であることを思い出した。 呑み歩きの序盤で潰れては元も子もない。 「そろそろ出ようか?」 充分楽しんだし ということで私たちは腰を浮かせ 会計を頼んだ。 しかし、伝票を見た 私の視界は一瞬グラつき ほんのり赤みを帯びていたはずの頬は 一瞬にして病的な青に変わった。 二万三千四百五十円。 お通しの枝豆とカクテル2杯ずつ。 たったそれだけで、である。 やはり一件目の酒に マジックマッシュルームでも 入っていたのか。キノコに乾杯。 しかし、何度まばたきしても 目の前の数字は揺らがない。 2万。…2万!? クロ子は「へぇ」と笑っている。 ママは紅い唇の端を上げ 何でもないと言った風に 「カードも使えるわよ」と告げる。 私は観念した。 ここで払わなければ きっとフィリピンかバングラディッシュ 辺りに売り飛ばされてしまう。 移民問題が取り沙汰されている昨今 我々までがいち早くエスケープして 移民と化しては 我が国に申し訳が立たない。 何より、そんなことになれば時を置かずして 霊界の移民になる可能性が高い。 やんぬるかな。 財布から諭吉を引き抜く手が震えた。 いや、栄吉だった。 なんだか余計に腹が立った。 くそぅ、諭吉を返せ! 二重の意味で、そう思った。 外に出ると、浅草の夜風が妙に冷たい。 スマホで店名を検索すると 案の定「ぼったくり注意!」 の文字が踊っている。 なるほど。 他の客がやけに大人しかったのも道理だ。 どうやら、ママがしれっと口にした酒代が すべてこちら持ちだったらしい。 道理でことある毎に 乾杯乾杯と囀っていたわけだ。 あの厚化粧に食わせるカクテル代を 私が背負わねばならないとは なんたる不条理か。 離島出の蛮勇娘・クロ子の誘いに 盲従した報いが、これである。 私は腹が立ってきた。 よっぽど、彼女を責めようとした。 無鉄砲も大概にしろと。 が 同時に自身の主体性の無さにも辟易した。 指示待ち人間、道なき道を行く。 とどのつまり、これはおあいこなのである。 おかまの話は確かに面白かった。 だが、金が絡むと笑いは霧散する。 人間とはかくも不均衡な存在か。 良心とはなんだ。 私は無理やり、自分に言い訳をした。 あれはチップだ。 私たちこそ、あの悪辣な守銭奴に 良心をくれてやったのだ。 世知辛い世間を渡るため 私は度々、良心という不定形な概念に 折り合いをつけてお茶を濁す。 クロ子はといえば 「楽しかったから、まあいいじゃん」と 涼しい顔で笑っている。 その笑みが羨ましく思えた。 彼女の豪放磊落な視界から見える世界は 幸せな光で満ちているのだろうか。 私は世界に苛まれているのだろうか。 否。悩み多き優柔不断な私の世界にも それなりに苦難という人間らしさが 満ち満ちているわけで そこを比べてしまっては いよいよ負けな気がした。 「どうしたの?」 「なんでもない」 それきり黙って歩きながら なんだかんだ 私たちは良いコンビなのかもしれない。 なんてことを思いつつ 私たちの飲み屋巡りは 大して酔うこともなく幕切れとなった。 その後、私は無理にクロ子を説得し ようやくスカイツリーに登った。 眼下に広がる街の灯火は まるでトロイアの城砦のようで 私は悠々自適の神気分に浸り 存分にゼウスの傲慢を 味わうつもりであった。 が、青い空の端に 茜色の夕焼けが大きく迫ってくる様が ハルマゲドンを想起させ 結局のところ「嗚呼、人生は黙示録」 などと訳のわからない感慨に沈みながら 私の姦しい休日は 静かに幕を閉じていくのであった。 🍎アカリ🍎 X *⋆⸜𝐧𝐞𝐰⸝⋆*公式LINE ✉️arabi_akari_otoiawase@outlook.jp ご予約詳細は🈁 ※公式LINEが凍結されてしまいましたので お手数をおかけいたしまして 恐縮ではございますが 再登録をお願いいたします。 ※9月後半はお休みいたします。ブログ一覧
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