くたびれたパンプスの行方
どもあかりですども
こないだ電車に乗りましたらね
オバサマが最後に乗ってきまして
その瞬間
おばさまが電車に乗った刹那
おばさまの履いていた真っ赤なパンプスが
ホームと電車の間の奈落へ
おむすびころりん
焦ったおばさまは
片足が裸足のまま電車を降り
奈落を覗き込んでいる間に
電車の扉が
まるでおばさまを嘲笑うかのように
残酷なほど静かに閉じました
その時のアカリは
野次馬の彫刻の如く
じっとしていました
ただおばさまと
扉を隔てて向かいあって
遠ざかるおばさまの姿を
穴のあく程、眺めていたのです
アカリは揺れる車内で
己と向き合いました
あの時、なぜおばさまと一緒に
ホームに降りて、あの狭間の
深淵をのぞき込まなかったのか
時間に遅れるから?
そうではありません
アカリはただ
あの時、己以外も誰も
おばさまに駆け寄らない
そんな全体主義の意思から外れて
一人だけ色眼鏡で見られるのを恐れ
逡巡し立ち尽くしていたのです
結果、ホームの狭間を覗かなかったが為に
この世の狭間の煉獄へと
思考を投じることになったのです
アカリは傲慢です
阿呆なくらいに自惚れ屋です
電車の人々から嘲弄されるかも
ということを、何か自身の
酷い引け目でもあるかのように
思い込んでいたのです
アカリは、何でも他人と同じである
かの様に、人から見られたくて
たまらなかったのです
馬鹿な話です
電車の本数が遅れようと
大した違いがないはずだ
人と人との間に、
そんなに酷い差別はないはずだ
助ける時に助けなければ
人間の甲斐がありません
勿論、アカリにも
教育相当の良心はありますから
もし誰かアカリの傍へ来て
お前は卑怯だと一言
囁いてくれるものがあったなら
アカリはその瞬間に、はっと
我に立ち帰ったかもしれません
もしおばさまがその人であったなら、
アカリはおそらく
おばさまの前に赤面したでしょう
ただおばさまは
アカリが手を差し伸べるには
あまりに派手でした
あまりに滑稽でした
あまりにタイミングが面白すぎたのです
目のくらんだアカリは
そこに助けを出すことを忘れて
却ってそこに付け込んだのです
そこを利用して、おばさまを
日記のネタにしてやろうとしたのです
………
Let's have a nice day today!
🌙 アカリ 🕌
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