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Blog@arabian浅草黙示録【上】――昼間の酒は 世界の終わりを 小銭で前払いする作法である。 「昼間から酒が飲めるんだって」 クロ子が気焔をあげている。 昼間から意識を酩酊させて 前後不覚を望むとは 何という不埒ものであろう。 そもそも、休日にとりあえず 浅草駅で待ち合わせをしてから ブラブラしようという約束に 30分も遅刻しておきながら 第一声がこれである。 大方この大雑把な友人のことであるから 目覚まし時計も掛けずに寝た横着の報復を いつも通り受けたに違いない。 仕事には一度も 遅刻をしたことがないと豪語する癖に 私との約束を その外に置いて反故にするとは 全体どういう了見であろうか。 私と仕事どっちが大事なのよ! という古からの伝家の宝刀の柄が 喉元まで出かかったが 返す刀で仕事と答えられる可能性も 往々にしてあるのであって そうなってはこちら矢も楯も堪らず そのまま絶縁と相成る未来も 想像に難くはない。 仕方がない。腐っても友情。 もし友情をバナナとするならば 腐りかけが一番美味しいともいえる。 私は、この腐れ縁の道の先に ひょっとしたらうまい話が転がっているのを 見つけるかもしれない という秘めたる打算を 頭の中で少しく弾いてから 雑技団よろしく宝刀の柄を 元の胃の中に収めた。 しかし聞けばこの女、夕べも遅くまで 会社の付き合いで飲み過ぎたために この不祥事をしでかしたとのことである。 であるならば、何故に重ねて酒を呑もう などという発想が出てくるのであろうか。 昼間から吞んで吞まれて呑まれて呑んで 微睡み、目を開けると見知らぬ天井。 ぐるり見れば、そこは寂れた倉庫。 半裸に剥かれたクロ子の両手両足は 安っぽい手術台に固定され 周りにはどう見てもカタギではない男たちが 不穏な笑みを浮かべている。 その間を縫って腰の曲がった初老の小男が キャスター付きのテーブルを 押しながら現れる。 テーブルの上には赤茶けたサビの浮いた 不衛生そうな鋏やメスがズラリ。 クロ子は漸く己の置かれた状況を悟る。 なんということか。 酩酊の末に路肩に酔い潰れ そこに通りかかって 自分の介抱を引き受けたあの紳士が 実は臓器売買の闇屋だったなんて。 そういえば、アカリは一体どうしたんだ? 友人のかかる異常事態を鑑みて警察を頼り 今まさに直談判を終えて助けをこちらに 寄こしている最中であろうか? いや、あの薄情者のことだ。 さては、酔いつぶれた私を よりによってこんな治安の悪い 浅草の路地裏にほっぽり出して お一人様でご帰宅しやがったに違いない。 許すまじき外道だ。 畜生の人非人め。 こうなったら末代まで祟ってやる。 例え私の臓腑が世界を駆け巡ろうと 恨みを宿した腎臓・肝臓が 移植者の意識を乗っ取り 必ずあの裏切り者を追い詰めるだろう。 そして無情にも夜の刻は 犠牲の嘆きを嘲笑うかの如く過ぎ去り クロ子の呪詛は倉庫を覆う 黒い靄と一体になって黄泉を流転。 一回りして浮世に辿りついたその怨念は 竜の口、獣の口、偽予言者の口から 三つの汚れた霊として顕現。 それらはアカリを見つけるや否や あっという間にかっ攫い、憐れ彼女は ハルマゲドンという巨大な厄災の中に 呑み込まれ消えてしまった。 アカリの行方は、誰も知らない。 なんてことだ。 話が黙示録にまで発展してしまった。 ええい、ヨハネ黙示録十六章のことなど 誰が信じるものか。 ともかくクロ子は想像力が足りないのだ。 かかる事件の待ち伏せの可能性を 露とも考えず 泥酔に泥酔を重ねようとは、何たる暗愚か。 離島生まれのこの女は、所詮 本土の土を踏むようにはできていないのだ。 そういえば、彼女の父親というのも 聞くところによると 津波にサーフボードを持ち出すような 向こう見ずの蛮族だったではないか。 クロ子も親譲りの無鉄砲で 子供のころから 損ばかりしているに違いない。 全くとんだ坊ちゃんである。 二階から飛び降りて 腰を抜かす方がまだしも健全だ。 「仲見世通りでお酒片手に 食べ歩きでもいいんじゃないの?」 「それじゃ飲みって感じがしないじゃん。 日中の酒場の雰囲気がいいんじゃん」 彼女は尻を落ち着けて飲むことに拘り 一向に譲らない。 どうやら、そうすることで 社会から這放たれた背徳感を より一層堪能できるという腹積もりらしい。 私は呆れ果てた。 そんなインスタントなアナーキズムのために どうして肝臓と休日を 潰さなければならないのか。 しかも彼女の示す酒場は 仲見世通りから大きく外れたところにある。 わざわざ浅草まで来たのにも関わらず どうしてそんな 僻地まで行かねばならないのか。 それより私は、スカイツリーに登って 蟻のような人混みを眼下に据えて トロイアを見下ろす ゼウスの気分など味わいたかったのに クロ子は全く取り合わず 気付けば通りを外れて 裏路地をズンズン進んで行った。 やんぬるかな、私は観念して 偽予言者候補の後を追いかけた。 🍎アカリ🍎 X *⋆⸜𝐧𝐞𝐰⸝⋆*公式LINE ✉️arabi_akari_otoiawase@outlook.jp ご予約詳細は🈁 ※公式LINEが凍結されてしまいましたので お手数をおかけいたしまして 恐縮ではございますが 再登録をお願いいたします。 ※9月後半はお休みいたします。ブログ一覧
