✴️幸せなお客様ってなんだろうを考える夜
ソープで働き始めてもうすぐ10年になろうとしている。今まで様々なお客様を見て来たし、数えきれないほどの出会いがあり、同じくらいの別れもあった。
ほとんどのお客様が1度きりで終わってしまうことも多かった初期の頃に比べて、ありがたいことに今では数年単位でのお付き合いをしてくれるお客様が多くなった。それは何故だろう、一体自分の何が変わったのだろうかと考えることもあるが、いつも答えは出ないままだ。
ただひとつ言えることは、私は【夢を見せるタイプの風俗嬢ではない】ということ。自分のキャラクターがハッキリしてから、お客様が付いてきてくれるようになったと感じる。それまでは『お客様の理想を演じなければならない』と常々思っていた。お客様の理想を叶えてくれる女の子、文字にするとこんなに素晴らしいことはないと思えてくるが、実際に体験してみるとイマイチ印象に残らない時間で終わってしまう。お客様の感想は総じて「いい子」だ。決してマイナスではないが、プラス評価でもない。他に遊びたい候補がいないときにはまた行ってもいいかな、営業の連絡があればまた顔を出すか、程度の評価に収まってしまう。エッチなことを期待して来たお客様に、期待通りのエッチな女の子を演じてあげる。お客様のその時その瞬間の欲求は満たせるけど、その子のことをもっと知りたいと思えるポイントがなかったのだろうと思う。だからその場限り、抜きたいだけのお客様しか昔は居なかった。
お客様は誰しも、源氏名として会っている女の子の素の姿を垣間見たいと思っているはず。しかも自分にだけその一面を見せてくれたら最高だ。今の私は限りなくプライベートの自分のままに近い形で、ほのかとして存在している。それは偽りの自分でいる時間が長くなればなるほど自分が苦しくなってしまうから。要するに、お客様のためではなく自分のためにである。
しかしながら、世の中には私とは正反対の営業スタイルの女の子も存在する。お客様のために『素の自分』を見せていく女の子だ。お客様は源氏名の女の子に会いに来ているが、その子が自分にだけ素の一面を見せてくれる、というエンタメを提供してくれるタイプである。悪い言い方をすれば、お客様は『騙されている』ことになるのだが、お客様はお金を払って自ら騙されに来ているのかもしれない。と思うこともある。だってソープなんて所詮遊びでしかないのだから。
お客様はしばしば、私と会っているときに他の女の子の話をしたりすることがある。最近気に入って通っている子が、本名は○○で、△△に住んでいるんだって。なんて呑気に教えてくれる。つまりは俺はそんなプライベートなことも教えてもらえるくらい仲がいい自慢、信頼度の高いお客様である誇りなのだろうけど、それを私に話してしまっている時点で信頼など1ミリも無くなってしまうことは心の隅に置いておいてほしい。そしてその情報は私がその女の子本人から聞いている情報とは一致しないことが多い。この業界、どこで誰に恨まれるかわからない世界であるから女の子同士でも秘密主義なのは当たり前で、お互いに踏み込んだ話はしないようにするのがマナーだと思っている。女の子同士でさえ警戒をするのに、お客さんに個人情報を教えるなんてことは考えづらいので、おそらくそのお客様はその子の『設定』を教えてもらっているだけなのだけど、そんな話をしているお客様の様子がたいそう楽しそうなのである。
そんなお客様に遭遇するたびに、なんて幸せなお客様なんだろうと、お相手の女の子に感心してしまう。私には出来ない、お客様に【夢を見せるタイプの風俗嬢】だからだ。
私は何事にも正直であり、事実が正義だと思うタイプの人間だけれども、夢を見せるタイプの女の子に通うお客様は、それが虚構だろうと幸せそうで楽しそうなのである。それを目の当たりにするたびに、今の自分のスタイルは本当に正解なのだろうかと自信が揺らいでしまう。普段は自分の元へ通ってくれるお客様を幸せにしている自負があるのに。
人には人の正義があり、苦悩がある。どれが正解ということはきっとないのだろうけど、正直目の前のことを一切疑うことなく楽しめるお客様が羨ましい。幸せなお客様とはたぶんそういう人のことなんじゃないかな、と私は思う。ソープランドは桃源郷のようなものなのだから