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Blog@arabianチェキとドーナッツ【上】――推しという名の栄養素は 恥と感激とドーナツの味がした 私にも所謂、推しというものがいる。 どせいさんではない。 霊長類の女の子である。 あるYOUTUBEの企画から 一気に有名になったその子は 思いやりの権化だった。 容姿端麗にして純粋無垢。 人一倍に不器用なれど 目の前の不幸を決して放っておけない。 例え身体が震え、涙が流れようと 他人に降りかかる理不尽には 真っ向から立ち向かう。 自分のこととなると自信がなく臆病なのに 周りのこととなると瞬時に菩薩の面が顕れ ひたすら地母神の如く化す。 そこには自己保身も承認欲求もない。 苦しんでいる人がいたならば 己のことなど形振り構わず いつも全力で救済に努めるのである。 共感と、献身と、抱擁。 自分にできることは全部やって それで足りなければ 勇気を奮って迷わずその先へ足を踏み出す。 穢れなき思念。不純物なき波動の螺旋。 それは 自己犠牲と他者貢献と慈愛無辺の混合物。 彼女を天使と呼ばずして何と呼ぼう。 私は決してミーハーではなく むしろ芸能人に対して、人一倍に憧れなど 持ち合わせない人種だと思っていた。 それは、音響時代 数々の芸能人に不遜な態度を とられた経験からもきているのだろう。 楽屋裏で作られた イメージの仮面を抜いたアイドルは 大多数がふてぶてしく 傲慢で、高飛車だった。 しかしながら、脆さと強さが 紙一重に同居する彼女は 画面越しにも関わらず、その紙の隙間に すっかり私の心を 閉じ込めてしまったのである。 そんな稀有な性質が 世間に見つかってからというもの 彼女の人気はどんどん急上昇。 私もその人気に引き寄せられた 一人ではあるものの、彼女の笑顔が スポットライトの形をした ヤスリで削られていかないか 少し心配でもあった。 そう思うと、どうにも会ってみたくなった。 すると、間もなく催される レースクイーンのサイン会に 彼女の名前があった。 急に爆発的に存在を 世に放った彼女であったが その時は、まだメインの仕事が レースクイーンに留まっている 過渡期の狭間だったのだ。 ここで行かねば、永遠に会えない気がした。 根が人見知りの私ではあるが かくして腹を決め 初めての推し活に挑むことと相成った。 渋谷で開かれたサイン会場は 男性でごった返していた。 数える程度にチラホラ見える 私のような女性ファンは 場違いであるかのように浮いていた。 人生最初の推し活の いきなりのハードルの高さに 私は気圧されていた。 できればハードルの下をどさくさに紛れて 忍者走りで潜っていきたいような心持ちで 列の中に気配を消していた。 会場はパーテーションで 三つのブースに分けられ 三人のレースクイーンが 並列にファンと交流する形であった。 推しのブースは真ん中にあった。 そしてそこのパーテーションだけ 分厚く仕切られて 推しの姿だけが遮られて見えなかった。 両脇のレースクイーンの子たちは 申し訳程度の壁しか設置されておらず 列の中からでもその姿が確認できた。 そして膨大なファンの列は そのほとんどが中央に吸い込まれていった。 左右に行く者は 10人にひとりあればいい方であった。 芸能界においての、知名度という力の差が 容赦ない格差として眼前に展開されていた。 どうしたって愉快な顔には なれないであろう左右の子たちは それでも少ないファンが目の前に来ると 満面の笑みと黄色い声で 本当に嬉しそうに向き合っていた。 そんな彼女たちの姿を見ていると 私の心には変な靄がかかり 寂しい気持ちになった。 景色が寒色を帯びて見えた。 推しに会いに来たはずなのに いつしか彼女たちを 応援したい気持ちが強くなっていた。 がんばれ。貴女たちはとても素敵だ。 長蛇の列の中で 私は自分が一体誰のファンなのか なんだかわからない感じになっていた。 が、姿の見えない推しのブースからは 左右よりも一層 黄色い大きな声が絶えず響いていた。 途方もない人数と触れあいながらも 推しの声には一切 疲れも雑念も混じっていない。 毎回、新鮮に感激している様子が 壁越しに伝わって来た。 一時間近く 気まずさを感じながら並んでいる中で 推しのテンションだけは 全く落ちることがなかった。 一体どういう体力をしているのだろうか。 精神が体力を凌駕している? それにしたって 精神にも体力はあるはずだ。 だとするとこれは 感情が精神をも凌駕しているのだろうか。 そんな人間が本当に存在するのだろうか。 これだけの人数を裁くのには 如何に人間愛が強い子であろうとも どこかで定型な対応に ならざるを得ないのが定石である。 しかし、漏れ聞こえる推しの会話の中には ひとつたりと予定調和な文句がなかった。 微塵のおざなりもなかった。 メディアでの彼女の像が ある程度は作られたものであることも 覚悟してきたのだが 耳には全くそんなことは ないように聞こえた。 🍎アカリ🍎 X *⋆⸜𝐧𝐞𝐰⸝⋆*公式LINE ✉️arabi_akari_otoiawase@outlook.jp ご予約詳細は🈁 ※公式LINEが凍結されてしまいましたので お手数をおかけいたしまして 恐縮ではございますが 再登録をお願いいたします。 ※9月後半はお休みいたします。ブログ一覧
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